見出し画像

人は恋をする、何があっても #5

名刺はもらった。もらったままでのだんまりは失礼にもなろうかと思い、もらったアドレスにメールを送った。ビジネスメールだから素っ気ないもので、先日のご挨拶を重ねてお会いしますがどこいらでいつですか、位のことを書いて送った。あの女性(ひと)から返信があって、仕事の話でお知恵をお借りしたいのでこちらが指定する場所でもいいか、と返事が来たので、承諾して日時を調整して会うことになった。

場所は銀座のカップル向けのレストランでちょっと驚いた。当日会ってからあの女性に場所のことを聞けば、IPOの調査内容の裏付け調査のことで自分の勤める会社も関係がある業界の話で、貴社のことではなくて業界のことを話してほしい、という。場所をこんな場所にしたのは話の内容を聞かれて漏らさないための用心で、あなたには気があってのことではないから安心してほしい、と開口一番に言われた。期待はしていないけれど、いきなりこれかよ、とかがっくりである。なかなかおいしいことはないのかと思いつつ、業界話をしながら食事をした。食事はなかなかおいしかったし、相手は呑めないからこちらもビールくらいで真面目に話をした。相当参考になったようでかなりの勢いでメモを取っていたあの女性。仕事をしている女性は美しい。スーツ姿も似合っている。地アタマがいい、というのかな、話していてもストレスがない。

一通り話も食事も終わって、解散となった。嬉しそうに礼を言い、手を振りながら別れていくあの女性。職場や家庭以外で女性と下心なく話すなんて何年ぶりだろう。下心あって話す方はもっとご無沙汰ではあるが。職業人という倫理を踏み外さないで異性と食事と会話をして楽しかった、というのは新鮮だった。交際費でごちそうになってしまったのは男性としては残念であるが、それはこの際置いておこう、と思った。

帰宅して、妻との話も息子のことばかりではなく話題は豊富で退屈しない。再婚した妻は初婚だが、こちらはバツイチ。比べる気はなくても前の妻よりはずーっと楽しいし、おうちの居心地はとても良い。街で見かけた面白いことをお互いに一通り話して、穏やかな気持ちで就寝した。

もはや五十路間近の今、冒険なんて流行らないよね、という声がどこかで聞こえた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?