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【Crew.7】 ニュートリションアドバイザー/仁愛大学 健康栄養学科

アスリートの育成、コンディショニングには、日々のトレーニングだけ

でなく、日々の食事でニュートリション(栄養)の管理も重要な要素。

選手への補食の提供や体組成チェックなど、食事、栄養のサポートを

約10年続けている「Crew」、仁愛大学名誉教授の桑守先生、

仁愛大学健康栄養学科の鳴瀨先生に話を聞いた。


プロフィール
仁愛大学 健康栄養学科
栄養と健康に関わる多彩なフィールドでの活躍が期待される管理栄養士を養成する専門学科。学科長は、福井ユナイテッドFCの栄養指導にも尽力されている 鳴瀨 碧教授。

 

ー 桑守先生のプロフィールについて教えてください。
桑守:私、島根県の出身なんです。山口県に近い石見地方、益田市の生まれ。大学は京都に行き、卒業後はそのまま京都で勤めていたんですが、結婚をして富山に移りました。それで富山短期大学で定年まで勤めたあと、専任教員として仁愛大学の健康栄養学科へ来ました。

仁愛大学 健康栄養学科で長年教鞭を取られていた桑守豊美先生

ー 桑守先生の専攻科目は?
桑守:なんでも屋です(笑)。仁愛大学では公衆栄養学と応用栄養学(スポーツ栄養学)を担当していました。栄養学には応用栄養学という中に、乳幼児、老人、スポーツ栄養という分野があるんです。多くの大学では、スポーツ栄養は独立した科目となっています。私が応用栄養学を選んだ理由はそのときに担当者が空いてたからかな(笑)。

ー スポーツ選手への支援を始めたきっかけは?
桑守:最初は、富山県でアイススケートの選手のお世話をされていた人から「富山で合宿をしているので、スポーツ栄養の話をしてもらえないか?」と相談されたのがきっかけです。パシュートが初めてオリンピックの正式種目となった2006年のトリノオリンピックに出場したのが富山の選手、田畑真紀さん。あとはバドミントンの高岡西高校。

ー では、サッカーとの出会いは?
桑守:福井に来てからですね。福井ユナイテッドFCの前身、サウルコス福井の関係者の方が、越前市が開催したスポーツ栄養学の講座を聞かれた後にチームの栄養指導について頼まれたのが最初でした。それで、こちらから学生の研究論文の題材にさせてくれないか?というのを交換条件に、スタートしました。

ー 仁愛大学とサウルコス福井の関わりは?
鳴瀨:2015年からですから、もう10年近くになります。最初の頃は、おおい町でおこなっていた合宿に学生たちも帯同して、そこで選手たちの食事を調理して提供することもしていました。1泊2日の合宿でしたが、前日夜から現地に入って準備をしました。昼食、夕食、朝食の3食を準備するんですが、朝食準備のため、学生たちは早朝3時起きで取り組んでいました。

ー 学生さんは大変ですね。
鳴瀨:そうですね。例えば、天候とかで練習のスケジュールが変わったり、あらかじめ夕食は19時からってお願いされていても、ちょっと早く上がったから夕食の時間を早めてくださいと言われたりもします。実際の現場ではそこを対応しないといけないので大変でしたけど、学生たちにとっては良い勉強になったと思います。

ー 福井ユナイテッドとの関わりで行ってきたことは?
桑守:昨年まではトレーニング直後に補食を提供していました。データからもトレーニング直後に補食を摂るのが良いというのは実証されているので、それでおにぎりや飲み物などの食材をトレーニング後の時間に合わせて持ってきていました。本当は練習前の朝食を充実できれば、それが一番の改革になっていいんですけどね。

ー そこで、今年の関わり方が変わるということですか?
鳴瀨:昨年までは、トレーニング後にちゃんとリカバリーに見合うだけの補食を提供して、それで身体の状態がどう変わっていくかっていうことに注目していたんです。いろんなアンケートや食事と身体状況の調査をして、トレーニング後の補食提供や各選手に対する食事面でのアドバイスを通して、栄養の足りてないものを補なって身体を作っていくっていうことをやっていたんですが、昨年の結果からトレーニング後に補食を提供しても、思ったほどいい影響が見られないということから、内容を変更することになりました。

ー 効果が少なかったということですか?
桑守:これは仕方がないことなんですが、チームのスケジュールとして朝9時からトレーニングをしています。皆がそうではないけど、中にはしっかりと朝食を摂れていない選手もいらっしゃるので、ハードなトレーニングをするとトレーニング後に身体はマイナスの状態になっていることもあります。

ー サッカー以外の仕事をやりながら、なおかつひとり暮らしの選手にとっては難しい部分もありますね。
鳴瀨:そうですね。昨年はちょっと分析の仕方を変えて、選手たちが朝・昼・夜で、毎食ちゃんとバランスの取れた食事を摂れているかということも分析してみたところ、三食全てで、比較的バランスの取れた食事をしていた選手が数名いたんですけど、その選手たちはシーズンを通して身体の状態、筋肉量が維持されたりとか、向上していたりという、身体が上手く作られているという結果が得られました。この選手たちは、家族と同居で奥さんが食事の用意をされている人たちでした。

ー 摂取量よりもバランスが大事ということですか?
鳴瀨:タンパク質を摂るにしても、 朝はあんまり食べてなくて、昼夜はガッツリっていうよりも、朝昼晩で三食均等にタンパク質を摂った方が、 身体作りには効果的ということが最近の研究で言われてきています。アンケート結果から多くの選手の朝食にはまだ問題がありました。朝の食事の内容が偏っていたので、そこを改善したら練習後の補食よりも身体に良い影響が出るんじゃないか?という想定で栄養サポートの計画を立てました。

