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人は恋をする、何があっても #16
約束の日の夕方、日比谷ミッドタウンの1階のレクサスのショールームでクルマを見ていた。なんだかわけもなく、時間より早く来すぎてしまった。普段ならビールでも飲んでいるかもしれないけれど、映画館のロビーに上がるのはなんだか違う気がした。あの女性(ひと)とは映画館のチケット売り場前で会うことになっている。席はネットで予約してある。やることはない。
クルマは好きだが、レクサスはひょっとすると一生縁(えにし)がないかもしれないクルマだ。今の自分はあの女性というレクサス車を見ているようなものかもしれないとか考えていた。
「矢野さん!やっぱり、矢野さん。私も早く来たからここ抜けたら近道と思っていたら見つけちゃった。エヘヘ。一緒に行きましょう。この上ですよね」
「高木さん、これはうっかりしたところを見られちゃったな。クルマは好きだけどレクサスってじっくり見たことがなくてつい見ってしまっていました。買えないよ」
「映画、えいが。私、人に誘われて映画見るの久しぶりでワクワクしてるんですよ。はやくぅ」
「あっ、はいはい。ごめんなさいね。早くいきましょう」
ネット予約だから席も決まっているから機械に手続きをすれば入っていけばよい。しかし、まだ場内清掃で待ちだ。
「飲み物やポップコーン買いましょう」
「終わってから矢野さんとゴハンご一緒したいんです。軽めにお茶位でよいですか。あっ、今日はご予定いいですよね。いきなりで、聞かなくてごめんなさい」
「ああ。それなら全然OKです。お茶でも買って入って、映画が終わってゆっくりゴハンにしましょう。ありがとう。」
「お茶は私が買ってきます。矢野さんは座って待っていてください。」
彼女は飲み物を買いに行った。戻ってきてベンチの横にピッタリ座っている。
「映画楽しみです。矢野さん、センスいいからうれしかったです。」
「これがセンスがいいかどうかは見てからの方がよくないかな。私は自分にセンスがるとは思えないんですよ」
「またまた~。コメディ映画で女性を誘う人なんて滅多にいないから。珍しいけど、矢野さん素敵ですよ。センスありますって」
時間になったので、映画を見る上映ナンバーの部屋に向かった。座ってみればちょうどいい具合に周りに人もいないし、観るにはいい席だった。
室内が暗くなり、上映が始まった。まだ予告編だけど。
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