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鳥取砂丘は宇宙!?壮大なポテンシャルと足元の現実をどうすり合わせるか、それが問題だ|山陰事業創出ワーケーションツアーレポート・前編

先月、鳥取でおこなわれた「第1回山陰事業創出ワーケーションツアー」に参加してきました。全国各地で地方創生ビジネスなどを手掛ける企業から約20名の参加者が集まり、鳥取市における新規ビジネスの可能性を探る2日間のプログラムでです。デジタル領域や民泊事業、コミュニティ創出などを強みとする多士済済な顔ぶれのなかで、未来への革新的な発想と地方のリアルな課題とを行き来する刺激的な時間を過ごすことができましたのでレポートします。

砂丘と海を望むワークプレイスで

初日の会場は鳥取市に今年5月オープンしたばかりのワークプレイス『SAND BOX TOTTORI』。鳥取砂丘コナン空港からタクシーで15分ほど、鳥取砂丘を望むガラス張りの開放的な建物は、1階がカフェ、2階はオフィスブースやミーティングルームというなんとも素敵な空間。1階のカフェは地元の方や旅行者の利用も歓迎で、砂丘でのアクティビティ(パラグライダーやサンドボードなどができる)を利用する人向けに更衣室やシャワーまで完備しています。失礼ながら地方のワークプレイスというと、てっきり古い建物をリノベーションしたものと思い込んでいたので、新築の明るい室内を見てすっかり心ときめいてしまいました。運営を手掛けているのは地元のベンチャー企業「株式会社Skyers」。事業の柱はドローンパイロットの養成スクール運営ですが、地元企業や行政との連携を積極的におこなうなかでこのワークプレイスを開業したそうで、今回のツアーの主催者でもあります。こんな快適な環境にお邪魔して、初日は集中的に参加者同士の情報交換やワークショップがおこなわれました。

なぜ甲子園の時にしか地元愛を語らないのか

冒頭はAirbnb Japan株式会社の谷口紀廉さんより、地方でのAirbnb活用の事例をお伺いしました。Airbnbといえば言わずと知れた「民泊」ですが、地方においては空き家活用を起点とする地域活性化に非常に大きな役割を果たしていて、地方自治体と連携して取り組んだ事例もご紹介いただきました。地方のような資金力やプレイヤー不足に悩む場所では、デジタルでのシンプルなプラットフォームの提供や、ホームシェアリングなどの個々人がオーナーとなってサービスを提供できる環境を整えることは、地域のポテンシャルを活かすためにもとても有効です。特に鳥取のような、都市部からも遠く、全国的にもプレイヤー不足に悩んでいるであろうエリアにおいては、かえってその効力を高く発揮できると思うのですが、とはいえ実際には外部事業者(まして外資系)との連携は簡単そうで簡単ではないのかもしれません。ロジックだけでは片付けられない心理的ハードルも含まれることは想像できるのですが、多くの事例が共有されることで積極的な活用が進めばいいな、と率直に思いました。

続いておこなわれたワークショップでは、参加者が自分の暮らす地域の課題を「問い」として出し合い、解決を考えてみる試みを実施しました。日頃「ダメだ!」と感じる部分を、「なぜうまくいかないのか?」「なにが阻んでいるのか?」という視点に切り替えることで、前向きに捉え直そうとするものです。

―どうして「地域課題」ってマイナスに捉えがちなのか
―どうして地元住民と移住者コミュニティには乖離ができてしまうのか
―どうして「うちの町には何もない」と言いがちなのか

などなど、それぞれの体験からくる実感のこもった問いが投げかけられました。経験豊富な参加者同士で知恵を出し合ってみると、それなりにリアルな解決策らしきものも見えてきて、早速地元に戻ったら実行してみようとワクワクしてきます。

個人的に面白かったのは「なぜ甲子園の時にしか地元愛を語らないのか」というもの。たしかについ先日のサッカーW杯でも、急に「○○選手は地元の出身だ」と言い出す人がたくさんいて、「だったらもっと普段から応援してあげたらいいのに」と思ったばかり。なにかをきっかけに地元愛が芽生えたり親近感を感じたりするのは悪くないのですが、人の心は移り気で、翌日にはもう「うちの町はダメ」なんて言い出すので、その乱高下はどうしたことなのでしょうか。

