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新聞記者が学振を取ろうとした話

前回は学振の制度を書いた。今回は体験談。
新聞社を退職し研究に戻ろうと決めた理由や当時の心境、どう申請書を作ったかなど説明する。

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DC1申請、筆者の場合

当初は社会人ドクターを考えていた。働きながら博士課程に入り、有給休暇で集中的に実験する。得られた結果は平日の夜や休日に私用PCで解析し、論文としてまとめる…なんて生活だ。

実際に卒業後も研究室の先生とやり取りを続け、修士論文の一部を査読つき論文にまとめるなど業績も積めた。ただし、それができたのも最初の半年まで。徐々に仕事で一杯一杯になる。

気力が湧かない。重い腰を上げて取り組むも、私用PCのスペックが足らず解析途中で電源が落ちる始末。趣味として研究を続けるのは無理だった。

やるからには専念するしかない。かといって退職して無収入に戻るのも正直不安。学振を取りたいけど、そもそも社会人って申請できたっけ?

とりあえず「学振 社会人」を検索する。すると"会社員を辞めて学振をとるということ"という記事がヒット。熟読し、社会人から学振をとって大学院生に戻るイメージを掴む。

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先生とコンタクト、研究相談で脳汁が溢れる

次に必要なのは博士課程に戻る意思を先生に伝えること。筆者の場合、研究で偶然観測した「魚の特異な遊泳行動」の解明がずっと未練だった。先生に「もし学振が取れたら大学に戻りたい」と電話で伝え、メールでさらに相談した。

3月末にちょうど会える機会があったため、カフェで2時間ほど研究談義。どんな研究をしたいか思いの丈を伝える。すると先生が意義として期待できる効果など話を広げ、筆者も触発されてその場の思いつきを語り、やりたい研究を軸に計画が組み上がっていく。

これが楽しかった。一つの仮説検証から脳内の世界観が開けていく感覚。個人的なSNSで当時の心境をつづっていたが、テンションの高さが読み取れる。

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この相談が進路を決定づけた。

いざ執筆、論文読めんけど

4月、申請書の執筆を始める。研究室の先輩に連絡して過去の申請書を見せてもらい、イメージを補強。新型コロナウイルスで記者業はてんやわんやだったが、少しづつ進めようと私用PCを自宅の机に開き、電源をつけっぱなしにした。在宅勤務推奨で退勤後すぐ取り組めた点も大きかった。

だが書き始めてすぐ、いかに大学が研究環境として優れていたか思い知らされる。修士在学中に愛読していたジャーナルへアクセスできない。オープンアクセスしか読めず、検索してもタイトルまでだ。

急遽保存していたPDFを引っ張り出し、過去発表した学会誌も読み返す。先生や先輩を通じて最新情報も集めた。

新聞記事と研究計画書は違う、当たり前だが

4月中には完成させようと計画を立てるが、現実はそうはいかない。記者になって書くスキルは上がったと思い込んでいたが、向上したのはあくまで「新聞記事を書くスキル」だ。
先生曰く「なんか新聞を読んだ気分になったけど…研究計画書は違うからね」との指摘。思わぬ誤算である。

ちなみに新聞記事の大原則は「逆三角形」。短時間で要点を読者に伝えるため、最も重要な事実から順番に書く。前文となる11文字×10行に記事全体の要約を詰め、あとはニュース価値の高い話から伝える構成だ。ただし企画記事やコラムはこの限りではない。

申請書執筆は自転車操業?

とにかく時間に余裕がなかった。先生に申請書の「2. 現在までの研究状況」を見てもらってる間、次の「3. これからの研究計画」を書き、2 の初稿が帰ってきたら執筆途中だろうが即座に 3 を送付。

助言付きで 3 が返信されたら、最初に提出した 2 の修正案とともに新項目の「4. 研究遂行能力」と「5. 志望動機」を送る。帰ってきたら 3 の修正案を送って…と、自転車操業のような執筆だった。

同時に、専門外の人間が読んでも「どんな研究がしたいのか」「何の役に立つのか」がすんなり伝わるよう構成を練った。

ひとまず完成した申請書は親にも読んでもらい、感想を収集。
「これってどういう意味?」という言葉に注意しながら、細かい表現を修正する。

重複表現を削り、図表に説明させて文章をスリム化。結局4月中には決着がつかず、5月のGWも先生とスカイプ会議を重ねてなんとか完成させた。

改めて振り返ると…

読み返すと文章や全体の構成は上手くまとまったと思う。だが、図表の出来は先輩方の申請書に比べると明らかにクオリティが低い。

平日の日中は仕事で着手できず、土日祝日しか本格的に取り組めないぶん時間に制約はあった。それを見据えて2~3月から取り組めていたらより質を上げられたと反省。

社会人で、もしDC1の申請書を書く予定のある方。とりあえず今日、まずは書式のダウンロードから始めてはいかが。

学振内定から実際に退職した話は後日。 (fisheye)


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