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【通学カバンを科学する】#4 軽いのに、高機能。『ゼロランド』開発への挑戦

ランドセル国内製造販売本数No.1※ブランド『フィットちゃん』の魅力を伝えるnote。#4では、代表の橋本と開発担当の山田&平譯が、新モデル『ゼロランド』開発への挑戦についてご紹介します。

  • 左/橋本 昌樹(はしもと まさき):ハシモトグループ代表取締役。2021年に就任。

  • 中/平譯 武(ひらわけ たける)2006年入社。生産部部長、工場長。

  • 右/山田 拓也(やまだ たくや)2013年入社。生産部組立課、部署長。

※「フィットちゃん」は、株式会社ハシモトが商標権及び背負ベルト取り付け具に関する特許権を持ち、複数社で製造販売するランドセルブランドです。[調査対象期間]2022年1月~12月[調査範囲]メーカーに限る[調査機関]株式会社東京商工リサーチ
https://www.fit-chan.com/catalog


【通学カバンを科学する】#1〜3はこちら▼
#1 私たちがつくっているのは、道具としてのランドセルではない。
#2 100メートル先まで存在を知らせる!『安ピカッ』誕生秘話。
#3 軽く感じる!『楽ッション』誕生秘話。

※本記事に登場する画像は、実際の製品で一部仕様が異なる場合がございます。

1.軽さと機能を追求した新しい形状のランドセル


−今年2月より発売の新製品『ゼロランド』は、どんなランドセルですか?

特徴的なフォルムの「ゼロランド」。全8色展開。

橋本:ランドセルメーカーである我々が、本体の軽量化を追求し、子どもたちの声に徹底的に向き合った新形状のランドセルです。サイズは2種類、カラーは8色展開で、最も軽いもので940グラムと、現状の『フィットちゃん』製品の平均的な重量と比べても300グラムほど軽くなっています。通常、ランドセルを軽量化すると機能が失われがちなのですが、ただ軽いだけではないのがこの製品の特徴で、『フィットちゃん』ならではの機能やフィロソフィーがぎゅっと詰め込まれています。

−開発にいたった経緯は?

橋本:まず業界全体の傾向として、ランドセルの軽量化を望む声が年々増え続けていて、ナイロン素材などのランドセル型リュック等も市場に出回るようになりました。我々も多様化するニーズに応えるため、軽さと機能性を兼ね備えた独自のモデルをつくろうと考えたのが始まりです。

【通学カバンを科学する】#1でも、軽さへの要望が多いというお話がありましたね。

橋本:そうですね。実は20年ほど前にも、軽量化の動きが業界で起こったんですよ。実際にかなり軽いランドセルが市場に登場したのですが、軽さを追求したせいで壊れやすかったりと、耐久性が問題視されるようになったんですね。それで、6年間使うためにはやはり頑丈さが重要だというトレンドに戻ったのですが、時代が巡り、中に入れる教材等が重くなった背景から、また軽さを求める声が増えています。

−ただ、「ランドセルは中身以上に軽くすることはできない」ともおっしゃられていましたよね?

橋本:そうなんです。小学校の教材は教科書1冊で300〜400グラム、ノート1冊で200グラム程度の重さがあり、それが何冊も入るわけですから、当然重くなります。『楽ッションらくッション』肩ベルトは、荷物を入れるとどうしても重くなってしまうランドセルを“いかに軽く感じるようにするか”に着目して開発されたものですが、それでもやはりカバン本体を少しでも軽くしたいというお客さまも多いんです。そこで、我々としても本体の軽量化を改めて検討することにしました。軽くなること自体は、子どもたちにとってもいいことですしね。

−なるほど。そこからどう開発を進めていきましたか?

橋本:軽さを追求する上で、機能を妥協することはしたくありませんでした。そこがないと『フィットちゃん』とは言えませんし、我々が手がける意味もありません。新しい選択肢となるランドセルをつくろうと、まず開発のプロである山田さんと平譯さんに声をかけました。我々のものづくりの根底にある「子どもたちに一番喜ばれる通学カバン」という考え方と、「6年間安心して使える」というランドセルとしての最低条件をベースに、続く優先順位を「軽さ」にすることだけは決まっていたのですが、それ以外は何も固まっていませんでしたよね。

山田:そうですね。ですので、まずはナイロン素材の製品と現状のランドセルを比較して異なる点を洗い出しまして、今回のランドセルにプラスすべき機能を検討していきました。

橋本:例えば水筒やペットボトルが入れられるポケットはナイロン製にしかない機能ですが、500ミリリットルサイズの仕様が多かったんです。そこで社員のお子さんを中心に独自調査を行ったところ、実際に小学生が学校に持って行く水筒のサイズは0.8〜1リットルが主流だということがわかりました。また両肩にかかる負荷のバランスが崩れることも避けたかったので、無理に付け足さなくてもいいのではという結論にいたりました。そんな風に比較・検討していくと、結局プラスすべき点は「軽さ」しかないなと思ったので、現状のランドセルの良さはしっかりと確保した上で、子どもたちが求める新しい機能と軽さを両立させようということになりました。


2.まずランドセルとして認識してもらうために


−形状はどのように決めていったのでしょうか?

