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35年ぶりに読んだサイバーパンクSFの原点「ニューロマンサー」

みなさん、こんにちは。
高校生の頃からSF大好きの"えふらいん"です。 今回は思い出深いSF小説「ニューロマンサー」についてご紹介したいと思います。


出会いは35年前

この小説を始めて読んだのは高校生の時でした。
当時ハヤカワ文庫のSFを片っ端から買って読んでいた私は、どういう流れだったか忘れましたが、「ヒューゴー賞、ネビュラー賞受賞」という帯と印象的な表紙絵に惹かれて買ったんだと記憶しています。今回の記事タイトルに使っている画像は当時の表紙絵です。今は変わってしまいました。
それが35年間、何度かの引っ越しでも捨てずに残っていた希少な一冊です。
一時期は50冊以上、自宅の本棚にハヤカワSFが並んでいました。そこらの書店より多かったと思います。ある時、今後は電子書籍でいいや!と思って一気に処分したのですが、何冊かだけは捨てきれずに手元残した、そのうちの一冊です。
ちなみに他に残したSFはというと、フィリップ・K・ディックが何冊か。これもまたいつか記事にしてみたいと思っています。

えふらいん名前の由来

"えふらいん"という名前の元ネタは実はコレでした。小説の中に出てくる伝説のハッカーがいて、その人の俗称が「フラットライナー」だったんです。このハッカー、なんと電脳空間でとある組織をハッキングしようとした際にAIに逆襲されて一瞬脳波が水平線(フラットライン)になったという。だから「フラットライナー(水平線野郎)」と呼ばれているんです。
なんか高校生の自分にとっては、凄くクールなキャラクターに思えたんですよねぇ。凄腕のハッカーで脳死から生還した、なんて。
そこでフラットライン(Flat Line)を省略してF-Line、エフラインというハンドルネームを名乗って、当時のパソコン通信(インターネット以前!)にアレコレ書き込みをしていました。1990年代の頃です。

どんな内容?

かなり大人になって、自分の子供が高校生を過ぎてから読み返してみたわけですが、改めて読むとなんてどぎつい内容!これは高校生向きではないですね・・・
酒に薬に暴力に性に、今なら但し書きが付きまくるような内容でした。
いやあ、そこまでどぎつい内容だったかなあ?
印象に残ってるのはただただクールな内容だったという思い出なんだけど。

冒頭からテック系専門用語の嵐で読者の脳内をかき回すような文体で、それ自身がもう従来のお行儀のよいスペースオペラSFとは違ってました。ハインラインとかアジモフとかも良いんですけどね。その怒涛のような文体もギブスンの個性で、今の設定中毒のアニメにも通じるものがあるんじゃないかしら?「サイバー」で「パンク」という呼び方は、このあたりのスタイルから来ているんじゃないかしら。

物語の舞台は未来の千葉市から始まります。ブレードランナー映画版にも影響を与えた怪しいアジアのハイテク暗黒街の猥雑さが展開されます。(順番的にはニューロマンサーの方が先です)
主人公は元ハッカーで、額に電極(トロード)を貼って直接「電脳空間(サイバースペース)」に接続して機密情報を盗んで売っていたのですが、ある日とある仕事で失敗をし、その制裁として脳をいじられて電脳空間に接続できなくなってしまいます。そこで闇の手術をする医者を探して日本に流れ着いたわけですが、なかなか技術を持った医者が見つからず、手持ちの「円」も底をつき、夜の街で薬漬けになりながら怪しい仕事をして毎日を過ごしている・・・

どうでしょうか?少しは雰囲気が伝わったでしょうか?
しかし作者のウイリアム・ギブスンは当時パソコンも触ったことが無く、日本にも来たことが無かったというから妄想のたくましさに驚きます。
まあ、かえって知らない方が好き勝手書けるのかもしれませんね。

これ以上内容を書くとネタバレになったしまうので、Amazonでレビューに書かれている程度に紹介すると、主人公のケイスは「カウボーイ」という今でいうハッカー、当時としては斬新だった直接ネットに脳を接続する「没入(ジャックイン)」という設定がカッコよかった!マトリックスやJMよりも前ですよ。

ヒロイン役が眼窩に直接ミラーガラスを埋め込んだモリイという女性で、手の爪にはカミソリが仕込まれていて猫のように出し入れできるという設定。これまた攻殻機動隊やブレードランナーのレプリカントに影響を与えたであろうキャラクター。ルパン三世の峰不二子をさらにクールでワイルドにした感じ?(違うか)

そんな二人を軸に、伝説のハッカー「フラットライナー」の人格をアップロード(!)したというROM人格構造物とやらを盗み出す仕事から始まり、果ては謎のAI「冬寂」(ウィンターミュート)を追いかけて宇宙コロニーまで潜入する、という壮大なストーリーが展開されます。

