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「日本昔話再生機構」ものがたり 第3話 産業医の闘い 2(最終回)明日へ

『第4話 スパイたち 6.  カウンターパンチ』からつづく

 『第6話 乙女の闘い 11(最終回)明日へ!』からつづく

 スリナリ医師は、産業医として赴任した新しい組織で従業員の健康管理記録に目を通していた。スリナリ医師が与えられたオフィス兼診療室は厚い防音壁で覆われた窓のない部屋だったが、それでも外の騒音と振動が伝わって来て、テーブルの上のラムネソーダのグラスを揺らした。

「思ったよりひどいな」
スリナリ医師は声に出してつぶやいた。ひどいというのは、この組織の健康管理体制であり、従業員の健康状態だった。
――抜本的な見直しが必要だ。「日本昔話再生機構」時代どころのものではない、上層部との厳しい軋轢を生みそうだ。
 しかし、スリナリ医師は恐れや不安は感じなかった。裏ラムネットで地球連邦政府のスパイ活動とクローン・キャストの過労を訴えてからというもの、「なんとかなる」という自信のようなものが、彼の中に生まれていた。

 来客を告げるベルが鳴った。インターフォンの監視カメラには、見慣れた顔が映っていた。スリナリ医師はドアを開錠した。元々のカーキ色が分からないくらい汚れのにじんだ作業服を着た男性が部屋に入って来た。
「先生、お久しぶりです」
男性が、粉塵で真っ黒な顔をほころばせた。
「ここはいいですよ。『機構』と違って、予約さえ入れれば、こうして産業医の先生と直接会えるのですから」
男性が続けた。

「そうですね。それだけが救い、とも言えますが」
スリナリ医師は男性に微笑んで返した。
「いかがですか? 健康診断を始める前に、ラムネソーダで乾杯というのは?」
「いいですね」
スリナリ医師は新しいグラスにラムネソーダをなみなみと注いで男性に渡し、自分のグラスにも注ぎ足した。
「では、先生のラムネリウム鉱山着任を祝って」
と言って、男性がグラスを差し上げた。
「また、コーイチさんと一緒に働けることを祝って」
スリナリ医師もグラスを差し上げた。
二人は声をそろえた。
「乾杯!」

 スリナリ医師は、「日本昔話再生機構」からこのラムネリウム鉱山に追放されてきた元ヘルプデスク担当のコーイチとともにラムネソーダを飲み干しながら、ラムネリウム鉱山の産業医として明日へと進んでいく決意を新たにするのだった。

『第3話 産業医の闘い』おわり