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いちいち体験を与えてくる、UXを体現する本(「ついやってしまう」体験のつくりかた/玉樹真一郎)

「ついやってしまう」体験のつくりかた
人を動かす「直感・驚き・物語」のしくみ

https://www.amazon.co.jp/dp/B07VC4N5HW/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_1O-6Fb4BVYA05
著:玉樹 真一郎

を読みました。

面白かったので、自分の考えをまとめるのと年末の「なんかやり遂げた感」のために感想をまとめてみました。

概要

ついやりたくなる、つい夢中になる、つい誰かに言いたくなる。この「つい」こそが体験デザインの持つ力。人の心を動かし、人に行動させてしまう仕組みと仕掛けを、元任天堂の全世界1億台を売り上げた「Wii」の企画担当者がわかりやすく解説。企画・開発・マーケティング・営業等、幅広く役立つ体験デザイン(UX)入門
(Amazonより引用)

 任天堂のゲーム機の企画(特にWii)に携わっていた方による、か〜なりの広い範囲でのUXに関する本です。

UXって何

 ゲーム業界だと最近は一般的になりつつある単語ですが、UXとは「ユーザーエクスペリエンス」の略語です。ゲーム批評に熱心なゲーマーも耳にしたことがあるかもしれないですね。
 UI(ユーザーインターフェース)が入出力の仕組みやデザインを指すもので、UXはそれを含むコンテンツやサービスのもっと広い範囲での「体験」をデザインするものとして使われることが多い単語です。

 一般的にUXは、人間工学的な観点で体験をデザインするノウハウとして語られ、完結してる印象(それだけでも従来のデザインの認識を大きく超えてるけど)ですが、この本では、その部分はUXの一部である「直感のデザイン」に過ぎず、他に「驚きのデザイン」「物語のデザイン」定義したUXが語られてるところが個人的に目新しいポイントでした。
 題材としてファミコンのマリオや64のゼルダのような古典だけでなく、ラスアスや風ノ旅ビトのような近年のタイトルも扱ってるところもこの手の本としては特徴かもしれないです。

随所で読者を試してくる

 流石というべきか、体験を重視してる著者さんらしく、ところどころ読者への問いかけや心理テストのようなものが挟まれてます。「まずは次のページの文/絵を○秒間見て、ページをめくってください」「ところで、本ページの左上のシミ(意図して印刷したもの)はあなたもずっと気になってたでしょう」みたいな具合です。
 意地の悪い見方をすれば「いちいち読者を試しにくる本だな」という印象でした(おれの性格が悪いだけ!)。とはいえ、著者が本という形で意図した体験を与えるためのできる限りの工夫を施した粋な本だと思います。

例に出るタイトルは著者の思想をベースに語られてる点に注意

 具体的なタイトルを例に著者の考えが丁寧に語られています。

▼直感のデザイン
・スーパーマリオブラザーズ
・ゼルダの伝説 時のオカリナ

▼驚きのデザイン
・ドラゴンクエスト(1〜11)

▼物語のデザイン
・ラストオブアス
・風の旅ビト

 しかし、これらのタイトルで使われてるノウハウを応用しよう、という話ではありません。このタイトルのこの部分はUXデザインでいうところのここにあたる、とか、こういう理由でこのUXデザインに設計されているはずだ、という、著者の考えを裏打ちするための引き合いに出しています。
 製作者の直接の裏話みたいなのを期待してる人には期待はずれかもしれませんが、市場のタイトルを使ってプロの考察プロセスが見れると考えて読むと、とても面白いです(ところどころ読者が試されるのは鼻につくけど!)。

即効性のあるノウハウではなく、視点を広げる

 そういう趣向の本なので、ゲームにそのまま活かせる具体的なアイデアがあるわけではなく、思考プロセスや思想が主な内容でした。問題にぶち当たってから読んでアイデアを探すというより、読んだ後の日頃のインプットに視点をプラスするような本かなという印象です。

逆に即効性が欲しい人にオススメするとしたら

 この本を読む前に思い浮かんだ本ですが、具体的なUXアイデアがまとまってる本としてこれオススメです。

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ビジネスを変える「ゲームニクス」 https://www.amazon.co.jp/dp/4822276597/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_9H-6Fb69P0W41
著:サイトウ・アキヒロ

 本記事で紹介する本でいうところの「直感のデザイン」について具体的に流用できるテクニックと解説があるため、こっちは問題にぶち当たったときに読んでも活かせる本だと思います(以前読んでから、よく読み返してる)。

 思想は『「ついやってしまう」体験のつくりかた』、手段は『ビジネスを変える「ゲームニクス」』という感じで合わせ読みすると面白いかも。

(なんか宣伝みたいになってしまった)

非ゲームを扱うビジネスでも応用が効くか?

 もちろんゲーム以外のプロダクトを見るにも役立つ視点だと思いますが、やっぱりゲームに話が偏ってるかもなという感じはしました。特に、「物語のデザイン」の話はエンディングのあるゲームをベースに語られているため、実際にはプロダクト全体の体験文脈の話だけど、そういう視点でエンディングのないゲームや非ゲームのプロダクトに応用するにはそれなりの器量が必要だと思います。正直今時点では、自分は「物語のデザイン」を活かす自信がないですw

 一応、巻末(といっても全体の2割)で企画やファシリテート、プレゼンやマネジメントなどで本書の思想を活かす例が書かれていますが、やや飛躍した内容な感じもしたので、やっぱりトレーニングが必要になると思います。

おしまい。



以下、個人的な読書ノート

▼直感のデザイン
 人間工学的な観点でのUX。形や色から本能的な部分に働きかけてユーザーを誘導し、よりよい体験(あるいは見せたい情報)を得てもらう仕組み。
 ゲームで言えば、ファミコンのマリオの1-1はこの直感のデザインで満ちていて、効果的に操作方法やゲームの目的を伝えるための教科書のようだという話が有名だったりしますが、この本ではスタート地点から動き出しまでのユーザーの心理を丁寧になぞってた。

▼驚きのデザイン
 直感のデザインで築いてきたセオリーを裏切ることで作る体験であるUX。直感のデザインでユーザーを誘導することは一種の学習であり、効率的にプロダクトの使い方や目的を伝える上では優秀だが、一方で疲れや飽きが来てしまう。そこで一種の裏切り的な要素を入れて、ユーザーに驚きを与えるという話。
 学習の意欲は突き詰めれば「学ばないと死ぬ」みたいな本能的なところから来てるから、想定外のイベントを挟むことで「わかった気になってたけどやっぱ油断できない」みたいな気を引き締める効果が見込める、という文脈。
 ドラクエの「ぱふぱふ」やカジノが出てくるタイミングを引き合いにこのことが語られてた。

▼物語のデザイン
 直感のデザインと驚きのデザインの体験を連ねて作る、長期の体験をコントロールするUX。情報量と、受動的な体験/能動的な体験の濃淡でテンポをコントロールすること、最終的にユーザー自身の成長を感じてもらうこと、などの込み入った話。
 ラスアス、風ノ旅ビトを例にゲームの流れを追っていた。

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