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瀬尾まいこさんのバトンはどこにありますか?

「瀬尾まいこって知ってますか?」
「知ってる、有名じゃん。」
「本屋大賞とった人だよね。たしか映画にもなるような。」
「私、その小説に出てるんです。」
「えっ、それ本当?」

今日はじめましてのイラストレーターさんとの車での会話
「それがあなたってどうして分かるの?」
うたぐりぶかい私は聞いた。

「瀬尾まいこさんは私の高校の先生で、僕は本名で僕がしゃべったことがそのまま載っているし、設定がまんまなんです。高校時にダブってるとか。」

「えっ、そうなのですか?」
「すごい、うらやましいだけど。」
「どこに? どこに載っているの?」

「卵の緒ってデビュー作で、短編集の2作目です。」

夜の11時。
そのイラストレーターと別れたあと、なぜか嬉しくなって喜久屋書店によった。

この時間にまだ開いている喜久屋書店ってすごい。
平積みにて「卵の緒」を発見。
デビュー作の文庫本が近所の書店で買える。うーん売れっ子。
そして、文章に引き込まれ、その日のうちに読んでしまった。
あした、朝早いというのに。

初作品のクオリティーとは思えないレベルの高さ。
スルスル読める。
当時、田舎の農業の高校(生徒20人)の非常勤講師が書いた文章かとおもうと身震いする。
*この高校で非常勤講師として瀬尾さんは働いていてイラストレーターさんは生徒として出会った。

島津くん(イラストレーターさん)も小説にでずっぱりなのにも驚いた。
村上春樹でいうところの「顔のない男」のポジション。

*村上春樹の小説は意味がわからない各章が「顔のない男」によりゆるやかにまとめられ知らずのうちに納得感がみちてくる。
「顔のない男」はいなくてもいいかもしれない。でもいなければ村上春樹の小説ではなくなり読者は??? の海に放置される。

瀬尾まいこさんは村上春樹より親切なので「顔のない男」よりも詳細に人物像がわかる。

島津くんを表す文章はこんな

*三階の窓から入る冷たい陽の光が、島津くんの顔に影を作っている。顔色の薄い余計なものが何もついていない顔だ

*島津くんのノート写したと知ると、野沢(主人公の彼)は大喜びして「みせてくれ」といったが、中を見てがっくりきていた。
「これって、おまえちゃんと写したの?」
「何よそれ」
「あまりにも簡潔すぎるんだけど」
「島津くんは余計なものものは何一つ書かないみたいよ」

*隣の席になってみてわかったことだが、島津くんは聞いたことにはちゃんと答えてくれる。言葉数が少なく、自分からは声を発しないだけだ。
「島津君ってなんでもできるからいいよね。体育でも英語でも物理でも……。苦手なものってないの?」
「さばが食べられない」
「あ。私も嫌い。なんか初めて共通点をみつけた。」
「うん。よかった」
島津くんはいつも私の言葉なんて取るに足らないことのように静かに、でも丁寧に受け流す。「ホモなの?」と唐突に聞いたときも、別段驚きもせず、少し笑って、「どちらも好きだよ。女化男かに決めてしまうと、人を好きになれる可能性が半分になってしまうから」といった。次第に私は島津くんと言葉をかわすことがとても好きになっていった。

以上7`s blood より抜粋

このさわやかさに深さときたら……

「顔のない男」よりもミステリアス感がすっきり、さっぱりしていて、あやしさもない。

さすがに、瀬尾まいこさんは島津くんをしっかりと捉えている。

「ところで、文章になることって知ってたの?」
「いえ、知りませんでした?」
「うそ、まずくないそれ?いまどき?」
「でもうれしいです。なんか。」
「そうだよね、印象に残ったのはわかるもんね。」
「友達はなんで島津ばっかり、ずるいっていってましたけどね」
「ははは、たしかに……」
「でも、すごいね瀬尾まいこ」
「はい。」

「イラストレーターで売れたら瀬尾さんと話をしてみたいです。」


インスタで上げていたイラストと写真がよかったのでキャンプ場のイラストを依頼したのがきっかけで島津くんと知り合いました。

イラストがとてもよかったので、今回、撮影もたのみました。

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イラスト

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写真

キャンプ場の写真を撮るために初めてタープを張りました。
写真家として参加している島津くんにも手伝ってもらいました。

「初めてのタープ張り失敗しない張り方」というYou Tubeを見ながらの設営も、私が「もうタープ張るのあきらめようか?」というまで付き合ってくれました。

写真を撮りに来て、足元の悪いなかタープの設営とかさせられたのに
「いやだな、めんどくさいな」ってオーラがまったくないところ。

なるほど、こりゃ小説にだしたくなるわ

村上春樹の小説でもベルサイユのばらに登場させても違和感がない。

しかし、学校の先生が生徒を実名で登場させるとは大胆なことをしたものだ。「べつになにがあったわけでもない」と島津くんはいったが

どこかに通じるものがあったのかも。
瀬尾まいこさんは非常勤の国語の教師をしながら小説を書いていた。
農業専門高校の国語の非常勤講師が田中圭や石原さとみが出演する映画をつくるなんて想像できるだろうか?

島津くんも、長い間うまく言葉が出てこない、失語症になったという。
考えていることに、言葉がついてこないので一度自分で整理をして話さないと話せないという状態になっていたという。

外国語が堪能なのは、日本語がうまく話せないため外国語を思考言語とすることでうまく頭と言葉がリンクするという理由らしい。
外国語(7カ国)が話せるという理由は聞いてみないとわからないものだ。

みんないろんな感情を抱えて生きている。
感情がある時期、ある地点で重なると互いに引き合うことがある。
それが、気持ちの中だけでも。

7`s blood の島津君はひょっとして瀬尾まいこさんの島津くんへのエールなのかもしれないし、アーチストとしてなにかしらの共感があったかもしれないし、もっと純粋な興味なのかもしれない。

島津くんは「イラストレーターで売れたら瀬尾さんと話をしてみたいです。」といっていた。

令和最大のベストセラーとして「そしてバトンは渡された」は今月29日から上映される。
「自分が出てる小説持ってるの?」ときくと「持っていません」という彼は映画は見るのだろうか?

先を走っている瀬尾さんのバトンをうまく受け取ることができるだろうか?
どこかのタイミングで先生と島津くんがまた会えたらいいなと思う。






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