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人は恋をする、何があっても #17

ピーターラビットの映画は面白かった。となりであの女性(ひと)も笑ってみている。しかし、欧米のギャグとかオチで笑う人が少ないのは何とも言えない。笑いのツボが違うからだな。英国の田舎の駅の感じはすごく良かった。

映画が終わってあの女性は言った。

「お腹がすいたー。矢野さんのおすすめのお店行きましょうよ」

それなら店の予約を取っておいたよ。いきなり勝負とは厳しいな。JRの高架沿いに昔通っていたバーがあったが、居ぬきであとはどうなったのか、行ってみよう。ダメならスルーして帝国ホテルに行けばいいや。

「じゃ。参りましょう。昔通っていた店がなくなって久しいんだけど、今どうなっているか見てもいいですか」

「もちろん。おいしいといいなあ」

「それは判りません。ダメなら河岸を変えましょう」

昔の店はスペインバルになっていた。もともとモダンなバブルな感じの上品な店は昔の面影は残っているが残念ながらダメな雰囲気だった。出てくるものはレベルが高かったが、前の店の方がいいと思ったがこれは関係ない。あの女性は嬉しそうにアヒージョをつつき、エスカルゴを食べてパエリアを頬張っている。美味しそうにワインを飲んでいる。

「矢野さん、映画は面白かったです。さすがいいセンスです。お見事です」

「高木さん、たまたまだと思ってくださいよ。いつもああとは思いません」

「ココのご飯も美味しいです。やったぁー」

狭いスペインバルで若いお客さんが多いからなかなかうまく話ができない。

「高木さん、ゴハン終わってもう一軒、行く?」

「行く行く。行きますとも。連れてってください」

今度はコリドー買いに抜けて2階にある静か目の落ち着いたバーに入った。

「あっ、ここいいですね。静かでお話しできそう」

「そうですね。色々お話しながら少し飲みましょう」

カウンターに並んで座り、あの女性は、甘めのフルーツカクテルを呑みながら話をした。自分は定番のジンリッキーである。

彼女は自分の一回り近く年下なこと、兄もいるがあの女性から見ればダメな人であること、お母さんはすでに他界していること、旦那さんとは学生時代からのお付き合いであること、など。問わず語りである。こちらもバツイチなこと、今は再婚して息子がいることなど。彼女の母校のそばに実家があることが分かったりもした。プライベートなことを聞いてしまって距離感は縮んだが、それは関係が進み、深入りしてしまった、ともいえる。

呑み過ぎないうちにあの人をメトロ有楽町駅まで送った。こちらはそこから三田線に接続して帰宅した。

車内でメッセンジャーでお礼を交換した。

友達以上、恋人未満、かな。

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