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【W KOREA】90年代生まれのK-POP MV監督 ②チョン・ヌリ

チョン・ヌリ(정누리

確かに親切ではない。シンプルなナラティブも複雑に繰り広げられたり逆の方向に進んだりして、MVは映画と妙な交差をなす。チョン・ヌリによる映像がまさにそうである。

代表作
Balming Tiger / LOOP?(2021)
TOMORROW X TOGETHER / We Lost The Summer(2020)
Crush / Mayday(Feat. JOY of Red Velvet)(2020)
イ・ハイ / HOLO(2020)
ZICO / Any Song(2020)    など

W Korea:もしかしてあなたは映画科専攻でしたか?MV監督としてデビューする前、2018年に短編映画『グリーゼ』でフランス・ナンシー国際映画祭に招待されていますよね。
チョン・ヌリ:みなさん誤解されているようなのですが私はビジュアルデザイン科を卒業しました。デザインを専攻してはいましたが、必ずしもデザインだけをしなければならないという訳ではなく、映像の方を生かして卒業をしても良い環境でした。『グリーゼ』は2018年に私、撮影チーム2人、俳優1人で簡単に撮影をした短編ですが、これを制作しながら映像分野が自分によく合っているということが分かりました。ですが映像分野を専攻していた訳ではなかったので、いち早く技術を習得したいと思いました。その時韓国ではMV市場が全ての技術を網羅していて、かつ発展が速い分野だと考えたのでMV制作の世界に足を踏み入れることにしました。不本意ながらMV監督になったケースですね(笑)

『グリーゼ』のログラインが非常に独特ですよね。「地球に似た惑星グリーゼ、そこの最後の生存者は土地の果てまで行けば故郷に戻ることができるという伝説を固く信じている」ランニングタイムはたったの9分20秒ですが、ジャンルはSFです。
私もこれはSF映画だと思いながら作りました。アンドレイ・タルコフスキーの映画『惑星ソラリス』も全くSF映画のようではありませんが、SF的な要素がたくさん溶け込んでいます。私もそのような作品を作りたかったんです。人間が地球でこれ以上生きられなくなった場合に行くことができる惑星としてこれまではケプラーが一番有力でしたが、最近かなり地球と大きさ、密度、年齢などが似たグリーゼという惑星が発見されたというニュースを知りそこから制作を始めました。グリーゼに送り込まれたクローン人間たちがそこで暮らして滅びていきますが、その中で誰かが自分達を救ってくれるという神話を信じて生きていくという内容です。なので主人公がずっと何処か果てに向かっていくロードムービー形式です。映像の後半ではふたつの惑星が対話をしますが、遠い未来には人間の精神が一つの塊として団結し、惑星にも人格が生まれるという抽象的な状況をコンセプチュアルに映画化しました。このような概念はかつて『A.I.』『エヴァンゲリオン』『AKIRA』などに登場したこともありますしね。

映画がMV演出に直接的なインスピレーションを与えたりもしますか。
とても多いです。私は映画のリファレンスをMVにたくさん入れる方です。昨年演出したBalming Tigerの「Loop?」はブライアン・デ・パルマの映画『キャリー』に対するオマージュでした。なのでメンバーのsogummが血まみれの顔で登場するんです(笑)Balming Tigerのメンバーたちが非常に良くないコンディションで何処かに閉じ込められているという設定なのですが、これはギャスパー・ノエ監督の作品の中の、主人公たちが常に不安に震えている状況からヒントを得ました。彼が『エンター・ザ・ボイド』をはじめ、多く使用した一人称視点のカットも多く入れました。そして昨年演出したイ・ハイの「HOLO」もヴィム・ヴェンダーズ監督の『ベルリン・天使の詩』に対するオマージュです。

