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【後編】未来の自分の歌いざまを想う。吉田チキンの帰る居場所

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*本記事は、ふくしまFM「FUKU-SPACE」12月7日放送の「つながる音楽」のコーナーと連動しています。あわせてぜひお聞きください。
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あの時のライブの感覚は、本当に真っ直ぐだった

——割とそれ以降もコンスタントに?

 コンスタントっていう感じではなくて、「呼んでもらえたら出よう」って思って。
 1回目のライブが終わってから、次のライブの声掛けをいただけたんです、高校生枠みたいなので。その時点でもう、一人で出ることにしてたんです。そのライブに出て、その次にまた違う人から声掛けをいただいて。「声掛けてもらえるように頑張ろう」みたいなスタンスに。最初は多分、月に1回やるかやらないかくらいで、ゆっくりやっていって。

——呼んでもらえたら嬉しいですもんね。「そこに混ざっていいんだ」みたいな。

 嬉しいです。自分から「出たい」って言っていいもんかと、当時は思っていたりして。そこはもしかしたら、自分の覚悟がなくて、ステージに上がるっていう覚悟をひとに任せていたかもしれないなと。今振り返ると、そんなスタンスで。「呼んでいただけたので、出させていただきます」っていうスタンス。それが、「自主性がない」っていうふうに言われ始めて。

——そんなバシッと言ってくれる人がいたんですね。

 言ってくれました。主体性というか、いつも誰かについてっているっていうのを。それは今も改善は多分されていないと思うんですけど。

——一番最初にライブをした時に、伝えたい気持ちが自分の中にあったっていうことだったんですけど、その気持ちはそこから先も意識しながら? 歌でどういうことを伝えたいと思ってたと思います?

 その時は……伝えたいっていうよりは、もしかしたら「解って」っていう感じだったかもしれない。自分のしんどいこととか、闘っているところとかを「解って」っていうのはすごいあったから、意識というよりは、「助けて」みたいな気持ちがずっとあって。

——滲み出ているものがあったんですね。

 滲み出ているものがあるところから、次第に大人になって、「表現」みたいなところになっていって、だんだん伝え方みたいなことを考えるようになって、ピュアさみたいなものが失われてきたんだろうなって。

——うーんまあまあ。どれもこれも維持するのも難しいですけどね。

 あの時のライブの感覚は、本当に真っ直ぐだったなって。

——羨ましいです。最初のライブ、いかにかっこよく見えるか……(笑)いかに褒めてもらうかばっかだったなあ。

(笑)でも褒めてもらいたかったですよ。

——それ、高校生の時だったじゃないですか。そこから先、進路のこととか将来のこととかってどんな風に考えてたんですか?

 考えていたんだろうか……(笑)。

——(笑)そもそも。

 多分ちょうどみんなが進路のことを考える時期に、ライブの本数が自分の中で増えてきてて、楽しかったんです。っていうのと、いろいろ高校生活がうまくいかなくて、高校を転校したりとかしてて、「とりあえず高校を卒業する」ということに必死になってたりとかしたんです。
 先々というよりは、今をどう乗り越えるかというのを……大学進学も考えてたけど、やりたいこともないのに、高いお金を出して大学に行って……だったら行かなくていいかなって感じでした。

——結果、進学とかはせず?

 進学せずに、高校卒業して。

——言い方が合ってるかわかんないですけど、そこに歌があってよかったですね。

 いや、本当にそうですね。なかったらどうなってたか……そこが居場所でした、ずっと。

自分に限界があるっていうことも多分、受け入れるべき

——そこから音楽活動に軸足を置いていくようになると思うんですけど、ターニングポイントというか、この経験が大きかったな、みたいなシーンってありますか?

 GO AROUND JAPANっていう、全国の弾き語りシンガーが一気に集まるイベントがあるんですけど、知っている人もたくさん出ていたりして。それに出させていただいた時の、あのステージが、自分の中で一番いいステージだったと思っていて。
 客観的に見たらわからないですけど、正直。技術面とか、あの時よりは上手くなったと思うけど、自分のメンタル的な部分、マインド的な部分で、あんなにまっすぐライブしたのはあの日しかないと思っていて、あの日の気持ちはまだ超えられていないです。あの日見た他の人のライブとかも、本当にすごかったし。一番ずっと記憶にあるのは、あの日。自分にとってはすごく大事だし。

