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【W KOREA】90年代生まれのK-POP MV監督 ③イ・スホ

イ・スホ(이수호)

「私はあなたが不快感を抱いているのが好きなんです」彼のMVを見ていると、彼が私たちにこのような言葉をかけているように感じる。「不快」「衝動」「グロテスク」。これらはMV監督・プロデューサー・ミュージシャンとして活動する彼を理解するための単語である。

代表作
ウ・ウォンジェ / Uniform (Feat. pH-1)(2022)
CL / SPICY(2021)
SE SO NEON / 자유(自由)(2021)
Lil Cherry & GOLDBUUDA / 하늘천따지 1000 Words(2020)
dress, sogumm / My Taste(내 입맛) (Feat. ZICO)(2020) など

W Korea:昨年、Z世代の人物35人を紹介する「Z35」記事でお会いしましたね。当時はSE SO NEONの「자유(自由)」のMV演出を終え、ミュージシャンとして正規アルバム『Monika』を準備されている時期だったかと思います。
イ・スホ:はい。皆さんは私を映像監督だと思ってらっしゃるでしょうが、実は映像も音楽のために始めたんです。MVは「見る音楽」ですからね。学生時代には1人で作った音楽をSoundCloudにアップしたりするなど、かなり以前から音楽活動をしてきました。中学2年の時に父の仕事の関係でメキシコ・モンテレイに引っ越したのですが、ちょうどその頃から1人で色々と作り始めましたね。当時あまりすることもなくて、友達もいなかったので、インターネットの世界に夢中になっていました(笑)

ミュージシャンとMV監督とのバランスを保つのは難しくありませんか。
それぞれモードが少し異なっています。音楽を制作する時にはもう少し内向的ですね。なぜなら音楽制作は何もない状態で「私のもの」を作らないといけないからです。反対にMV制作の場合はアーティストを「ブランディング」するぞというアプローチで臨んでいます。相手が望むことが何かを把握し、時に妥協しながら、アーティストが持っていることを基盤にその人を格好良く見せようとする作業だと思うのです。

昨年演出されたSE SO NEONの「자유(自由)」は、映像美はもちろん、俳優のユ・アインが出演したことでも大きな注目を集めましたね。
皆さんがどうか分かりませんが、私はあの映像を見ると少し変な気持ちになります。私がこれまで制作してきた映像の中で最も内面的な部分に触れる作品といいましょうか。従来のアプローチでは決して一緒にくっつけられることがない、カットとファウンド・フッテージが互いに衝突し、複合的な感情を作り出したようです。ユ・アインさんも熱演してくれました。彼がカメラを凝視する姿を通じて、フレーム越しの視聴者を見守るという感じを演出したかったんです。

ユ・アインの泣いているのか笑っているのか分からないような表情が本当に印象的でした。彼にどのようなディレクションをしたのか気になっていました。
ユ・アインさんがいくつかの場面で登場するのですが、その瞬間に見る側と被写体の関係がひっくり返る印象を与えたかったんです。「カメラの向こう側にどんな世界が広がっているか想像する時の心情を表現してください」ちょうどこんな感じのディレクションだけしてあとはお任せしました。とにかく彼も表現者ですから、むしろ本人が感じたままに表現するのが良いと思ったんですが、彼は泣いて最後に突然笑い出すという即興演技をしてくれたんです。

SE SO NEONの「자유(自由)」では大型火災現場が登場し、ウ・ウォンジェの「USED TO (Feat.CIFIKA)」では主人公のウ・ウォンジェの顔が次第に醜くなっていき、「JOB (Feat. Tiger JK & キム・アイル)」では少女の顔にフィーチャリングとして参加したキム・アイルの顔が合成されます。あなたの演出の色の一つに「グロテスク」が挙げられますね。
最近のMVはとても「臆病」ですよね。少しでも人が観て気持ち悪い、不快な要素が含まれているとそれは非常にリスクがあるんですよ。特にアイドルのMVで多いのですが、「これは行き過ぎているのではないか?」というようなシーンをカットしていくと結局のところとても簡素になってしまいます。私自身簡素で安全な作品を大衆のために手がけることもありますが、私が思うに大衆はそのような作品だけを求めている訳ではないと思うのです。振り返ってみると昔のMV、例えばソ・テジやBIGBANGなどの、チャートで1位になり大衆に人気のあったMVはどれも非常に実験的でしたよね。最近作品を出すと「どうやって思いついたのか?」というような感想をいただくのですが、私は少し不快に感じるような要素を取り入れようとしているようです。ありがたいことに「もっとやってくれ」という反応が多いですね(笑)

特に野外ロケ撮影や大人数が登場する演出がお好きですよね。何か特別な理由があるのでしょうか。
まず、もちろんセットで撮影をすれば私もスタッフも出演者も皆楽だと思うのですが、そのためにはお金がかかるので(笑)大規模なセットでの撮影はCL「Spicy」が初めてだったので色々勉強になりました。コレオグラフィーのシーンでパフォーマンスに似合うステージ形式に持っていき、プロップにも気を遣いました。また歌詞が強烈なだけにウィットに富んだイメージを見せたかったので、ピカチュウでラッピングされたランボルギーニを使ったり、彫刻家のカン・ジェウォンによる大型の彫刻を使ったりしました。そして人がたくさん登場するのは一種の必殺技ですね(笑)頭数が多いというだけで格好良く見えない訳がないんですよ。ウ・ウォンジェの「Uniform(Feat. pH-1)」ではさらに同じ衣装を着た人が群れになって登場しますが、歌のミニマルな感じを生かすために色のない構造的な空間に黒い服を着る群れを幾何学的配置で立たせて撮りました。

一方、ご自身のアルバムの収録曲「MOM」のMVを直接演出されていますね。あなたとフィーチャリングに参加したSE SO NEONのファン・ソユンをはじめとする友人たちが奇怪な彫刻を持って山を越えて水を渡ってどこかに向かう話を描いています。
その奇怪な彫刻は彫刻家のクァク・インタンに「どこかに生息している生命体のように作ってほしい」と依頼して制作してもらったんですよ(笑)MVは一つの「人格」を表現しました。なのでアルバムのタイトルも人の名前のような『Monika』なんです。MVを制作する際にも彫刻にGoProを付けるという特別な技法により私たちだけの作品を生み出そうという考えがありました。GoProで撮影した映像を簡単に編集して後半部分に入れましたが、結果的に作品としては決して綺麗ではなかったような気がしますね(笑)「彫刻を持って外に出て動物を撮ろう!」という内容でしたが、特に何かメッセージがあった訳でもなく、ただ単に私たちが楽しんでいる姿を見せたかったんです。

K-POPのMVだけが持つ特徴は何だと思いますか。
良い意味で「カルト」的な雰囲気がありますね。セットを作って群舞を踊る部分は特にそうです。そしてMVの完成度を語るとき絶対に「音楽」は外せませんが、基本的にサウンドの完成度が高い曲が多いですね。

あなたが一番好きなMVは何ですか。
1999年に発売されたエイフェックス・ツイン(Aphex Twin)の「Windowlicker」です。私に最も多くの影響を与えた監督の一人であるクリス・カニンガムが演出した作品です。カニンガムの作品に漂うある種の不快感が好きなんです。彼が演出したこのMVは例え300年後に観たとしてもどこか「垢抜けていない」印象を受けると思いますよ。

(補足)2022年に発表された他の作品(一部)
j-hope「MORE」
j-hope 「방화 (Arson)」

サムネイル:SE SO NEON「자유(自由)」、CL「Spicy」公式MV

参考:イ・スホ インスタグラム




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