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【Voice!】第2回 GK1 杉本 拓也選手

昨シーズン、藤枝から加入した杉本拓也選手。鳥取と藤枝で11年、

J通算200試合以上出場、まさに神セーブでチームを救ってきた

GKが、福井の新しい守護神となった。

的確なポジショニングからのシュートストップはもちろん、

最後尾からのビルドアップでも起点となり、チームを攻守で支える。

安定感抜群の”スギ”の胸の内や思考も窺える言葉をお届けします。


― 出身地と家族構成について教えてください
出身は、静岡県の吉田町です。藤枝市の近く、静岡の真ん中あたり。家族は、父母と3つ下の弟がいます。

― サッカーをはじめたきっかけは?
きっかけは、いとこのお兄ちゃんがいて、よく遊びに行ったときにサッカーを一緒にやっていました。それでスポーツ少年団に入りたいみたいな感じでやり始めました。

― 最初のチームは、いわゆる“スポ少”から
吉田町の住吉小学校っていうところの少年団です。その後が、藤枝明誠高校のジュニアユース年代のクラブから、そのまま高校に上がって、続けていました。

― 最初からGK? 始めたきっかけは?
本格的にやり始めたのは、4年生ぐらいからなんですけど、それまではいろんなポジションをやっていました。きっかけは、当時清水エスパルスが好きで試合を見に行ってたときに、シジマール(現神戸GKコーチ)っていうキーパーがいて、なんかちょっとすごいなと思って、それではじめたいなと。で、やってみたらたぶん、結構良かったんでしょうね。そのまま続けていましたね。
シジさん(シジマール)とは藤枝時代(2017シーズン)に一緒に仕事しているんですよね。

― GKというのは難しいポジションですが、GKならではのメリットとか、良い部分は?
メリットっていうか、自分がなぜ始めたかというとシンプルにユニフォームが違うから。目立ちたがり屋じゃないですけど、一人だけ違うユニフォームを着れるし、というのもあってです。それと、やっぱりシュートを止めたときに嬉しかったっていうか。純粋に、キーパーは止めるのが楽しい。だからメリットっていうか、そこにやりがいを感じてました。

― 逆に辛かったり、しんどいと思うところは?
しんどいなっていうのは小学生とかのときは全く思わなかったですけど、大きくなってからは、試合の負けに直結するポジションだから。プロになってからは、いろんな人の生活がかかった中でプレーしているから、自分がミスしたら他の人の生活も苦しくなるとか、そういうことも考えるし、自分だけじゃないっていうことでメンタル的に難しいと思うことも若いときはありましたかね。

― そこをどう乗り越えた?
若いときは、シュートを決められたら全部自分のせいじゃないけど "点を取られたらキーパーが悪い" みたいな考え方だったんですね。でも、取れないシュートは取れないし、どうしようもできないものはどうしようもできない。自分だけではどうにもできないことがたくさんあるから。もうしょうがないかな、っていうマインドに切り替えました。
割り切るじゃないけど "まあ、しょうがないよね" っていうところに、気持ちをもっていくじゃないですけど。でも、楽になりましたね。当時のキーパーコーチに言われて、そこから気持ちがすごい楽になって。その後はそういう考え方になりました。

― 考え方が変わったきっかけとなったコーチは?
自分が鳥取で試合に出始めたときのゴールキーパーコーチが、武田治郎(現いわき GKコーチ)さんでした。その武田さんに「まあしゃあないよ、スギ」と言われて、結構救われました。それで、"まあそうだよね、そうだな" みたいな感じになりましたね。それまでは、思い詰めるとまではいかないですけど、点を取られたら "どうにかできたんじゃないか" とか、"どうにかしなきゃいけなかったんじゃないか" と思いましたね。学生のときとは違いますから。それで結構楽になったというか、そこからずっとそう言う考え方ですね。

― 切り替えてからパフォーマンスに影響はありましたか?
影響したのかわかんないですけど、まあ長く続けられてるのはそういうのが要因の一つなのかな、とは思います。

― 杉本選手の安定感には、そういうマインドがあったんですね。
そうですね。割り切ってるっていうか、無理なものは無理みたいな。人だからミスをするし。うん、そういうところですね、考え方がもう。