——好きな人がいっぱい集まる場所でもあり。

 最初にCD出したのもその日で。発売日をその日にしてて、自分のライブが終わってから、ダーって列ができて、みんなにサインをして……すごいなって思って。自分にお金を払って、CDを買ってくれる人が並ぶっていうのが。フェスだし、並んでる時間にも他のミュージシャンが歌っているのに、並ぶことに時間を今使ってくれるんだって。
 ライブで迷っている時とかは、「あの日の気持ちってどうしたらなれるんだろう」って、いつも考えるから。

——セーブポイントみたいな感じになっているんですね。

 そういう感じですね。あ、すごい、「セーブポイント」、そうですね。

——そこから先の活動の姿勢とかも変わりました?

 どうなんだろうな。変わってったのかな。

——いきなりガラッとではないでしょうけどね。

 割とスパンッて「この日から変わる」みたいな感覚になったことはあまりなくて。多分緩やかに、緩やかに変わっていって、久しぶりに会った人に「変わったね」って言われて、「変わったんだ」って思う、みたいな。自分でパンって「切り替わったぜ!」ってなった感覚が多分ないなって。

——その「変わったね」って言われた時って、どんなふうな感想だったんですか?

「ミュージシャンらしくなった」って言われる時もあれば、「こなれた」みたいな時もあったし、「今は多分過渡期だね」って言われた時もあったし、「背伸びしてるね」とか、「背伸びしてた分、自分が追いついてきたね」とか、ひとに言われて、「そうなんだ」っていう。

——背伸びだとしても、背伸びに追いついた時もあるんだろうし、こういう(背伸びしてはそれに追いつく、の繰り返し)感じで、上には伸びてってるんだろうなって。

 上には多分伸びてるはず。地に足ついてたら伸びないから、ずっと落ち着かないでいた方が自分はいいんだろうなって思って。

——今、成功体験的なエピソードを聞かせてもらったんですけど、逆に、しんどかったなあみたいな、あるいは今もちょっと悩んでるみたいなこととかって?

 去年から今年、コロナ明けが一番しんどかったかなって思います。

——コロナ禍よりも?

 コロナ禍は正直みんなしんどかったから、自分もしんどくていいと思ってて、「コロナだし」って思ってて。そこは割とそんなに下がってなくて、「みんな休んでるし」とか。割と流れに身を任せようと思っていたので、コロナ禍は。
 でも、その後から自分と向き合い過ぎたかもしれないですね。22歳になって、いよいよ大人、みんな大学卒業、就職する年。ってなった時に、幼少期からの人間性みたいなものが足を引っ張り始めて。やっぱり楽しいだけじゃないっていう部分もちょっとは知ったし、みんな戦いながらライブをしていることも知ったし、知った上での自分のスタンスみたいなのがすごく難しかったり、人と人で作っていく上で、自分の人間性がそこに追いついていなくて、未だにそれが確立していない。多分もう人間形成の時期は終わっちゃってるから(笑)、あとは「ここからどうしたら自分はいい人になれるんだろう」っていうのの答えを今、探していて。

——いい人じゃないと思います?

 いい人じゃないと思います(笑)多分。それを自分の中で考えすぎたんだと思うんですけど、「もう人と関わらないようにしよう」ってなっちゃったんですよね。迷惑かけるし……ひとと関わらなければ大事な人を傷つけることもない、みたいなふうになっちゃって、自分としか喋らない時間がずっとあって。いよいよライブができなくなって、2ヶ月お休みしたりもしてみて、ちょうど今、ライブをまたちょっとずつ始めてる、今ちょうどそういう感じなんですけど。今年の8~9月を、自分の中で「ライブしない」って決めて。今、2ヶ月休んでライブを再開して、人と会ってちょっと喋って、「人と会った方がいいかもしれない」って思って、「これから人と会おう」っていう段階です。

——よかったです、もうちょっとお声掛けが早かったら、お邪魔していたかも。

 ちょっとまだ困ってたかもしれないですね。いいタイミングで、ありがとうございます。

——人と作る場であるということも分かってはいたから、なおさら人と関わることってやっぱ大事なんじゃん、みたいなふうになったんですかね。

 本当に喋り方を忘れたなっていうふうに、2ヶ月経ってライブを始めた瞬間に思って。これはいかんっていう危機感みたいなものをここ1ヶ月で覚えて。
 自分で考えて答えを出すっていうこともすごい大事だと思うんですけど、自分に限界があるっていうことも多分、受け入れるべきかもしれないと思って。戦うことも大事だけど、「もう考えた。もう限界!」(って言えるように)。ちょっと人と喋ることをこれからは始めて、そうしたら、考えられてない部分と、考えすぎている部分と、ちょっとは出てくるんじゃないかな、どうかな……カウンセリングみたいですね(笑)。

