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Hardcore x Dubstep = Corestep

ハードコア・テクノとダブステップを融合させた超ニッチなサブジャンルとして「Corestep(コアステップ)」というものがあった。記憶が正しければ、オランダのドラムンベース・ユニットSinister Soulsがコアステップという名称を使い始め、このサブジャンルの可能性を広げようとしていた。

Adriaan de KoningとFred Huurdemanによって結成されたSinister Soulsは、ハード・ドラムンベース/クロスブリード・シーンの人気ユニットとして多くの傑作を残しているが、当初はダブステップをメインとした活動を行っていた。
ブロステップの象徴的な存在であるExcision主宰レーベルRottun RecordingsからSinister Soulsのデビュー・シングル『Definition Of Silence』はリリースされ、Section 8 RecordsやDub Bullet Recordingsといったダブステップ・レーベルや、オランダのブレイクコア/ジャングル・シーンとも密接に繋がっていたMindtrick RecordsからもEPを発表。

元々はドラムンベースやブレイクコアの影響下にあった彼等はすぐにそれらの要素をダブステップに反映させていき、2010年にリリースされたMike NRG「Lost In Dreams (Sinister Souls Lost In Nightmares Remix)」にて、ガバキックを使ったダブステップを披露。このリミックスが彼等のコアステップの原点だと思える。

「Drum & Bass、Dubstep、Breakcore、Tekno、TechnoからHardcoreに至るまで、多様なジャンルからインスピレーションを受けてる。影響を受けたアーティストは、Black Sun Empire、Bong-Ra、Noisia、The Prodigy、Spor、Concord Dawn等。郷愁に充ちたアーティストが特に多いかも。」

Sinister Souls interview 2012

Mike NRGのリミックスが話題となり、Sinister Soulsはハードコアxダブステップの混合を押し進め、幾つかの実験を経た後『In The Filth』というメガトン級のハードコア・ダブステップ・スタイルを生み出すことに成功。今作は、オランダという国で育った彼等だからこそ作れたトラディショナルなハードコア・サウンドを存分に詰め込んだ力作であり、ハードコア・テクノの進化系として、ハードコア・テクノの歴史にしっかりと刻み込んでおきたい革命的な作品だ。

同時期、ハードコア・ドラムンベース界隈でもダブステップに接近する動きが活発化。ブルガリアのCoohはBalkansky、ドイツのDean RodellとCurrent Value、ポーランドのBrainpainなどがハードコア・ドラムンベースの要素を持ったハードなダブステップをクリエイトし、Sinister Soulsと共にその可能性を模索していた。

「ダブステップは、つい最近の2007年頃、ちょっと見え透いた感じに台頭してきたシーンだと、僕らは2人とも思ってた。 キック、クラップ、サブアレンジメントだけで出来てて、ダンスフロアを沸かせるために作られてわけでも無くて。だから、僕らはDrum & Bass/Hardcore/Breakcoreの塊を、140bpmのDubstepに放り込んで、極悪にした。
当時、僕ら以外にそういう音楽をやってる人は居なかったから、これでハードコアダブステップの道が開いたんだと思う。」

Sinister Souls interview 2012

日本ではDJ TECHNORCHがアルバム『I WANNA BE A HAPPY』収録の「Love Love Love You I Love You (Eye's by Eyes Remix)」でコアステップに共鳴する曲を披露。2012年に配布されたFUTON DISCO(Raveman)との非売品スプリットMix CDには、ハードコア・テクノの要素があるダブステップ(ダブスタイルと言われていた)をまとめた「EXTREME BLACK SET」を提供しており、ハードコア・テクノとダブステップの混合スタイルをいち早くパッケージングしていた。

コラボレーションEPシリーズ『変身 第​一​形​態​~​The Metamorphosis 1st Form~』ではダブステップ・プロデューサー/DJの100madoとの共作「変身 ~The Metamorphosis~」でハードコアとダブステップの理想的な混合スタイルを生み出す。同EPにはSinister Soulsも参加しており、DJ TECHNORCHの代表曲「Gothic System」をコアステップ化。インダストリアル・ハードコアに通じる歪んだスラッジーな作風でマニア達を唸らせていたラトビアのOyaarssによる「Love Love Love You I Love You」のリミックスも、コアステップに近いものがある。

Sinister Soulsがコアステップを提唱する前にも、近しいスタイルはあった。ドラムンベースとインダストリアル・ハードコア・シーンを結んで重要人物であるSPLは、2000年代後半からダブステップをクリエイトし、2010年にリリースしたSPL & Triage「Valhalla」ではハードコア的なフィーリングのあるダブステップを披露している。

Broken Noteとしてハードコア・ドラムンベース/ダブステップをクリエイトしていたEddie Jefferysはダブステップ・ユニット16bitの活動においても、ハードコアやブレイクコアの要素を取り入れていた。
オランダのMunchiはバブリンやムーンバートンにオールドスクールなガバからスカルステップ、ダブステップを混ぜ合わせ、NoisiaやSkrillexのリミックスでそれらの混合スタイルを披露。2010年前後は、オーヴァーグラウンドなダブステップ界隈にも、ハードコアなサウンドが微量ながら流れていた。

Sinister Soulsは2012年に発表したアルバム『Beat The Drum Hard』以降、ハード・ドラムンベースに切り替え、コアステップはクリエイトしなくなる。
だが、ブロステップの影響をハードコア/ドラムンベースの中で消化したトレンディなスタイルをLowroller、N3AR、The Outside Agency/DJ Hidden、Dolphinが作り出していき、興味深い作品が幾つも残されている。それらは今聴いても変わらない素晴らしさがあり、Sinister Soulsが切り開いた道には大きな意味があったのではないだろうか。

非常に短命に終わったコアステップであるが、いつの日か誰かによって進化した姿を我々に見せてくれる日がくるかもしれない。





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