本のタイトルの「ニューロマンサー」とは何か?
それは読んでからのお楽しみという事で。
本の紹介はこの辺にして、興味を持たれた方はAmazonから是非どうぞ。

私が読んだ時とは表紙が変わってしまっていますが、今でも色褪せないサイバーパンクSFの原点と言える1冊です。

なぜ今「ニューロマンサー」なのか

さて、なぜ2023年の今になって改めてニューロマンサーを読もうと思ったのか?それは別の記事で書いた「AIの遺電子」を読んだのがきっかけです。そして「AIの遺電子」を読むきっかけになったのは2022年末のChatGPTから始まった生成AIブーム。
そう、高校生の時に夢想したサイバーパンクSFの時代が、ついにきたかも!という想いからです。

主人公のケイスよろしくジャックインして電脳空間にダイブ、無限に広がるサイバー空間を縦横無尽に駆け巡り、氷(アイス)を破って秘密のエリアに侵入する、そんな冒険活劇SFの時代が本当に始まるのかも!?なんて。
すでに1日の大半をメタバースで過ごしている人は、近い感覚では無いでしょうか?

あらためて読んでみて思ったのですが、今読んでも全然色あせてないどころか、どれだけ現実がギブスンの描いた世界に近づいてきたかという印象です。
インターネットが世界中に爆発的に広がり、もはや物理空間よりはるかに広大で複雑な情報空間が生まれています。そこでは一人の人間が一生かかっても処理できない情報が蓄えられ、日々、時々刻々と書き足され、また人と人のコミニュケーションも0と1の信号を通して爆発的に増加・記録されていっています。

そんな時代に、我々は今生きているのではないでしょうか?
そしてそれが必ずしも人類を幸福にしたわけでもなく、かといって不幸にしたわけでもなく、相変わらず善と悪と、本当と嘘と、あらゆるものが混とんと交じり合った中を、一人一人の個人は日々あれこれ悩みながら、楽しみながら、今日も生きているんだよなあ、と。

そしてスノウ・クラッシュ、AIの遺電子

ちまたでは「スノウ・クラッシュ」の方がGAFA創業者達が絶賛していたとかで何かと話題に取り上げられていましたが、自分としてはこの「ニューロマンサー」の方が原点中の原点だろう、と思うわけです。
とはいえ「スノウ・クラッシュ」も遅まきながら読んでみたので、近日記事にしたいと思いますが、自分としてはメタバースの原点という部分よりも、自然言語とプログラミング言語を対比した世界設定の方が面白いな、と。
これはこれでまた後日にでもたっぷり書ければと思います。

ちなみに2016年に書き始められた「AIの遺電子」では、もう少しソフトに、より自然な「あり得そうな近未来」として、ヒトとヒューマノイドと産業AIと超AIが交錯する世界が描かれています。こちらはむしろ哲学的な問いや倫理的な問いが際立っていて、非常に考えさせられるマンガです。
作者が日本人だからか、わりと平和的、仏教的、東洋的なハイテク未来像なのかな?(考えすぎかもしれませんが)

さいごに

SFの中ではAIもサイバー空間も、結構昔から繰り返し描かれてきた設定ではあるのですが、「ニューロマンサー」「スノウ・クラッシュ」「AIの遺電子」と、自分の中では時系列的につながっているSF世界になっています。
思い返せば70年代はアポロ計画に代表される宇宙開発黎明期でした。70年代はボイジャー計画に代表される宇宙探索期。そのまま銀河に人類が広がって言ってスター・ウォーズやスタートレックの時代になるかと思っていたら、ソ連の崩壊で冷戦が終わり、宇宙開発も下火になりました。
そんな頃に盛り上がってきたのがサイバー空間を舞台にした新未来感「サイバー・パンク」だったんだろうと思います。ちょっと未来がどっちに行くのか分からなくなった時代、そんな時代の不安感をSFも反映していたんだと思います。
そして今は、AIが新しい未来を連れてくるかも!という期待感と、本当にそれは人類にとって幸福な未来といえるのか?といった不安感と、やはりうねうねと様々な思いが交錯している時代なのかもしれません。

おまけ

改めてウィキペディアで調べたら、「サイバー」の語源はサイバネティクス(cybernetics)らしいですね。生理学と機械工学、システム工学、情報工学を統一的に扱う学問領域だそうで。確かに当初はサイボーグとか、人体と機械の接合とか、そういったギミックが多かった気がします。攻殻機動隊なんかもそうですよね。アキラはさらに生理学的なニュアンスが強いかな。

「サイバー」今ではすっかり「インターネット的な」という意味合いで使われてますよね。サイバーテロとか。こういった新しいコトバも、30年も経つとニュアンスが変わっていくんだなあ、と、これは本編とは関係ない感想でした。

今回のお話はここまでです。
最後まで読んでいただき有難うございました。
また気が向いたら立ち寄ってください。

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