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《ショートショート*4》 ふしぎな自販機

【ジャンル:少し不思議で手軽に読める物語 文字数:1,793文字】



家へと帰る途中に自販機を見つけた。

「気持ち悪い。水をくれ。水を」

今日は少し飲みすぎてしまった。

自販機を見ると、ラインナップの中に、「水」と書かれた商品がある。

男は財布から150円を取り出して、「水」の下にあるボタンを押した。

ガタン

真下から勢いの良い音が聞こえた。

取り出し口の押戸をあけてペットボトルを取り出し、蓋を開けて、ペットボトルの水をごくごくと喉へと注ぐ。と、次の瞬間、異変に気がつき、口に含んでいた水を全て吐き出した。

「ぶはっ!なんだこれ!」

めちゃくちゃしょっぱい。まるで塩水でも飲んでいるようにしょっぱい。

「なんだよこれ」

ペットボトルを見ても、白色のラベルに、青い文字で「水」と書かれているだけ。おかしいところはない。

ただ、自販機に目を移してみると、製品の下に書いてある文字がいつもと違う。

だいたい、つめた〜いとか、あったか〜いとか書いてある場所に、「海」と書いてあった。

「海って・・・。はあああああああ?海水ってことか!?」

一気に酔いが覚めた。口の中がめちゃくちゃしょっぱくて、すぐにでも真水を飲みたい。この際水じゃなくても良い、と他のメニューに目を移してみると、違和感に気がつく。

「なんだよ、この自販機」

今まで気が付かなかったが、ところどころ何かがおかしい。普通、飲料の見本みたいなものが並んでいると思うのだが、商品名が書かれていないペットボトルが置いてあるだけのものや、あからさまにペットボトルや缶のシルエットでないものまで置いてある。

「これ絶対シャンプーじゃねえか。LUXって書いてあるし。てか、シャンプーのあったか〜いってなんだよ」

普段家で使っているシャンプーが自販機にあるとは思わなかった。

他のものに目を移してみると、缶コーヒーのシルエットの下には、「うるさい」と書かれている。

少し気になったので、150円を入れてボタンを押してみた。すると、

ガシャガシャガチャーーーーーーン!!

足元からとても大きな音が鳴ってとてもびっくりした。夜も遅い時間なので、近所迷惑にならないかひやひやしたし、いきなりだったので、心臓もバクバクしている。

一応、中をみてみると、普通のスチール缶が一つ入っていただけだった。よくみると、取り出し口の両端にスピーカーがついている。

「そういうことか」

どうやらさっきの音はこいつが鳴らしていたらしい。仕掛けがわかると少し安心した。

なんだか少しだけ楽しくなってきた自分がいる。面白いのがないか眺めていると、「さむい」と書かれている缶のシルエットを見つけた。

「つめたいとかならわかるけど、さむいってなんだ?冷風でも出るのか?」

ちょっとした好奇心に駆られ、200円を入れてボタンを押してみた。

「なんでちょっと高いんだよ」

ガタン

取り出し口に手を突っ込んで、中の様子を探る。すると、缶に何かがくっついている感じがする。

「なんだこれ、なんか丸いものが」

よくよく取り出して見てみると、缶のプルタブ側にみかんのおもちゃがくっついている。

「これって柔らかいからアルミ缶だよな。上にみかんが乗ってるってことは」

”アルミ缶の上にあるみかん”

「いや、しょうもなっ!さむいってそういうことかよ!」

てっきり自販機からとびきりの冷風が出るのかと思っていたので、とんでもない肩透かしを食らった。

「てか、プルタブ側にみかんが乗ってるんじゃ、缶が開けれねえじゃねえか!」

幸い、缶の重みは感じないから、どうやら中身は空らしい。これに200円か。

「さむい」を押したことを少し後悔した。

そろそろ本気で喉が渇いてきたし、家に帰ってちゃんとした水が飲みたい。次が最後だ。

最後に押すボタンはもちろん決めてある。

最初から気になっていたボタンがあった。飲み物の見本が何も入っていない商品だ。

ちょっとドキドキしながら150円を入れて、「しまい」のボタンを押してみた。何が出るのだろうか。

すると、ひゅーーーーーーん。という音とともに、自販機から光が消えて、静かになった。

一瞬何が起きたか分からなかった。

「ん?これ、もしかして終いってことか?おしまいってこと?」

さっきまでの心臓のドキドキはどこかに行ってしまった。

「しょうもな」

そう言って、ふんと息をつくと、だんだん脳内に冷静な思考回路が戻ってくる。

何かを忘れている。

「って、ちょっと待て。金返せーーーーーー!」

電源が消えた自販機からの反応はない。

(おしまい)

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