一見暴力的なスラッシャームービーのようだった「Loop?」があるかと思えば一昨年のCrush「Mayday」は「MVのミーム化」と感じられました。MVの中に有名なチャルバン(面白い画像)の「チャン・ドゥンゴン(グラスを持ったチャン・ドンゴンの写真)」やインターネット料理番組、カン・ヒョンウク(韓国のカリスマドッグトレーナー)の番組「世の中に悪い犬はいない」等のミームが大集結していますね。
そうですね。当時はミームの勉強をたくさんしました。「Mayday」はCrushがパンデミックについて書いた曲であるため、MVのコンセプトも「パンデミックビデオ」にしました。その中でも、パンデミックによって皆息苦しくて退屈な日々を過ごしているので「無条件に笑える」コンセプトに決めました。撮影している間にも「どうしたらもっと面白くなるか」だけを考えていました。ここで面白いのが同年に撮影したTOMORROW X TOGETHER(以下TXT)の「We Lost The Summer」も「パンデミックビデオ」だったんですよ。ただこちらは10代にとってのパンデミックをテーマにしています。メンバーのほとんどが2000年代生まれであり、歌詞の中に「終わりのない3月1日の夕方に僕は残っている」や「教室内コンサート」等が登場するんです。私自身が10代でないのに、10代にとってのパンデミックをどのように表現するか悩み、当時はZ世代についてたくさん勉強しました。Z世代がどのようにメディアを利用するのかを研究し、Zoomの画面やスマホでの自撮りといった要素を入れました。

K-POPのMVだけの特徴は何だと思いますか。
昨年TXTの「Frost」を演出しました。そこではメンバーたちが偶然占星術師に出会うことで自分の運命を悟るようになるというストーリーを描きました。これはTXTというグループの世界観を見せてくれるMVですが、世界中のどこを探しても「世界観MV」という言葉はないのではないでしょうか。この点がK-POPのMVだけの特異な点だと思います。そしてK-POPのMVではコレオグラフィーのシーンが欠かせませんが、逆にこのようなシーンは本当に純粋なシネマトグラフィのように感じられます。またジャンル的な特徴ではありませんが、MVを観るファンのフィードバックがとても速いということですかね?たまにメールが来るんですよ、「どうしてあのメンバーの分量が無いんだ!ひどいじゃないか!」というような内容が(笑)

あなたの演出のスタイルに影響を与えた人物はいますか。
演出スタイルというよりもキャリア面で影響を受けた人物はいます。日系アメリカ人の監督であるヒロ・ムライです。チャイルディッシュ・ガンビーノ「This Is America」のMVの監督であり、Netflixシリーズの「アトランタ」の演出もしています。探してみたところ過去には映画も撮っていました。このように、境目を作ることなくMV、映画、シリーズ物の作品を行き来しながら制作活動をしたいという気持ちがあります。

MVを制作する過程で最も大切にしているポイントは何ですか。
企画段階です。プリプロダクションの段階でトリートメント(詳細なあらすじ)をかなり繊細に絞り込みます。実際それが8割を占めています。即興のようなものはあまり好きではないんです。準備ができている上でできる即興とそうでない即興があるのは理解していますが、私はとにかく即興をするにも全てプランが必要だと思っています。なので病的なほどにストーリーボードに忠実に撮影を進めようとするタイプです。そうしてこそむしろ現場で新しい試みをすることができるからです。

最近あなたが最も驚いた映像はありますか。
サム・レヴィンソンが演出したHBOドラマ『ユーフォリア』です。ウェルメイドという表現を超えて、私はその映像が持つすべての「文法」が好きでした。『ユーフォリア』を観ていると、まるでPinterestを眺めているかのようでした。明らかにハイティーン向けの作品ですが、一つ一つの場面の完成度が非常に高いですね。

あなたが一番好きなMVは何ですか。
GENER8ION, 070 Shakeの「Neo Surf」です。一番好きな監督の一人であるロマン・ガヴラスの最新作です。遠くない未来のアテネを題材にしていますが、華やかで複雑なビジュアルエフェクトを使用せず、純粋なシネマトグラフィで伝えられるこのフィクションの世界が、たとえMVだとしてもあまりにも映画のようだと感じました。

サムネイル:Crush「Mayday」、TXT「We Lost The Summer」公式MVより

参考:
Vimeo
インスタグラム


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