橋本:そもそも“ランドセルとは何ぞや?”という議論から始まりましたよね。

平譯:そうですね。第一に、お客さまにランドセルとして認識していただく必要があるので、どんな見た目の条件が揃えばランドセルと呼べるのかについて話し合っていきました。実はこれはとても大事なことで、子どもたちは「ランドセル」がほしいんです。最近では新しいタイプの通学カバンが色々と出てきていますが、結果的にほとんどの方がランドセルを選んでいます。ショールームなどでお客さまと接していてわかるのは、機能としての合理性はもちろんありますが、それ以上に子どもたちにとってはあの形状が特別なんですよね。

橋本:議論した結果、「かぶせ(=収納部に被せる蓋)があること」「背負えること」「箱型であること」の三つに着地しました。そうしてコンセプトや最低限の見た目の基準を決めた上で、現状のランドセルをどう軽くしていくかという検証作業に入っていきました。

平譯:まず、私の子どもと山田さんのお子さんたちがちょうど小学生なので、彼らが1週間ランドセルにどんなものを入れて、どんな使い方をしているのかひたすらデータを取って、現状のランドセルに過剰になっている機能がないかを調べていきました。

山田:この企画が立ち上がった当時、私の子どもがちょうど小学2年生と4年生だったものですから、まだあまり学校生活に慣れていない小柄な子と、ある程度体格のしっかりしてきた中学年の子のデータを取ることができて、とてもタイミングがよかったと思います。

−そこからどんなことがわかりましたか?

山田:ランドセルの中は三つに分かれた構造になっていまして、一番容量の大きな部分が大マチ、その手前にあるのが小マチ、最前面にあるファスナー付きのポケットが前段(まえだん)と呼ばれます。まず前段に関しては、うちの下の子の使い方を見ていますと、雨の日に帰宅した際、傘をたたんで、前段から鍵を取り出して、玄関の鍵を開けるという三つの動作がうまくできておらず、ランドセルも地面に置いてしまうので底面がびしょ濡れになっていました。

フィットちゃんの通常モデルのサイズである「楽スキッ」。3つの収納部分がある。

−確かに小学2年生ではまだ難しいかもしれませんね。

山田:ファスナーを開けるという動作も大人にとっては造作のないことですが、小さな子にはなかなか難しいため、片手で開けられるマグネットフラップ型のポケットにしました。容量も改めて検討しまして、実際に子どもたちが前段をどう使っているのか調べてみると、主にハンカチ、ティッシュ、鍵、小銭入れ程度しか入れていないことがわかったんです。だったらそこまで大きさは必要ないだろうということになりまして、現状の四角ではなく三角のマチに変更して幅を狭め、同時にものの出し入れのしやすさも実現しました。また、フラップを固定すればポケットを開けたまま使うこともでき、給食袋などが入るサイズになります。

片手で開け閉めができる「マグネットフラップポケット」
フラップが上で固定することが可能で、給食袋なども収納可能に。

平譯:小マチに関しては、現状のランドセルにはサイズを調整するためのベルトが付いているのですが、これも調べてみると使っていない子が多かったので思い切って省きました。大マチは教科書を入れるメインスペースなので、現状通りしっかりと容量を確保しています。

−そして一番特徴的なのがかぶせ部分ですが、なぜこの長さになったのでしょうか?

橋本:軽さを優先するためです。かぶせと認識できる範囲内であれば、一番下までなくてもいいのではというところから、この長さに落ち着きました。技術的にはもっと短くすることももちろんできるのですが、やはりある一定の長さがないとランドセルには見えないんですよ。「そこまで短くなると微妙だね」とか言いながら、結構ギリギリのせめぎ合いを続けましたよね(笑)。

山田・平譯:はい(笑)。

−かぶせが短くなることで、床などに置いていても開けやすいですね。

平譯:そうですね。ただ、かぶせを固定する錠前という金具がなくなることで底面の強度が落ちるので、解決策として補強のためだけの金具を取り付けています。

底面は地面に擦れることなどを防ぐ「ダルマ管」が付いている


3.子どもたちの生活に合わせて取捨選択する


−940グラムという数字にはすぐに到達できたのでしょうか?

