見出し画像

人は恋をする、何があっても #10

ヴァンピックルの予約はすぐにとれた。人気店なので金曜日はむつかしいのに。聞けば直前にキャンセルが出たという。ついてる!!話が落ち着いてできる席にしてほしいとかリクエストは投げておく。返事来なければいい、なんて前言は捨てた。知らない。

金曜日はすぐにやってきた。

待ち合わせ場所に早めに行くとすでにあの女性(ひと)は着いていた。

「こんばんわ。お待ちになりましたか」

「いえ、私も今着いたところです。お店が楽しみで早く来ちゃいました。仕事はかなり頑張ってきて、後輩に押し付けてきました」

おおっ、いい滑り出し、と思いたい。ヴァンピックルは徒歩ですぐである。

店では想定通り、奥の端っこのカウンター席だ。お任せコースでワインセレクトして頼む。あまり飲めない、というから聞いてみたが「少しなら大丈夫です」という。いい滑り出しだなあ。前回とは雰囲気が違うよ。しかし、若いころみたいな勢いは失われて久しいから、あまりガツガツする気がない。

料理が来て、チミチミワインを飲んで古書の話やら仕事の話をする、金融会社での不正は実際に見聞きした事例を多少アレンジして話したらとても面白がっていた。あの女性は地アタマいいなとつくづく感じる。聞けばMARCHにも届かない大学出身ではあるが、聞けば高校は長野県下で有数の進学校出身とか。地アタマがいいわけだ。

楽しい時間はすぐに過ぎる。ヴァンピックルではお客さんの入れ替えの時間が来た。

「矢野さん、お茶していきましょうよ」

「そうですね。酔われましたか」

「いえ、大丈夫ですよ。もう少しお話したいな、って。いいですか、我儘ですが」

「時間も早いし、お茶しましょう。」

呑まない二次会である。話のネタが尽きないし、会話のキャッチボールがうまくいく。こんなに気を使わなくて済む女性も久しぶりだ。楽しく心地よい。

二次会も終わってあの女性と別れた。残り香のような心地よさが残った。女性と話すのってあんなに楽しいものだったのか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?