― 元々のパーソナリティーもありますか?
そうかもしれないです。"なんとかなる" みたいな。人生において、高校や大学を選ぶときもなんとかなるかなって。大学時代も就活してなくても、なんとかなるっしょ、ってノリでプロになれたから。ある程度、自分の中で自信はあったんでしょうけど。元々 "なんとかなるよね" みたいな思考です。

― プロになれる、いけるかも?と思ったのはいつ頃?
藤枝明誠高校って、修学旅行でサッカー部だけオランダに行くんですよ。他のみんなハワイなのに。ほんとは僕たちもハワイに行きたいですけどね(笑)でも、チャンピオンズ・リーグとかを観れるのでそこは良かったです。そのときに結構ありがちな感じだったと思うんですけど、現地のコーチが指導してくれるみたいなことがあって、フェイエノールトの関係者の人がいて、俺呼ばれたんですよ、トップの練習に。

― えぇ!?すごい!
サテライトですけど。サテライトのキーパー練習があってそこに呼ばれて。みんな身長が190センチくらいあるから、こんなちっちゃいのが入って…って思いました。そこで1回練習参加したら、1回の予定が3回になったんですよ。それで、"もしかして俺プロに行けるのかなー。目指していいんかなー、目指してみたいな" って思いましたね。2006年12月ごろかな。

― 手応えは?
手応えっていうか、練習しかしてないんでわからないですけど。練習してる分にはできるけど、みたいな。みんな(身長が)デカいし。オランダ語は何言ってるか分かんないし(笑)でも、ここでプロという存在が明確になった感じ。

― 大学に進学、選んだ理由は?
高卒でプロはなかなか難しいだろうと思い、大学を選ぶってなったときに一番熱心に誘ってくれたのが、日本大学でした。そこのGKコーチが小島伸幸さん(現サッカー解説者)だったんですけど。小島さんがコーチというのに魅力を感じていたところ、チームが自分を欲しいって言ってくれたので、日大を選びました。でも、日大は当時から色々あって、関東リーグから降格して都リーグで3年間戦うことになったのは、キツかったですね。

― 2011年9月には鳥取の特別指定選手に登録されましたね
鳥取の練習参加に行ったんですけど、そのときにちょうどキーパー3人のうち1人が怪我で2人しかいないってことで、特別指定選手として登録してもらいました。で、そのまま加入という形でオファーをいただいて。

―プロ入りしてからは鳥取で6年、藤枝で5年プレーされました。
 キャリアの転機や藤枝への移籍について教えてください

藤枝が地元っていうのはそうですけど、実は移籍の前の年もちょっと気にかけてくれてたようで。それで、鳥取の契約満了のリリースが出たときに、30分以内ぐらいにオファーを頂きました。正直、金銭面はそんなにいい条件ではなかったですけど、一番は自分のことを欲しがってくれるチームに行きたいというのと。それと、もう1回這い上がるってなったときに、地元で頑張りたいなっていうことで決めました。

― 藤枝でのスーパーセーブのシーン(注)は話題ですね
あー、あれはめちゃめちゃイジられました(笑)。ズリーなとかね。個人的にはあんまり印象に残っていないですけど、なんか世間がすごい騒いでくれたって感じです。なんかすごかったんでしょうね。誰も予想しない展開だったんで、ちょっとビックリしたんですけど、よく止めたなって自分でも思います。でもすごい騒いでくれたなって。自分の中では、なんか思い出があるのかっていうと、あんまりないですね。

(注)2019/3/16 J3第2節、ホーム熊本戦でのスーパーセーブ。1-0の勝利に貢献したビッグプレーは、欧州メディアが動画を公開したことで海外でも話題となり、動画再生数が17万回を突破した。