ー 特に朝食にアプローチをしていく方向に変わったんですね
鳴瀨:今年は、まず各選手が朝食はどんなものを摂っているかっていうのを調査しました。大体は、ご飯に納豆や卵を食べている方が多かったです。でも、ご飯とタンパク質は摂ってはいるけれどまだ量が不足している。そして、圧倒的に野菜が少ない。そこで栄養サポートとして朝食にタンパク質をプラスするのと、練習前の水分補給も少ないようだったので、水分補給をすることにしました。もちろん、ただ単に水分を普通のお水やお茶で摂るのではなくて、野菜不足を補う意味も込めてビタミンやミネラルが入ったスムージーを摂ってもらうことを考えました。タンパク質摂取のためにプロテイン入りヨーグルト、水分とビタミン・ミネラルの摂取の目的でスムージーを取り入れることにしています。

選手の朝食について調査をする仁愛大学の学生(右2人)と安川選手(左)

ー ちなみに、アスリートの場合はどのくらいの摂取量は必要なんですか?
鳴瀨:競技や各選手の体格や運動量などによって違いはありますが、アスリートは一般の人の1.5倍〜2倍はタンパク質が必要です。
例えば、体重70kg、体脂肪率10%の選手の場合、1食あたりで少なくとも33.4gのタンパク質が必要。朝昼夜の三食で少なくとも大体1日100g程度のタンパク質が必要となります。(33.4×3≒100)

ー この朝食補完メニューは、どのくらいの期間を予定していますか?
鳴瀨:8月から10週間になります。だいたいこういった類の効果が現れるのは、3ヶ月ぐらいですから、10月の中旬に再度、体組成チェックを行う予定です。

ー 3ヶ月後が楽しみですね。チームは大学との連携で選手の強化育成に活かすことができますが、逆に、チームと関わることで大学にとってのメリットはどういったものがありますか?
鳴瀨:福井ユナイテッドさんには、実際の選手の皆さんに関わらせていただいて、将来管理栄養士の資格を取得して「スポーツ栄養士になりたい!」という学生にとって、アスリートの栄養サポートを経験し、実践的なスポーツ栄養学を学べる貴重な環境を提供していただいています。
スポーツ栄養分野のいろいろな取り組みを学生が興味を持って熱心にやっているというのは、それだけで大学にとっても大きな宣伝効果があると思います。
スポーツ栄養をやりたいと思って、仁愛大学に進学してくる学生もたくさんいますから。今年はオリンピックもありましたが、スポーツ栄養士は管理栄養士の中でも人気の仕事ですからね。

インボディの計測をする押谷選手(真ん中)

ー 管理栄養士の中でも人気なんですね?
鳴瀨:やっぱりスポーツ選手に関わるような仕事って、学生たちからしたらすごくかっこよく感じるじゃないですか。
なので、スポーツ栄養士を志して管理栄養士を目指す学生は多いです。実際は選手の栄養サポートをするのは縁の下の力持ちで、とても責任重大で大変な仕事なのですが、その大変さも福井ユナイテッドさんと関わらせていただくことによって学んでくれればと思っています。

ー 桑守先生は2006年の冬季オリンピック出場選手にも関わっていますが、スポーツ栄養は以前からあったのでしょうか?
鳴瀨:その分野で仕事をすることは昔からありましたが、公認スポーツ栄養士という制度ができたのは2007年からです。なので、まだ20年も経っておらず、比較的新しいですね。スポーツ栄養士は日本栄養士会と日本スポーツ協会の共同認定の資格です。その資格を取得するためには、まず管理栄養士の国家資格を取得することが必要です。

ー 桑守先生が福井ユナイテッドとの関わりを続けてきた原動力はなんですか?
桑守:たまたま続いたんですよ。言葉が悪いけど、最初は選手が「かわいそう」って感じでした。過保護は決して良いことではないけど、ここは支援が足りない感じがしていたから。これまで関わったところは、本当に周囲のみんなの支援が凄かった。スピードスケートは会社ぐるみで、バドミントンは父兄が熱烈で。その人たちに比べたら、サポートが少ないと感じていたんです。今のチームは福井県出身者が数人でしょ。その他はみんな県外出身だから、お嫁さんが居られたらいいけど、独身の人はみんな自分で食事を用意するわけだし、働かなきゃいけないので。
オリンピックでも活躍された、バドミントン女子タブルスで有名な「タカマツペア」の高橋選手の妹さんが関わっていた高校にいたんです。選手は下宿していましたが、選手のお母さんは、いつも献立メニューを書いては、私のところに持ってこられて「これで大丈夫ですか?何が足りないですか?」と相談に来ていました。

ー ホームだけでなく、アウェイにも駆けつけてスタンドで応援されている桑守先生から見た、今年のチームの印象は?
桑守:今のチームは、若い選手も経験のあるベテランの選手もいるし、良いバランスだと思います。それに、選手の中には、だいぶ栄養についての知識がある選手もいますね。そういうところで、ベテランの選手が若い選手に良い影響を及ぼしていると思います。でも、サッカーはよく分からないんです。ゴールにボールが入れば得点が入るというくらいで、ルールは勉強していないので(笑)。

ー 桑守先生、個人としての思いは?
桑守:実は、昨年で仁愛大学の非常勤講師も終わりになったため、前々から実家の島根に帰ろうと決めていたんです。だから、私ごとですけど、絶対にJFL昇格。今年こそ昇格してほしいと本当に期待しています。

選手の体組成調査にご協力いただいている仁愛大学健康栄養学科 鳴瀨ゼミの3.4年生。後列左端が鳴瀨先生

(ライター:細道 徹)