チャミチャム case1『気が澄むまでここにいる』上演台本
はじめに
チャミチャムは、かるがも団地でもお世話になっている俳優・波多野伶奈さんによる"ひとり(+プロデューサーとして月館森さんがお手伝い)ユニット"です。
"劇団"のようながっちりとしたものというよりは、波多野さんが自分のやりたいことを形にするためのゆるやかな居場所、でしょうか。
公園につくった秘密基地、家でやる餃子パーティー、行きつけの喫茶店、冬場だけ庭に作るかまくら。私はそんな印象を持っています。
そんな立ち上げたばかりのユニットでの初の試みの場にお声がけいただき、波多野さんの一人芝居を書かせていただきました。光栄でした。本当に。
私の力及ばず、当初進めていたプランを途中で頓挫してゼロから作り始めたこともあり、台本の完成が大幅に遅れてしまいました。波多野さんをはじめ、関係者の皆様に多大なるご迷惑をおかけしてしまったこと、猛省しております。そして僅かな準備時間の中で上演実現に向けてご尽力いただいたこと、本当に感謝しかございません。
このお話は、波多野さんと僕とで、互いの経験を紐解いてみながら土台を組み立てました。その原案/プロットの段階におきまして、波多野さんに大いにご協力をいただきましたこと、重ねて御礼を申し上げます。
仙台はかつて私の父が単身赴任で、実家の秋田から10年間以上通っていた土地です。私も小学生から中学生の頃にかけて何度も遊びに行きました。
大好きな街を舞台に、あたたかではなく、東北の"涼しい"春のお話をつくりました。
恋のおわりの話です。ラブストーリー、というよりラブイズオーバーストーリー。(勿論いろんな人に読んで欲しいですが)かるがも団地で劇をつくる時よりも、ちょっと少数派の人をターゲットに書いてみました。こんなことを思っているのは私だけかもしれない、と考えすぎてしまうような、ちょっと拗らせてしまうような貴方に届いたら嬉しいです。
前置きはこれくらいにして、本編をお読みいただければと思います。
どこかで感想をいただけたら嬉しいです。
チャミチャム case1『気が澄むまでここにいる』上演台本
脚本:藤田恭輔
脚本協力:波多野伶奈
登場人物
井上青葉(いのうえ あおば・26)
樹生くん(いつき)
おじさん
美鈴ちゃん(みれい)
○シーン0(前説)
波多野、登場。
波多野 本日はチャミチャム case1 『気が澄むまでここにいる』にご来場いただきありがとうございます。 (前説をする)…… 一応これからやる劇は2022年の話なのですが、舞台上と客席の間に世界の歪みがあって、私の住んでいる世界ではコロナというものは存在しません。なので、あ、存在しないんだって思ってください。うん、なんか、大丈夫そうですかね?じゃあ、ぼちぼちやっていきます。
青葉 で、私はこれから会社の有給を消化しつつ、東京から仙台に旅行に行ってきた時のお話をしようかなって思ってます。あ、これは日記です。昔からたまにつけてます。
ひとりで、行ってきました。ほんとはね、二人で行く予定だったんですよ。お付き合いしていた人と。樹生くんっていうんですけど。付き合って、丸2年経つし、その記念に行こうって、アニバーサリーな旅行にしようね〜って、ねねね~って、話してて。私ずっと待ってたんですよ。(日記を開いて)シーン1、2022年の4月6日。JR東京駅・東北新幹線ホーム
○シーン1:JR東京駅・東北新幹線ホーム
駅の雑踏が聞こえてくる。
青葉、新幹線ホームの階段(会場のドア向こう)の方が気になる。
少し寄ってみる。しかし彼らしい人間の姿はない。
青葉 ……まぁ、よく約束とか、遅れてくる人なんで……映画行く時もちょっと本編始まっちゃってるみたいなことザラだし。でもさすがになって思って、(LINEを打つ)「いま、どこ?」
SE:着信音。
青葉 あ……え、体調とか悪い?間に合う?……いやもう結構やばいと思うんだけど?……え、ほんとにどうするの?
雑踏、聞こえ続けている。
青葉 ……ん?……うん、ちょっともう一回言ってもらえる?
SE:「まもなく発車します」
青葉 ……解散?解散?
SE:発車ベル
青葉 え、え、え!?……焦る私をよそに、ものすごい形相でおじさんが駆け込み乗車しようと走ってきて、わ、わ、わ!
青葉、おじさんに押された末に、焦って車内に入ってしまう。
SE:電話の切れる音。
青葉 あれ……
SE:ドアの閉まる音。+新幹線の走行音。
青葉 ……シーン2、新幹線やまびこ 131号・車内
○シーン2:新幹線やまびこ 131号・車内
とぼとぼと歩き、座席に座る青葉。
青葉 解散、解散、解散……ぼくたち解散しよう、ぼくたち解散しよう……?
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