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人は恋をする、何があっても #6

前回の会合ではあの女性(ひと)には会社のお金でゴハンをおごってもらう形になった。情報提供とまでは言えないが、一種のコンサルタントである。仕事をしているあの女性は輝いて見えた。今まではそんなに輝いて見えなかったのに。キレイな人ではあったがとびぬけてキレイなわけではない。

地アタマの良さには感心したし、会話の端々にもソツはない。以前交わした趣味の古書話はなかなか面白かった。純粋にあの女性と仕事以外の会話をしてみたくなった。どんなパーソナリティの人なのだろう。バツイチだから前妻で女性には懲りている。女性というものは踏み込み方を間違えるととんでもないことになってしまうことは先刻承知済みだ。まずは踏み込んで相手が嫌がれば引けばいい。逃げるんだ。ティーンの頃のような一途な特攻精神は欠片も残っていないおぢさんなのだ、自分は。女性を見れば性的な対象としてガツガツと突っ込む気力はない。会話が楽しめればそれでいいや、だ。それに火遊びでもして家庭がもう一度崩壊してしまうことは自分には許されないし耐えられないだろう。

「先日はお会いできてお手伝いできたようですね。お役に立てていればいいのですが。お仕事の話ではないのですが、今度は食事をしながら古書話をしませんか。高木様はずいぶん古書のことにもお詳しそうですね。私も近世日本文学や浮世絵には関心があって、北斎漫画など集めています。古書のお話伺いたいのですが、いかがでしょうか」というようなメールをあの女性に送ってみた。こちらとしてはそんなに深い考えがあってのことではなく、お仕事ではなくてメシ食いながらシュミ話でもやんない、下心はないからさ、位の感覚である。

返事はすぐに来た。とても意外であった。「先日の矢野様のお話は大変有益で役に立ちました。社内的にも、お客様にも高評価を貰えました。誠にありがとうございました。古書は味がっていいですよね。今の消費されていく本にはない魅力が詰まっていてそれを見つけてみていくのはとても楽しいですよね。お誘い、ありがとうございます。うれしいです。残念ながら今月は仕事が詰まっており、時間がうまく調整できない状況です。落ち着いてからならお会いできますので、こちらから改めてご連絡を差し上げますのでお時間ください。よろしくお願いいたします。是非ともお会いして古書のお話をしたいです。」

うーん、体よくお断りされてしまったか。想定範囲内といえば想定範囲内のお返事である。その手には乗らないわよ、ということか。それとも主導権のタマは私がにぎるのものなのよ、あなたじゃない、とも理解できる。

期待しないで果報は寝て待つことにするかと思ったが、おぢさんには恋はむつかしいようだと痛感した。今更、だよなあ。


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