特別に観光などの仕事にでもついていない限り、あらためて「あなたの地元のいいところは?」と聞かれても「自然が豊か」くらいにしか答えられない人は多いもので、それと同時に、地元愛を語るのはどことなく気恥ずかしさが漂うし、長く暮らしているからこそネガティブな部分も見えてしまう。素直に地元を誇れるのは、甲子園で地元の学校が活躍した時くらい…というのはわかる気もします。

もしかすると問題の本質には、実際の事実よりもはるかに深いところで、地元愛、プライド、謙遜、同族嫌悪、未知なるものへの不安など、人の本能的な感情が横たわっていて、乱高下する感情もまたリアルなのかもしれません。地域課題というのは思っていたよりも繊細で、お互いの複雑な心情もリスペクトしたうえで、共創しあえるか、winwinの関係を模索できるかが重要な視点なのではないかと感じました。

鳥取砂丘で月面着陸を体験せよ

ワークショップを終え参加者が夕食前の休憩をとっている間、さきほどのミーティングルームには慌ただしく椅子やVR機材がセッティングされていました。この日最後のプログラムは…なんと「月面探査」。

実は鳥取県では、近年「宇宙産業」との連携を積極的におこなっています。その理由は鳥取砂丘が月面と酷似しているから。鳥取砂丘の広大で細かい砂地と起伏に富んだ地形は、例えば月面探査機のタイヤの走行実験や月面に建設する建物の実証実験などの拠点として日本でもっとも適しているというわけです。遠くない将来に訪れるであろう「月の都市化」に向けて様々な業界が実証実験に乗り出すなか、鳥取県としては実証フィールドや補助金などによってそれらの活動を支えていこうとしています。

現在、一般の旅行者が鳥取砂丘で体験できるのは、xRを使って月面に降り立つ宇宙飛行士になりきれる体験アクティビティ、その名も『月面極地探査実験A』(不定期開催)。今回はこのアクティビティをプログラム参加者に向けて特別に提供していただきました。VRゴーグルをかけて地球からスペースシャトル打上げを体験したのち、さらに月面(砂丘)を動き回りVR空間に出現した仮想の月面都市を探索していきます。映像や音声には実際に1969年にアポロ11号が月面着陸に成功した際のものも使われていて、臨場感を増しています。この日はあいにくの雨のため室内での縮小版となりましたが、本来であれば真っ暗な砂丘で開催となり、静けさと肌に感じる風も相まって、よりリアルに月面を感じられるはずです。

NASAが提案している月面探査プログラム「アルテミス計画」では、2025年以降に月面に人類を送り、その先には月での人類の持続的な活動をめざしています。はるか先の人類の夢を思われていた宇宙計画は、実は想像していたよりも身近なところにあり、しかもその拠点は鳥取にある!というのはなんともワクワクしてくる話です。その派生ビジネスも含め、鳥取県における新規事業を考える上で、外すことのできない要素になりそうです。

月面探査を体験後は、1階のカフェコーナーでの夕食。地元食材をふんだんに使った特別メニューを用意したくださり、世の中で一番お刺身が好きな私としては大満足の締めくくりとなりました。

羽田空港から鳥取砂丘コナン空港(冷静に見るとかなり強引なネーミング!)までは約1時間20分。1日5便ほど運行していて、思っていたよりもずっと手軽に行けることがわかりました。関西方面や岡山、福岡などから訪れていた参加者も、「意外にラクに来れた」「次は家族を連れてきてもいいな」という印象だったようです。鳥取県や鳥取市では新規事業創出のための充実したサポートがあり、またSAND BOX TOTTORIという強い味方もあります。一方で、鳥取県、鳥取市ともに人口は年々減り続け、プレイヤー不足、経済規模の縮小は深刻な問題です。地理的にも気候的にも厳しい条件であることは間違いありません。宇宙規模の壮大なポテンシャルに期待を馳せながら、足元の現実もコツコツとクリアしていかなければならない…脳内の行ったり来たりが問われそうだなと感じながら、2日目へと続きます。
(後編に続く)

参考:
SAND BOX TOTTORI
鳥取県『宇宙産業創出・鳥取砂丘月面化プロジェクト』
株式会社amulapo(アミュラポ)
月面極地探査実験A

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