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近代仏教学


1.近代仏教学とは

仏教学と一口に言っても様々な分野がある。

地域という観点では、インド、スリランカ、ネパール、チベット、中央アジア、モンゴル、中国、朝鮮、日本、タイ、カンボジア、ヨーロッパという視点がある。

そこに時代という枠組みが加わるとさらに分野は枝分かれする。

そして時代に加え、思想的な切り口も加わると果てしなく研究領域は広がる。

「インド 3~4世紀 空」、「中国 7~10世紀 禅」
ここにさらに経典・論書や人物が入ってより詳細になり研究が行われるのである。

このように仏教学の領域は多岐にわたり、煩雑な印象もあるが、大体想像した研究は存在し、先行研究に出会うことができるし、自分の想像を超えている発想の研究もなされており非常に興味深いこともある。


そこで本記事の題名にもある近代仏教学であるが、これは昨今の仏教学で流行の兆しを見せているというのか、俗にいうと流行っている研究領域である。

ではなぜ流行っているのか。

この問いに容易には答えることはできない。しかし「近代」からすこし時間が経ったので、少し客観的な視点で近代の仏教学とはいったいなんだったのかを問うことができるようになり、そしてそれは現在行っている仏教学とは何かにも繋がるという回答は与えることができよう。
(いつから「近代」と言えるのかは問題ではあるが、従来の仏教研究の方法つまりは経典や論書の出自などを問題にせず専ら訓詁的に研究をするといえよう。)


つまり近代を問うことで現が理解ができる。

そのため近代仏教学が盛んである。

このように近代の取り組みを自己反省的に問うことができるのは、ある種余裕がでてきたのであり、仏教学が成熟してきていると言えるかもしれない。


2.近代仏教学研究史

では近代仏教学はどのように研究されてきたのか。

研究史としては三つに分類できる。
1.戦前
2.吉田久一をはじめとするビッグスリーらを代表とする第一のピーク
3.末木文美士の一連の著作からスタートする第二のピーク


1.戦前

戦前を代表する研究者は島地大等、辻善之助、村上専精、鷲尾順敬、徳重浅吉、圭室諦成、土屋詮教などである。

彼らは研究対象を「明治仏教」と呼んでおり、明治時代の日本の仏教を主な対象としていた。

また欧米からキリスト教や近代の学問が流入し、仏教もそれらに引けを取らない文化、宗教であることを示すため、仏教の再構築が迫られた。

特に村上専精は『仏教一貫論』や『仏教統一論』という著作を残し、欧米の文化に侵食されないよう、護教的に仏教を再構築しようとした。


2..吉田久一をはじめとするビッグスリーらを代表とする第一のピーク

まずビックスリーとは誰かを挙げておこう。
吉田久一、池田英俊、柏原祐泉の三人である。

それぞれの代表的著作は『日本近代仏教史研究』、『明治の新仏教運動』、『日本近世近代仏教史の研究』である。

著作名からわかるように、「近代」という名称を用いているため、現代とは距離のある時代と意識して研究に臨んでいることがわかる。

またこの段階では主に日本の仏教に限定されており、他の地域に言及されていることは少ないと言える。


3..末木文美士の一連の著作からスタートする第二のピーク

一連の末木の著作とは下記の三点である。
・『近代日本の思想・再考Ⅰ 明治思想家論』2004(以下『再考Ⅰ』)
・『近代日本の思想・再考Ⅱ 近代日本と仏教』2004(以下『再考Ⅱ』)
・『近代日本の思想・再考Ⅲ 他者・死者たちの近代』2010(以下『再考Ⅲ』)

『再考Ⅰ』については題名が示している通り、明治の思想家を取り上げている。

これがなぜ注目されたのかというと、従来ではあまり言及されることのなかった、村上専精や綱島梁川が一章を用いて書かれており、近代日本の多様さが表現されているという理由が挙げられよう。

そして『再考Ⅱ』では近代日本と仏教の関わりが重点的に書かれている。


一連の著作と言ったが、出版年を見ると、『再考Ⅰ』と『再考Ⅱ』は2004年、『再考Ⅲ』は2010年に出版されている。

つまりは『再考Ⅰ』と『再考Ⅱ』で風呂敷を広げ、『再考Ⅲ』で畳んだと言えよう。

この末木の一連の著作により、第二のピークが到来し、末木の著作に触発され、「近代の日本の仏教」に留まらず、国家との関係や近代の思想家がどのように仏教を捉えたか、さらにアジアでの近代仏教、欧米での近代仏教研究についての研究等様々な分野が開かれ現在に至る。


以上が近代仏教史に関する簡単なまとめである。

個人的に近代仏教の興味深い点としては、欧米発祥の近代的な仏教研究、文献学をベースにしたテキスト重視で歴史的科学的に研究する方法が日本に入ってきたとき、その当時の仏教者はどのように対応したかという点である。

欧米の近代仏教研究により、仏教史が構築され、大乗仏教が釈尊在世時の初期仏教より、約500~600年後に始まったことが分かり、さらに教説にも大幅な違いがあることから、大乗非仏説が通説であった。

そのような学問が流入したとき、自身の実存の根幹である大乗仏教が非仏説とされた当時の仏教者は何を感じどう行動したかはやはり興味深い。


このように近代仏教研究では様々な観点があるため、ぜひ著作に触れていただきたい。


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近代仏教研究に触れられる著作として本文中に挙げたもの以外では

・末木文美士ほか編『ブッダの変貌-交差する近代仏教―』、2014,法蔵館

・大谷 栄一ほか編『近代仏教スタディーズ: 仏教からみたもうひとつの近代』、2016、法蔵館

が挙げられる。アマゾンやCiNiiで近代仏教と調べると様々な文献がヒットするのでぜひ試してほしい。




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