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邦題『ジャン=リュック・ゴダール/遺言 奇妙な戦争』

ゴダールの遺作を見た。
原文タイトルは「永遠に存在しない映画『奇妙な戦争』の予告編」という感じだろうか。

回転扉のように、開かれることそれ自体によって幾重にも開かれつづける、一種のコラージュ作品。
音楽が急に鳴ったり止まったり、長い沈黙が広がったり。そのために私たちは息をのんだり、びくっと震えたりすることになる。このコラージュは映像や言葉や色だけでなく、見るものの呼吸までもを切断し、その身体を元あった場所から追放し、緊張のなかに貼りあわせてしまうのだろう。

強迫的に繰り返されるcanonの文字には、カメラと戦争の歴史を思う。
「暗い部屋で黒猫を探すのは難しい 黒猫がいなければなおのこと」──暗い部屋とは、カメラ・オブスキュラをイメージしているのだろうか。でも、人というおかしなカビみたいな存在には、幽霊だとか自己だとかを見てしまう幻視の才能があることも忘れてはならない。

スイスの安楽死機械の写真を見たことがある。
スポーツカーを思わせる流線形の鉄のカプセルで、なかには軽く横たわれる角度のソファがしつらえてある。カプセルの蓋を閉じると、機械のなかは暗くなるだろう。まるで映画館だ。ともう誰かが言っているかもしれない。
とはいえゴダールは薬を使った安楽死を選んだようだから、おそらくこの形状の機械は使っていないだろう。いつも思うけれど、映画はあまりにも大きすぎる。音もスクリーンも大きすぎる。いやだと思っても止められない。それが毎回、死ぬことを思いださせる。

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