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ミニチュア風写真を10年ほど研究して学んだポイント

カメラをはじめて10年ぐらい。なんとなくバチバチと撮っていた、ミニチュア風撮影もノウハウがだいぶ体系的になってきたので、まとめてみた。

たぶん日本で、本城さんの次か、次の次ぐらいにミニチュア写真を研究してる気がする。

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ミニチュア写真の歴史

雑な歴史のおさらい。1980年ぐらいからイタリアでは写真家オリボ・バルビエリ、日本では2005年に、本城直季さんが木村伊兵衛写真賞をとったあたりから、注目があつまったような気がする。彼らは、フォトショ芸ではなく、クラシックなカメラの逆チルト撮影という技法で、ミニチュアっぽい写真をとってた。

その後2006年ぐらいから、動画共有サイトVimeoで、ミニチュア風のストップモーションが大流行りする。あわせてフォトショップのテクニックとして、「写真の上下にグラデーションのブラーをかける」というノウハウが出回り、プチミニチュア写真ブームがおきる。これはSmallganticsと呼ばれる映像技法のメジャー化だ。Smallgantics自体、オリボ・バービエリ御大の作風の再現から始まっている。ほとんどのミニチュア写真は、こっちのエフェクト派だ。

で、このSmallgannticsの映像ノウハウが、今度はスマホアプリという形で、写真に逆輸入される。

2009年あたりで海外でTILT SHIFTというiOSアプリと、ちょい遅れででた拙作のTiltShift Generatorというアプリが世界中で人気となり、スマホでとりあえずミニチュアっぽくボカすのが大流行の時代がきた。

すごい量のアプリがダウンロードされたせいか、その後、オリンパスがスマホのフィルタブームを採用して、一眼レフに色々なフィルタをつけた。これ以後、色々な一眼レフに「ミニチュア風」というフィルターが搭載されていく。(最後には、Instagramもつけた)。

カジュアルなフィルターでのミニチュアブームはひと段落…したものの、最近は一周まわって、田中 達也さんのガチのミニチュア写真が人気でてきる。


基本原理

ミニチュアっぽい写真を撮るには、「人間が小さいものに目を近づけたときの見え方」をシミュレートすることになる。シンプルに言えば、「焦点をあわせた場所以外が強くボケつつ、色が鮮やか」であればよい。

加工なしで撮影する場合、これにはチルトレンズという特殊なレンズが必要となる。チルトレンズは、レンズの方向を斜めに曲げられる、キモいレンズ。

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ダイヤルをひねると軸が動く。

このチルトレンズは、「斜めからとっても大丈夫なように、ピント範囲が広くなる」という特殊レンズなのだが…このレンズを逆の設定で使うことで、「ピントが狭すぎてメッチャ合わない」という状況を作れる。これで、被写体をメッチャボカすのが、ミニチュア撮影の基本。

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青が普通のレンズのピント。赤が逆チルトのピント。ピントの範囲が立ち上がったぶんだけ、薄くなっている。

一方で、加工で逃げる場合には、フォトショップを使って、画面の上下をボカしてコントラストをあげれば、なんちゃってミニチュア風になる(クオリティは下がる)。


機材

ミニチュア風撮影には、チルトレンズという特殊レンズを使う。このチルトレンズはCANONの独壇場だ。やたらある。

僕は一世代前の24mm, 45mm, 90mmを持ってるが、もっぱら45mmと90mmを使ってる。(知らないうちに135mmが出たので、ちょっと欲しい)。

最近はカメラを、SONYのα9に乗り換えたのだけど… SONYには残念ながら、チルトレンズがない。結果、CANON TS-E90mm に、 x2倍のエクステンダーをつけ、Sonyマウントコンバーターをつけ、α9に接続する…という、悪魔合体で180mmチルト撮影システムという狂気じみた構築をしている。(新しくでた135mmをx2すれば、270mm構成ができるので、すごくきになる)。

ちなみ、前述のようにバービエリ御大や、本城さんは(たぶん)大判のクラシックなカメラをメインに使ってると思われる。

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で、機材さえあれば、ミニチュアっぽくなるか…というと、意外とそんなことはない。どうも時間や天候やアングルや、その他諸々を色々と調整しないと、なかなかミニチュアっぽくならない。

以下、10年ぐらい色々試行錯誤して、「ここがポイントかな」と思ったこと各種もろもろ。


高いところから斜め45度を狙う

基本的に人間は、腰の高さぐらいにあるミニチュアを斜めから見下ろす。真横から見るケースは少ない。このミニチュアを見る人間の目線を、ビルに登ることで再現する。最小8階ぐらいから、上は60階数ぐらいまで、被写体に応じて調整する。