― これまでのキャリアで思い出に残るシーン、試合は?
やっぱり一番印象に残っているのは、デビューした鳥取のとき。1年目に怪我をして一切試合に絡めず、2年目に入るときに、"今年試合に出なかったら多分終わりだな" って思ってスタートしたところ、開幕から試合に出られてやっとJリーガーになったなって。しかも、その試合で勝てたから、自分の中ですごい印象に残っています。怪我人が出たりとか、なんかちょっと気に入ってもらえたりとか。鳥取の1年目と2年目で、監督とキーパーコーチが変わって、それで使ってもらえたのかな。武田さんは5年目までGKコーチでした。そこが本当に印象に残ってるし、転機っていうか、プロとしてみたいなところを武田さんに教わりましたね。

2013年鳥取時代の集合写真。後列左から2番目は杉本選手
その左隣は当時もチームメイトの尾崎選手      ※本人提供

― 藤枝で指導を受けたシジマールさんについてはいかがですか?
シジさんは藤枝1年目はヘッドコーチで、2019シーズンからはGKコーチになって3、4年指導を受けました。シジさんは明るいし、めちゃめちゃ元気です。なんていうんですかね、僕もよく分からないです(笑)
シジさんは、特別教えてくれるわけじゃないですけど、"もう手に取れなかったらいいよ" みたいな感じです。その当時ってビルドアップがめちゃめちゃ言われてきていて、キーパーも足下の技術がないとダメだよって言われた時代でした。そのときにも、シジさんは「いや、キーパーは止めてなんぼだから、それが一番の仕事だよ。ビルドアップとかやってるけど、止めれてビルドアップできれば一番いいよね」って。「でも、一番は止めるのが大事だからって、そこは忘れちゃダメだよ」っていうことを言ってくれてました。ゴールキーパーとは、っていうところを改めて教えてもらったっていうか、そこがすごい印象に残っていますね。

― 藤枝満了後、2023シーズンに福井ユナイテッドFC加入されました
藤枝の契約満了後はトライアウトに出ました。で、そこからですね。
福井には滉平(北川選手)とかもいたし、尾崎選手や有さん(中村HC)も鳥取で一緒にやってますし。ゆかりになる選手が多かったですね。

ー トライアウトを経験してみてどう感じましたか?
最近は、メディアとかでも取り上げられたりしますけど、僕はトライアウトに2回出ています。行きたくないんですよ。本当に行きたくない。行かなくていいなら行きたくないし。その中でも、やっぱり、スカティングに引っかかる人は引っかかるんで、GKは難しいと思いました。
GKはアピールの仕方が難しいんです。ショートゲームをやるんですけど、そこで、キーパーを見ているらしいんです。もともとリストに載ってないと難しいっすよね。新しく選手を発掘するというよりは、リストに載ってる選手を取りたいなって思って、見に来ていると思うので。なので、僕はまだ現役やりたいですよっていうところを見せに行くっていう感じですかね。普通に、いつも通りやるだけですね。

ー プロキャリが長く、名門校出身ですが
いや、でも全然ですよ。藤枝明成高校だって、当時はまだ強くなかったんです。僕の代で、やっと県の決勝にいったとか、そういうレベル。大学も都リーグだし。
自分の中では、苦労だと思わないですけど、そんなにいいキャリアでもないし、世代別代表とかも入ってもないし。華やかなキャリアではないですけど、うまく、細くやってきた感じです。

― ストロングポイントを教えてください
それは、監督が求めていることをやることです。
あとは、運って言ったらアレですけど、監督に使ってもらえるような。
監督が別に身長が小さくてもいいよって人もいるし、身長が足りないからダメだよって言われたこともあるし。その中でも、求められてることをやるだけですかね。自分自身、サイズにコンプレクスに感じたことはあまりないです。別に身長が小さくても止めれるし、特別何か苦労してる訳でもないし。
その中でも、ポジショニングとかは、めちゃめちゃ意識してます。相手のボールの持ち方とか、駆け引きとか。自分の立ち位置もそれによって前にいるときもあるし、後ろにいるときもあるし。

