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人は恋をする、何があっても #18

電話だ。あの女性(ひと)からだ。

「矢野さん、お時間いいですか。急で申し訳ないんですが明日お時間ありますか。」

「高木さん、どうしたの。困りごと?」

「ええ、まあ。社長がフレンチおごってくれることになっているんですが、明日、社長急用が入っていけなくなったんです。そこのお店は私や社長が懇意にしている関係もあって、ドタキャンできないし、それに社長がだれかふさわしい方をお連れしていいって。矢野さんにはお世話かけたこともあるので、と思って」

「ええ?呑み過ぎお見送りのことだったら気にしなくていいよ。もっと重要な顧客先とかお連れしたらいかがですか」

「なにか明日ご予定があるんですか」

「予定はないのですが.....困ったな」

「えっ。美味しいもの食べるのが困るなんて、美味しい物好きの矢野さんにはないと思いますけど?」

「それはそうです。でももっとビジネスライクな方でなくていいんですか」

「ウチの会社はワンマン社長だし、今回は裁量権と食事券一緒にもらったようなものなの。お願いします。」

「ご家族は?」

「えっ、旦那ですか?あんな山猿、恥ずかしくてダメです!」

「それは失礼な」

「もう矢野さんに決めちゃったんです。私を助けると思って。お願いします」

「わかりました。では参りましょう」

「ヤタ!ありがとうございます。明日、神楽坂駅の改札で7時にお待ちしています」

「ほんとにいいのかな」

「ここは信じてください」

「はい」

「じゃ、お願いしまーす」

電話は切れた。これはどう解釈すればいいのか?また借りが出来てしまうな。

正直言えばあの女性に好感を抱くようになってきている自分がいて、明らかに好意を持っているあの女性がいる。

ティーンの頃のようなトキメキはないし、20代の頃みたいなワクワクもない。だけどちょっと嬉しい。

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