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詩| 穴

夜を穿った角部屋の
満ち足りないベランダで
ループ再生の夜を見てた
月と嘯く黄信号の点滅
砂枯れた室外機の羅列
寿命を終えた星の幽霊
人も車輪も猫も踏まない交差点の中央で
思い出はいつも酔い痴れている
サンダルからはみ出した小指に
コニャックを垂らすと
言いそびれたサヨナラが
恍惚としてむしゃぶりついてくる
祭りの後の匂いがした
道端に落ちたソース焼きそばと
恋人たちの頬に残った微かな唾液と
それらをなし崩しに乾かしていった風で
鼻頭が湿気を帯びて痒い
環状七号線をゆく
テールランプに引き連れられて
およそ170°の視野にひしめく灯りは
グラデーションに収束していく
その境界にて発生する引力が
恋に似ているなんて
悲しいこと
悲しいこと
月と嘯く黄信号の点滅
砂枯れた室外機の羅列
寿命を終えた星の幽霊
いつかの夜もベランダで
グラデーションに当てられた
サヨナラを言いそびれた