― 去年福井に加入。1年間北信越リーグ戦ってみて、感じたことは?
本当はもっとブッチギっていかなきゃいけないんだろうけど、やった感じは思ったより難しいんだなって。そんな簡単にはいかないのかもしれない。
JFL昇格を目指すにあたって、北信越リーグの中で成長して、リーグ戦で優勝する。けど、最後は全国地域SCL。やっぱ一番はここなんで。昨年プレーして思ったんですけど、全国地域SCLで勝って、今年はみんなで喜んで終わりたいなって思います。

― 難しいっていうのは具体的に?
うーん、難しいっていうよりは思ったよりも相手が頑張るっていう言い方なんですかね。そんなに簡単には勝たせてくれないんだなって思いました。意外に接戦になったりとか、危ない場面があったりとか、っていう印象です。
正直、そんなにレベルが拮抗してるとは思わなかった。でも、去年やっててやっぱ上にいるチームはちょっと大変じゃないけど、相手も僕たちを倒しにきているので、ピンチあるのかなって。ただ、ブッチギって優勝するくらいじゃないと、全国地域SCLではきっと上には行けないので。

― ここまではサッカーの話を聞いてきました
 ここからはプライベートの過ごし方について教えてください

オフがねー。スクールしかしてないんですよね(笑)だからオフの日はスクールがあるんで、スクールに行くっていうのが、僕のオフなんですよ。
幼稚園や小学生のスクールコーチをしてるので、子どもたちのことを見て、あー、元気なやって(笑)
スクールは午後からなので、午前中とかは家でゆっくりすることが多いです。

オフ=サッカースクールと話すほど、精力的にスクールコーチとして活動

― 趣味とかハマっていることはありますか?
なんだろうな。ゆっくりするか、ジム行くかみたいな。それが趣味みたいな感じです。オフの日でも体動かしたり、ちょっとトレーニングするのが趣味みたいな。

― ゆっくり休むというよりは体を動かしたい?
そうですね、動かしてますね。パーソナルもつけてるんで、パーソナルトレーニングしたりとか。地元の静岡に帰ったときは、他のJリーガーの人と一緒に、合同でトレーニングしてますね。実家に帰るだけでなく、2.3日とか静岡にパーって僕だけ帰ってトレーニングしてとかもあるし。

― 2児のパパとして
たぶん、遊ぼうみたいなのあんまりいないけどな(笑)けど、時間があれば一緒に遊んでいます。今はね、忙しくてちょっと遊べてないですけど。

― 子どもとサッカーとかしたりは?
サッカーはあんまりしないですね。でも、息子が自分のスクールに来てるんで。僕じゃなくて滉平(北川選手)が教えてますけど(笑)。まあ、楽しくやってます。まだ小学生なので、サッカーは楽しくやるぐらいがいいと思います。

― ゴルフとか釣りが趣味の選手が多いですが、杉本選手は?
ないっすね、釣りとかしないっすね(笑)。一昨年はチームメイトとボウリングをめっちゃしてたんですけど。福井の人はボウリングしないそうなんで。マイシューズとか持ってるんですけどね(笑)。結構やってたんですけど、今はしまってあります。なんか探したいですね、趣味を。

― チームメイトからお誘いは?
ないですね、ご飯とかは行きますけど。
僕、ゴルフしないんですよね。オシ(押谷選手)とか何人かやってる選手はいるけど。ゴルフやればよかったっすよね、時間あるときに。
「やった方がいいよ」って、若いときに言われるじゃないですか。今思えば、ゴルフやっとけばよかったなって。けど、今更やるものでもないと思うので。奥さんからしたら、昔からゴルフをやってるパターンと、今ごろ始めて行かれるのとではやっぱり違うじゃないっすか、イメージが。もうちょっと子育てが落ち着いてから始めようかな。趣味募集中ですね。

― 最後に、ファン・サポーターへメッセージをお願いします
今年こそJFLに上がりたいなって、去年すごく思いました。
このチームに呼んでもらって恩があるので、福井には。
今は、見せないようにしてますけど、ずっと上げたいっていう気持ちは強く思ってるので、最後まで頑張りたいと思います。

クラブ事務所でのインタビュー後、大野のサッカースクールに出かけるなどピッチ外も多忙

(インタビュー:細道 徹)