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【ミュージアム散歩】鑑真さんのいる部屋で感じたこと

<散歩01>特別展=京都国立博物館「鑑真和上と戒律のあゆみ」(2021年3月27日~5月16日)

■戒律の展覧会とは?

鑑真は知ってても、「戒律のあゆみ」とは?なんか難しそう。行く前はそんな印象でした。鑑真といえば、奈良時代に唐から渡来した教科書にも載っている有名人。5度の失敗にもめげず、6度目の航海でなんとか奈良の都に着いて、唐招提寺を開いた偉いお坊さん、そんなイメージでしたが、苦労してきただけでなく、実は日本の仏教界に革命的役割を果たしていたことを、この展覧会を見るまで知りませんでした。
その役割とは「戒律を授けたこと」。戒律とは、出家や在家を問わず「仏教の実践において守るべき規範」だそう。ただ、戒と律は少し違っていて「戒」は自分の心の中で守る(強制されない)規範で、「律」は教団の教義や組織を維持するうえでの規律で違反すれば罰もあるもの(戒が個人の倫理観で、律が就業規則とった感じ?)。その戒律を一般の僧侶に授ける(=受戒する)ことができる、位の高い僧侶として呼ばれたのが、鑑真和上で、そんな偉いお坊さんが、まだ、仏教が伝来して100年ほどの日本にいなかったということですね。鑑真和上のおかげで日本仏教界におけるルールが定まったといって良いかもしれません。ちなみ「和上」というのは受戒できる僧侶の尊称とのことで、まあ鑑真先生みたいな意味ですね。

とにかくこの展覧会のトピックは、普段は唐招提寺に安置されていて、年に数日しか公開されない「鑑真和上像」が博物館に来て、会期中ず~っと公開されていること。なんと鑑真和上像が唐招提寺の外に出るのが12年ぶり、しかも51日間も!この事実のすごさは、奈良の知り合いに話したときに「ほんまに出るの!!」とびっくりしていたことに、こっちがびっくりしたほど。

■やはり行ってみないと 博物館ならではの空間が

実際、会場に訪れて一番印象深かったのが、やはり鑑真和上像の展示されていた、1階の一室でした(京博の平成知新館は3階建て)。入口の正面にたたずむ鑑真さん。静かに瞑想する姿を現している座像は、修行の厳しさよりも、部屋に入った人を迎えるような、やさしく平和なお顔。加えて、鑑真和上像の右側には、真言宗の空海さんの座像が、また左側には律宗の中興の祖といわれる西大寺の叡尊さんの座像があり、3人が向き合う形に展示されていました。この3人が生きていた時代は異なるのですが、まるで空海や叡尊が、鑑真さんの教えを聞き、また会話しているかのような空間でした。受戒のために渡来した鑑真は、いわば日本に本場の教えを伝えた仏教の先生で、その後、広がって分派していった日本の各宗派の教えの源は鑑真さんともいえます(この事実に気づいただけでも来てよかった)。
何より鑑真、空海、叡尊この3人がこうして向き合うことは、これが最初で最後かも?その真ん中に立ってたたずんでいると、3人の高僧から日本仏教の講義を聴き、伝えてきた教えに包まれているような、まさに博物館の展示ならでは空間がそこにありました。
もちろん鑑真和上像以外にも、戒律を伝えて広めてきた多くの資料が展示されていたこの展覧会は、新型コロナの影響で中断するも、最後の数日間は再開館し、期末を迎えました。これまでも人々が疫病などに苦しめられてきたことは歴史が示しています。今回、何とか再開できたのも「鑑真の教え」を信じて伝えてきた人々のおかげかも?伝来から1400年、仏教はこれからも日本人の支えとなって伝わっていくのだろうな。
以上~!

〇展示物のすごさ      ★★★
〇解説           ★★☆
〇ストーリー構成      ★★☆ 

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