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「日本昔話再生機構」ものがたり 第4話 スパイたち 7(最終回)明日へ

 サタリアは、新しいオフィスでニューラルコンピュータを立ち上げた。オフィス移転を期に、新しい機種に交換されたので、作動が格段に速くなっていることをサタリアは喜んだ。

 ドアが生体認証が入室者を確認したピーという電子音を発し、「スカウト」が入って来た。「スカウト」は50代の地球人男性で、地球連邦中央情報局のためにラムネ星人の工作員をスカウトしている。サタリアも彼にスカウトされて、ラムネ星浸透チームに加わったのだ。

「スカウト」が室内を見回して、言った。
「前のオフィスよりさらに『機構』本部に近づけたら賃料が高く、だいぶ小降りになってしまった。今は君ひとりだからいいが、そのうち工作員が増えたら手ざまになるが、我慢してくれ」
「ラムネ星統合警察の監視が強化されているのに、こんなに『機構』本部に接近していいのですか?」
「監視が強化されたから、より近づいたのだ。統合警察は、地球のスパイが『機構』本部の目と鼻の先に本拠を構えているなどと、思いもするまい」
「それならいいのですが」
サタリアは不安を隠せなかった。

「それより、私が新しい工作員をスカウトしてきたら、君が教育係になって、電子的スパイ活動を教え込んでやってくれ」
「ジョモレさんのような人的諜報要員も採用するのですよね」
「スカウト」が首を振った。
「当分は、電子的スパイ活動一本でいく。ジョモレの件で、本部はショックを受けている。チーフがジョモレと男女関係にあったことを告白したので、なおさらショックは大きくなった」
「スカウト」が大きくため息をついた。
「私も、ジョモレをスカウトした責任者として地球に送還されるものと覚悟していたが、君のおかげでクビがつながった」

「私のおかげ?」
「スカウト」がうなずいて、つづけた。
「君が『機構』と『審査会』の癒着の状況証拠を見つけたことを本部は非常に高く評価しているのだ。私がジョモレをスカウトしたマイナスを、君をスカウトしたプラスが補ってくれた。君には感謝する」
「スカウト」に頭を下げられ、サタリアはどぎまぎした。

「私の判断のどこがまずかったのかは反省しなければならないが、日常業務は明日へ向けて進めていかなければならない」
「明日へ?」
「そうだ、『明日へ』だ」
「明日へ……」
サタリアは、「スカウト」の言葉を複雑な思いでかみしめるのだった。

『第4話 スパイたち』おわり