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僕はまだ見てる、踵を鳴らして【パワポケ10】

22歳にもなると、今後この国で同年代の人間たちを引っ張っていくであろうスターたちが、徐々に頭角を現してきていることに気づく。彼ら彼女らはきっと幼いころから、我々の想像の外にある、並大抵でない世界を見てきたのだろう。現象に対する構え方が明らかに僕と違う。この間は、同い年からテニスの世界チャンピオンが生まれた。同学年の大好きなバンドが、メジャー1stアルバムをリリースした。きっと今この瞬間も、世界のどこかでその開花を待つ数多の大輪たちが、我々人間たちの「かゆいところ」に手を届かせようと何かを企んでいる。彼らの活躍を目にする度、僕はいつも少しだけ、自分の平凡さを呪った。あまりに退屈だったからだ。でも、少しずつではあるが、最近になって自分の進もうとしている道が明確になりつつあることに比例して、僕もやっと「その瞬間」を目撃することに対して肯定的な感情を抱けるようになった。余裕が生まれないと、人の幸福を素直に喜べないものだ。

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ライバルという言葉が好きだ。せっかくライバルについて書くので、普段はめったに触れることのない、埃をかぶって版が一つ落ちた広辞苑を引いてみることにした。

ライバル【rival】競争者。競争相手。好敵手。
(『広辞苑(第6版)』・岩波書店)

長らく僕の人生にはライバルがいなかった。日本の少年漫画を読んでいたら鼻くそをほじっていてもライバルという言葉を覚えるし、成長過程のどこかでその存在が持つ意味の重さに気づきそうなものだ。でも少年時代の僕は、どこか自分の人生に対して諦めのような感情を抱いていて、ライバルなどという存在を現実に設定することは大変におこがましく、自意識過剰な行為であると本気で思っていたのだ。

パワポケ10のサクセスのシナリオが好きだ。

この作品で描かれる主人公のライバル像は、王道のようでいて、実はあまりかっこいいとは言い難い種類のものである。

練習が厳しいことで知られる全寮制高校「親切高校」の野球部に入部した主人公は、1年生の6月、同じ地区の甲子園常連校である星英高校のエース天道翔馬と出会い、自身の野球人生を大きく変えてしまうことになる。

天道は1年の時点で150km/hに迫る速球を武器に星英のエースとしてその名を全国に轟かせ、3年生になる頃にはその豪速球は163km/hにまで達する怪物と化した。紛れもなくプロ入りが約束された甲子園のスターだ。彼は1年生にして、主人公の所属する親切高校野球部の3年生の先輩たちを、あっけなく完封で抑えてしまう。

彼にとっては主人公はおろか、決して弱小とは言えない実力を持つ親切高校までもが、甲子園で待つ強豪たちを前にした前哨戦に過ぎなかった。名前も知らないその他大勢。戦っている世界が主人公の2つか3つ上だった。

「とんでもない奴と同じ地区になってしまった」

そういって在学中の甲子園出場を半ばあきらめていたチームメイトたちの前で、主人公は自分が天道のライバルになると宣言する。誰も取り合わず、冷静に星英高校との実力差を嘆き、彼の宣言を一蹴するチームメイトたち。中学でそこそこの成績を残したに過ぎない主人公に、時のスターと肩を並べるだけの光るものが備わっているとは、とても思えなかったのだ。

荷田「ライバル宣言する相手としては手ごわすぎるでやんすよ」
主人公「それがどうした!荷田君、俺はあいつを超えてやる!」
荷田「(…無理だと思うでやんす)」
(主人公・パワポケ10)

2年生の夏、天道と戦う前に敗れてしまった1学年上のキャプテン基宗は、大会前に怪我をしてベンチ入りさえしていなかった主人公を、親切高校のキャプテンに任命する。現時点では自称でも、本気で天道のライバルになろうとしていた彼に対して、基宗もどこか期待を寄せていたのだろう。その時点でも主人公はまだ、まぎれもなく「その他大勢」の選手に過ぎなかった。短い高校野球生活の、最後の1年間が始まろうとしていた。

僕にとって初めてのライバルができたのは、成人式の日の同窓会だった。ありふれたどこにでもある公立中学校の同窓会。「彼」の存在は学年の全員がよく知っていたし、特に親しかったわけでもない僕でも、人づてで何となく彼の近況を知っているくらいには何かと話題性のある人だった。少し酒が入っていたこともあって、勇気を出して卒業ぶりに彼に話しかけた僕は、2秒前の自分の選択を少しだけ悔いることになる。彼は僕のことをこれっぽっちも覚えていなかったのだ。

その時から、時間の経過とともに、今自分が歩むべき道が少しずつ明らかになっていく感覚がある。すぐ隣を歩いていた彼は、ここまでの人生で積み上げた叡智を存分に活用して、僕の3歩先まで行ってしまった。そのことを恥じていたこともあったし、彼の歩く道と自分の現在地を比較しては自己嫌悪になっていた。ただ今は違う。何歩後でも構わないから、彼の歩いている道のそばに、彼のそれとは全く違う、僕だけの足場を作ってみせる。今僕は彼の世界の中で通行人Dにしかなれないけれど、いつか、どこかでその視界に姿を見せる日が来るまで走ってみようと思った。ライバルなんて存在は何も証明書や印鑑が必要なんじゃない。今はただ自称するだけでいい、そうやって10主人公が教えてくれた。焦らなくていい、僕のペースで行こう。


荷田「あ、天道がテレビに映っているでやんす」
10主「コイツ、どんなこと言うんだろうな」
天道「…はい、好きな球団です。それに、10主と同じリーグの球団で、よかったです。ええ、彼とは因縁がありますから」
荷田「…ライバル宣言でやんす」
10主「(ああ…そうか。天道との対決は、今から始まるんだな)」
(甲子園一直線編・パワポケ10)

君のライバルの話が聞きたい。

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