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上方からの見下ろしで、構図の誘導アングルが斜め45度に近いと、ミニチュア風に見えやすい。

ヘリや気球もチャレンジしたが、ドアの開いたヘリで街を飛ぶのは、地獄のように恐ろしかったので苦手である。展望台サイコー。


空を映さない

普通のミニチュアには空はない…ので、できるだけ映さない。あえて写すときは逆に嘘くさい感じの空だとよさげ。

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書き割りの背景っぽいそら。一般的に、人間はこの角度からミニチュアを見ないので、空が見えるアングルではミニチュアっぽさを出しにくい。


お昼に撮る

一般的な写真のベストタイムは早朝か夕方だが、ミニチュア風写真ではその限りでない。正午のほうがオススメ。朝昼の光は横に長い影を作ってしまうため、俯瞰する写真には向かない。また現実のミニチュアも、天井からのライティングが多いため、真上からの影のほうが既視感が出る。

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お昼の写真(と曇り)の写真は、無駄な影がなくなるので画面が整理される。

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影が長いと、ちょっと自然なミニチュアっぽさが失われ、勿体無い感じになってしまう。(ある種、ホビージャパンとかの凝ったジオラマ感は出る)

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逆にビーチとか、そもそも影が出にくい環境では、時間にこだわらず光がいいときにとってもよさげ。


曇りの日に撮る

影が強すぎると胡散臭くなるので、薄曇りなど影が弱まる日を狙う方がよい。現実のミニチュアも室内の光が回り込むので、それほど強い影はできないからだ。

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曇りのお昼の写真は、こんなふうに影がなくなる。

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朝方にとると、こんなふうにスンゴイ長い影ができてしまうのである。あと雰囲気よすぎて、ミニチュアに見えにくくなる。アフリカで気球で撮った。


望遠で撮る

オリボ・バービエリも、本城さんも広角をガンガン使うけど、個人的には望遠のほうがそれっぽくなると思っている(望遠の多様と、パースを消す度が高いのが、たぶん僕と彼らの違う部分)。

人間がテーブル上のミニチュアを見るとき、それほどパースペクティヴが強くかからないためだ。また近くでミニチュアを見るほど、ボケが強くなる。このため、画角が圧縮できボケが強くだせる、望遠レンズのほうが、よりミニチュアっぽくなる(と個人的には思う)。

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コントラストと彩度を高める

ミニチュアの塗装は、わりと原色がパッキリでやすい。またミニチュアでは、空気による色の減衰が発生しない。このため、現実と違って遠近での色褪せがおきない。

それっぽくするには、遠近でコントラストがあまり落ちないほうが望ましい。雨上がりなど空気が綺麗な日を選ぶのはもとより、撮影モードも色が派手めなものを選ぶとよいように思う。

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緑かぶりや青かぶりを否定しない

ちょっとぐらい、色かぶりしてるほうが、蛍光灯の下やガラス越しに撮ったミニチュアっぽくなる。一周まわって、あえて色かぶりさせるのもアリ。

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パースを消す

建物にパースがなく、垂直方向がバチッとでていると望遠感が強くなり、よりミニチュアっぽさが増す。ここまでの広角補正は、かなり力技なのでさすがにフォトショップに頼る。

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一方で、45mmぐらいのレンズで近場をとると、パースペクティヴが強すぎて、なかなかミニチュアっぽく見えない。


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画角的には90mm以上、できれば180mmなどで、画角がアイソメトリック(パースが平行)に近いぐらいの角度のほうが、それっぽく見える。


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まとめ

というわけで、カメラアプリ開発のためにカメラの勉強をはじめて、はや10年。研究開発の経費…という名目で、沼にはまって何百万もカメラ機材につぎ込んでしまった。アプリ開発から引退した今も、なんやかんやと理由をつけて、発表するあてのない趣味の写真をパチパチ撮ってる。

ミニチュア風写真は楽しいので、またカジュアルに流行って欲しい!と思って、色々と熟成したノウハウをかいてみた。興味のある人はぜひチャレンジして欲しい。

ちなみに、商業でミニチュア風写真を撮りたいときは、よほど工夫しないと、本城さんの作品とカブるので注意(国内、あるいは首都圏のミニチュア撮影できるメジャーな展望台は、すでに本城さんにほぼ制覇されてると思ってよいだろう)。

それでは、楽しいミニチュア撮影ライフを!


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