——(笑)でも、自分一人の頭だけで考えていると判断つかなかったところとか、靄がかかっていたようなところに、誰かの言葉とか考え方がラインを引いてくれたりすることもありますよね。自分にない視点でそれを見てくれたりとか、色をつけてくれたりとか。

 そういうのもありますね。「飲みに行きませんか」とか言ったことなくて(笑)どうしたものかなって感じなんですけど。

——いやでも、そういうのって軽率に誘っていいんだなって、俺も最近気づいたので。

 みんな忙しそうだなって思いながら……SNSとか見ながら、この人はいつ空いてるんだろう、いつも空いてないだろうなって思います(笑)これから一歩踏み出します。

5年後の自分が恥ずかしくないように

——実際の音楽的な部分では、変化はありました? それとも、そこは一本芯を通してというか。

 ブレブレですね。ずっとブレブレなんですけど。多分人と会わない時間が増えた分、今作る自分の音楽はすごく自分勝手で。これは人に言われたんですけど、「すごい『やりたいやりたいの音楽』になってるね」っていう。「自分のやりたいが先行している、聴き手のことを考えてない」。確かに考えてないと思って(笑)。っていう部分は、今はすごい強いから、自分の「やりたい」が先行してるなと思ってて、いかんいかんって思いつつ、でも多分これが成長するための過渡期、背伸び期間、に今は入っているのかなっていうふうには見ていて。だからこれでいっぱい背伸びして、やりたいこととかをアウトプットして、そこでまた自分が追いつけば、ぐんって伸びる時期が来るだろうっていう、見立てです。

——でもやりたいことが溢れてきてるってこと自体はめっちゃいいことですもんね。それとの折り合いとか、バランスとかが見つかったら、きっとこうなる(背伸びに追いつく)んでしょうね。

 そうですね。最近ハイポジションに行きたいんですけど、ハイポジションを押さえている、その様がかっこいいと思っているんですけど(笑)ハイポジションのコードの探し方を最近ちょっとずつ知れている自分がいたので、それは今嬉しい発見なんですけど、そこの嬉しさに正直すぎて、そこばっかり(笑)「ちょっと落ち着いて?」っていう感じではあるんですけど。

——(笑)やりたいですよね、覚えたら。お客さんの反響とかも、その時々によって変わるもんですか?

 変わるもんですね。でもみんな優しくて。「テリちゃん(吉田チキン)元気?」「また来るね~」みたいな。親心みたいな気持ちで見てくださってる方がすごい多いなと思ってて、ありがたいなって思います。「テリちゃん今そういうのがしたいんだね~」みたいな感じで(笑)。
 自分がやりたいことをやっているのに、それを見て、言葉までくれて、そういうのは本当にすごいことだなって。自分はひとに感想を伝えるのにすごい勇気がいるので、みんなお金も払って、こっちをいい気持ちにさせて帰るっていうのが……素晴らしい、すごいなって。

——今、自分の中で色々と模索しながらの時期ではあると思うんですけど、そんな中でも「これは手放してはいかんな」みたいな、大事にしていることとかってあったりしますか?「ライブする時に絶対こういうことは忘れないようにしよう」とか、「歌を作る時にここにきっと自分の軸はあるよな」とか。

 歌を作る時は、5年後の自分が恥ずかしくないようにしようって思います。歌詞を書きながら、5年後の自分がこれを見たらかわいそうだって思うものは捨てます。そういうのは、歌詞を作る上ではあるかもしれないですね。

——それが自分のためだとしても、その心がけがもしかしたら、歌を伝える時の普遍性みたいなところにも関わっているかもしれないですね。

 そうなんですかね。でも、割と何かを一貫するっていうことが多分苦手で。その「5年後の自分が恥ずかしくないように」というのがプライドだとしたら、余計なプライドなのかもしれないって思う瞬間もあって。
 月に1曲絶対書いて発表するっていう期間を作って、アウトプットの練習をしてみたりとかもしたんですけど、結局その時に書いた歌を歌おうとすると、自分に嘘ついたような感覚になって、すごいつまらなくて。これはやりたくないなって思いつつ、でもいつかこれは実になるのかもしれないみたいな気持ちもありつつ。