山田:いえいえ。まずは今ある材料とやり方で軽いランドセルをつくってみようというところからスタートしたので、途中で限界を感じ始めました。現状のランドセルが1200〜1300グラムありまして、あの手この手で何とか100グラムくらいは落とせたのですが、そこから先が苦しかったですね。このままでは難しいということで、機能の見直しだけでなく、先程お話ししたかぶせの長さなどのデザイン面の引き算もした結果、今の形に近いものに着地しました。そこからさらに軽くするためにさまざまな手法を試したのですが、中でも平譯さんが頑張ってくれたのが、材料をバラバラにして、1個ずつの重さを量ってデータを出すという気の遠くなるような作業でした。

平譯:あ〜、やりましたね(笑)。

山田:「これとこれを足したら何グラム」という細かいリストを作成してもらって、誤差を修正しながら、まず数字上でトータル950グラム以下に収めてサンプルに落とし込むというアプローチを行っていきました。

橋本:かぶせや箱型などの見た目の条件を守りつつ、かつ機能性も確保しながら軽くするのは、本当に大変なことだっただろうなと思います。私からは「高機能で!もっと軽く!」と無理難題を言われ続けるわけですし。

山田・平譯:…(無言でうなずく)。

−お二人ともすごくうなずいていらっしゃいますが(笑)。完成までにはどれくらいの期間がかかりましたか?

山田:丸1年ですね。最初のサンプルができ上がったのが昨年の春前で、そこから今でもずっと私の子どもたちにはモニターとして『ゼロランド』を使ってもらっています。問題が見つかればその都度社内で共有し、改善策を話し合って製品に反映します。

−お子さんの声を反映した具体的な例を教えてください。

山田:前段をマグネットにしたことによって学校で鍵を失くしたことがあったので、鍵用のフックを機能に追加しました。また、現状のかぶせであれば大マチの上部に余裕があるので、荷物が増えて多少厚みが出ても閉められるのですが、短いかぶせだと容量が足りないということで、かぶせを留めるバックル部分の長さを調節できるように改良しました。

バックル部分の調整は、ボタンタイプで簡単に調整可能となっている。

橋本:子どもたちに喜んでもらえるランドセルにするには生の声が不可欠なので、山田さんと平譯さんをはじめ、社員のお子さんにも20名ほどモニターになってもらいました。今回特にこだわったのは、軽くするために何かの機能を大きく削ぐのではなく、子どもたちの生活に合わせて取捨選択するということです。かつ、軽さだけを追求して耐久性と安全性が損なわれることのないよう、補強材などは極力省かず、『楽ッションらくッション』や『安ピカッあんピカッ』など子どもたちにとって必要だと思う機能はフル搭載しています。

楽ッション/安ピカッを搭載したゼロランド。従来と異なり肩ベルトまで反射する。


4.脈々と受け継がれる“フィットちゃんイズム”


−装飾のないミニマルなデザインにしたのも、お客さまの声を受けてのことですか?

橋本:それもありますが、まずは『ゼロランド』がランドセルとして使いやすいのか、子どもたちに喜ばれるのかを見たいと思ったので、あえてフラットなデザインにしました。必要に応じて今後刺繍などの装飾も検討していければと思っています。

−このシンプルさが個人的にはとても好きです。ここだけの話、みなさんが自分のお子さんに今ランドセルを買うとしたら、現状のランドセルと『ゼロランド』のどちらを選びますか?

平譯:私は子どもが選んだ方にします。

一同:(拍手)。

−全員に聞く前にもう100点の答えが出てしまいましたね(笑)。

橋本:二人ともどっちって言うのかな〜とか思っちゃいましたよ(笑)。素晴らしい!

山田:私も平譯さんと同じですね。自分の子たちを見ていてもそうですし、展示会などの現場で5、6歳のお子さんと直接触れ合った時にも思うのが、やはり本人がいいと思ったものが一番なんですよね。

橋本:先代である私の父が20年前に掲げた「子どもたちに喜ばれる通学カバンの提供」という品質方針が、今でも社員一人ひとりにしっかりと息づいているんですよね。こうした社風も“フィットちゃんイズム”と言えるのかもしれません。これからも、子どもたちの喜びを最優先に考えたものづくりを続けていきたいと思います。

工場や事務所など、社内にいるところに先代・橋本洋二が掲げた品質方針が貼られている。


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