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Drumcorps『Creatures』

2006年に発表した1stアルバム『Grist』によって、ブレイクコアだけに留まらず様々なジャンルに多大な影響を及ぼしたDrumcorpsが7曲入りの新作ミニアルバム『Creatures』を自身のBandcampで公開した。

数年の空白期間を経て、2021年に突如としてリリースされた二つのEP『For The Living』『Better Days』では、グリッチ・サウンドを大幅に取り込み、マスコア的なプログレッシブな展開とブレイクコアのアナキズムをハードコア・パンクに注入し、自身のアグレッシブなボーカルとギターを押し出した絶対的な傑作を我々に届けてくれた。そして、今回リリースされた『Creatures』は前作と同じ方向性を進みながらも、更に複雑に緻密に作り込まれた妥協のない傑作を作り上げている。

『Creatures』が出来上がるまでの、Drumcorpsの大まかな歴史を辿ってみよう。

USハードコア・ジャングルの血脈を受け継ぎながら多種多様な音楽のバックグラウンドを反映させたジャングル・スタイルで活躍するAaron Spectreによるポスト・ハードコア/メタル・プロジェクトDrumcorpsは、2005年にBong-Ra主宰レーベルKrissからデビュー・レコード『Rmx or Die』を発表して本格的に活動を開始。

『Rmx or Die』はConverge「The Saddest Day」「Eagles Become Vultures」、Botch「Thank God for Worker Bees」、Asesino「Asesino」といったポスト・ハードコア~グラインドコア・バンドの曲を超高速アーメン・ブレイクでマッシュアップ/リミックスしたブートレグな10"レコード。非常にシンプルな作りであったが、その大胆な発想と驚異的なプログラミング技術を駆使して生み出されたマッシュアップ/リミックスは一瞬にしてブレイクコア・シーンを震撼させ、レコードは即完売。この一枚の10"レコードだけで凄まじい数のフォロワーを生み出した。

そして、2006年に12"レコード『Live And Regret』と1stアルバム『Grist』をAd NoiseamとCock Rock DiscoのWネームで発表。『Rmx or Die』で開拓したマッシュアップ/リミックスの手法を更に押し進めつつも、自身が弾いたギターやゲスト・ボーカルなどをフィーチャーし、オリジナルのメロディやフレーズを多く組み込んでいた。Cardopusher、Igorrr、Stazma、Gore Tech、Munchiといったブレイクコア第三世代的な立ち位置のアーティストは特にこの時代のDrumcorps作品からの影響が強く感じられ、『Grist』で開拓した手法はブレイクコア以外のジャンルにも広く受け継がれているのは確実だ。

『Grist』はセールス的にも成功を収め、Drumcorpsは活動の場を一気に広げ、その存在はポスト・ハードコア/メタルのファンにも知られるまでとなる。

『Grist』以降、ハードコアやメタルのバンドをブレイクコアナイズするDrumcorpsのスタイルはエクストリーム・ミュージック好きから絶賛され続けていたが、本人は自身のオリジナリティを深く追求し始め、以前のようなマッシュアップ/リミックスを封印。2008年にリリースされたGenghis Tronのリミックス集『Board Up The House Remixes Vol. 3』に提供した「Relief (Drumcorps Remix) 」や2010年にDrumcorpsのWebサイトで公開したシングル「Headstrong And Heartfoolish」でテンポを落としたメロディアスなスタイルを披露し、過去のスタイル/イメージから脱却しようとしていた。

その後、長い沈黙の後に発表された2ndアルバム『Falling Forward』で始めて自身のボーカルを披露し、曲の構成はブレイクコア的な要素を抑え、よりバンド的なグルーブを重視した重みのあるハードコア・サウンドを展開。Mike Justian(Madball)、Iggor Cavalera(Sepultura)、Leo Miller(Animosity)といったハードコア~メタル~デスコア・バンドのメンバーを招き、生楽器とボーカルをメインとしたDrumcorpsの新境地を開拓した。

『Falling Forward』の発売後は幾つかのリミックスやコラボレーション・ワークをこなしていたが、Drumcorpsとしてのオリジナル作品は発表されないままであった。この期間(2010年代後半)はAaron Spectreとしてのジャングル/ドラムンベースのリリースが多く、DJセットも再開。この時期に得たニューロファンクやジャングル・リバイバルからの刺激が、去年リリースされたDrumcorpsの作品にも少なからず影響を与えているのではないだろうか。

数年の空白期間を経て発表されたDrumcorpsの『For The Living』『Better Days』『Creatures』を聴けば、彼がアーティスト/演奏家として各段とレベルアップしているのが分る。ギタリストとしても個性的な音を奏でており、ボーカリストとしての迫力と存在感も以前とは比べ物にならない。
数十年に渡って、ジャングル/ドラムンベースとブレイクコアのDJ/Liveセットを行い、ダンスミュージック・シーンで活躍していただけあり、そこで得られた感性がバンド・サウンド/グルーブに今までなかった側面を付け足せている。

現在のDrumcorpsはブレイクコアでもポスト・ハードコアでもない、まったく新しい次元のエレクトロニック・ハードコア・パンクを生み出している。『Rmx of Die』からのファンとしてはDrumcorpsが進化し続けている姿を見るのは誇らしく、勇気を貰える。今後どういった活動を進めて行くのか、どんな新しい作品を聴かせてくれるのか本当に楽しみでならない。



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