——思い浮かべている、その5年後の自分も実際どんな自分かもわからないですしね。歌えないと思っていた曲が歌えているかもしれないし。

 そうですね。ライブの時は……よく大事なことを忘れるなと思って(笑)「なんで今日楽しむって忘れちゃったんだろう」とか、「なんで今日お客さんに甘えちゃったんだろう」とか、「ミュージシャンとしてステージに立てなかった」みたいな気分だったりとか。

——忘れては思い出し、の繰り返しなのかもしれないですね。

 うんうん、そうですね。

やりたいことはいっぱいあります

——ぼちぼちそしたらまとめに入っていこうかなと思うんですけど、ここまでで、逆に聞きそびれていることとか、これ話してないやみたいな話、あったりしますか?

 なんだろうな。なんかあるかな。でもひととおり、吉田チキンはそんな感じですね。

——ちなみにアーティストネームの由来とかって聞いてもいいですか?

 なんにも面白い話がなくて(笑)あれなんですけど、二十歳まで「テリヤキチキン」って名前でやってて、でも検索にもレシピばっかり出てくるし、すごい不便だなと思ってて。で、二十歳の誕生日にカウントダウンライブをしたんです、2DAYS使って。で、「なんか発表ある?」って言われて、「あー……改名します!」って言ったんですよね(笑)。

——(笑)割と勢いで言った?

 割と勢いで。多分ずっと「テリヤキチキン」ではやっていけないと思ってたけど、なんかこう……変えるタイミングも特になかったし、「言ったれ!」と思って、その場で言ったので、その後の連絡がすごい大変で(笑)フライヤーとか「テリヤキチキン」で作っていただいたりしたので、バタバタさせちゃったんですけど。

——勢いも大事ですもんね(笑)。あと、ここまでのお話でちょこちょこ触れてもらった部分も、重複しているところもあると思うんですけど、これからの部分というので、こうなりたいとか、これがやりたい、まだやれてないみたいなこととかがあれば。

 これからはまず、簡単に言うと、病んでた時期に迷惑をかけた人たちと一人一人向き合って、ちゃんと謝りたい。

——大事です。

 それができたら、新しい作品を作りたいのと。あとは、今書いている楽曲がバンドイメージの曲が多かったりしたので、バンドやりたいのと。あとは、DTMを覚えたい。バンドの勉強をしたい。

——今まではバンド編成みたいな感じでやったことは?

 企画でやったりとかはしたんですけど、いつもバックに大人がついてくれて、音を作れる人たちと一緒に作ってもらうっていうバンドをずっとやってたので。どちらかというと、自分もそこに混ざって、自分も考えて、一緒に作るバンド。今ちょっとだけ進んでいるんですけど、自分で作るバンドをしてみたいなと思っていて、吉田チキンという名前じゃなくて、そういうのをやりたい。

——バンドになったらなったで、生まれてくる曲とかも変わってくるでしょうしね。

 音の使い方とかもすごい変わると思います。いろんな音が入っているCDとかが好きだったりするので、楽しみですね。音源と、バンド。
 多分やりたいことはいっぱいあります。ボイストレーニングとかもしたいし、身体作りもしたりし。2ヶ月休んだ分やりたいことが出てきたから。

——よかったです。ちょっとずつやっていってもらえれば(笑)病まない程度に。

 はい、無理しないタイプなんで(笑)ちゃんと休むんですけど。

——そういうのがあって、いい感じに変わっていくさまを、楽しみにできればと思います。

 大丈夫かな? 元気な話、ありましたかね(笑)。

——いや、めっちゃ面白かったです。ということで……以上です! ありがとうございました。楽しかったです。

 ありがとうございました。これで大丈夫かな? みんなちゃんと話まとまっててすごいです。


吉田チキン(よしだ-)
2000年2月16日生まれ。福島県出身。
2016年から音楽活動を開始。
今年7月には西荻窪ARTRIONにてワンマンライブを開催、10月には里美案山子音楽祭に出演するなど、県内外を問わず様々な舞台で精力的にライブ活動を展開している。
小休止期間を経て、今後はライブ活動や制作等で新たな展開を模索中。
X(@yoshida_chicken

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