追い込まれたピッチャー。意外な勝負球の選択。
僕はチームトレーナー時代、選手に試合中どんな事を考えるのかを聞くのが好きでした。自分ではなかなか経験出来ない場面をどの様な気持ちで臨んでいるのか興味があるのです。
特に興味深いのは追い込まれた時の心境です。何を選択するかで勝負の行方は大きく変わります。特に投手の球種選択は大きな要素になります。
勝負を決める場面
野球で一番ヒリヒリする場面は9回の攻防、打たれれば負け、抑えれば勝ちの場面ではないかと思います。もちろん逆も然りです。
この時、投手も打者も運命を託される訳です。
この様な場面でどんな心理状況なのか色々な投手に話を聞きましたが、その中でとても興味深い話がありました。
意外な選択
トレードでヤクルトに来たA投手。前チームでは抑えを務めていた時もありました。
その投手に【何を投げても粘られ、抑えられる雰囲気ではない時、最後にどんな球を選択しますか?】という質問をしてみました。
僕は【最後は得意な球と心中】という答えが返ってくるかな?と思っていましたが、A投手の答えはなんと
【 (打ち損じてくれ〜) と願いながらど真ん中に投げる】という物でした。
プロの世界で抑えを任される投手です。まさかと思った僕は冗談だと思い笑っていましたが、A投手はいたって真面目な顔をしていました。
バッターの心境は?
数年後、テレビを見ていたらある有名選手がバッティングの解説をしていました。首位打者も獲得した事のある選手です。僕はその時、ビックリする話を聞きました。
【大事な場面は投手も必死じゃないですか。何を投げてくるか、色々考えて打席に立つんです。そんな時、ど真ん中にボールが来ると(曲がるんでしょ?落ちるんでしょ?あぁ〜!!)とボールが通過していってしまう時があるんです】
え?じゃあA投手はそれを逆手に取ってたの?
随分時間が経ってからの事なのでA投手にその事を聞く事は出来なかったですが、確かに大事な場面でそんな棒球がくるとはバッターからすれば想像し難いでしょう。
しかし、もしそのど真ん中の球を打たれて負けたら、その投手は凄く責められます。
プロ野球で生き残るには、捨て身になれるというのも大事なピースなのかもしれません。