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豊かな海を守る唯一無二の金融スキームを目指して「フィッシャーマンジャパン・ブルーファンド」の投資がスタート

一般社団法人フィッシャーマン・ジャパンとミュージックセキュリティーズ株式会社が共同で立ち上げた「フィッシャーマンジャパン・ブルーファンド」は今秋までに合計2社への投資を決定しました。経済的なリターンを追求しながら海洋環境保全の解決も目指すという国内初の金融スキームがいよいよ本格的にスタートします。このプロジェクトにはどんな思いが込められているのでしょうか? フィッシャーマン・ジャパン・マーケティング代表取締役社長の津田祐樹とミュージックセキュリティーズ取締役の渡部泰地さんに話を聞きました。(聞き手はフィッシャーマン・ジャパン安達日向子)

利回りを追求すると同時に社会課題の解決を目指す「インパクト投資」

――津田さんとミュージックセキュリティーズは、2014年にフィッシャーマン・ジャパンができる前からのビジネスパートナーだと聞きました。どんなきっかけでつき合いが始まったのでしょうか?

津田:東日本大震災が起きた時、私は石巻で父母が営んでいた魚屋を継いで働いていました。その時、ミュージックセキュリティーズは被災から立ち上がろうとしている事業者のために「セキュリテ被災地応援ファンド」というスキームを作り、全国の個人から出資や寄付を募ってくれました。うちの魚屋もその資金を利用させてもらいました。7年以上にわたって支援していただきました。

セキュリテ被災地応援ファンド公式HPより

渡部:セキュリテ被災地応援ファンドの特徴は、個人・企業の投資家からいただいたお金の半分を寄付、残り半分を投資に回す点です。震災によって壊れてしまったもの、なくなってしまったものは寄付で元に戻す。そのうえで、投資によってさらに成長してもらおう。そういう狙いがありました。津田さんにも長く伴走させていただき、最終的には194.94%という高い償還率で償還を果たせたと記憶しています。

――ミュージックセキュリティーズは社会的課題の解決を目指す「インパクト投資」の分野に力を入れています。日本の金融業界の中ではユニークな立ち位置かと思うのですが、どのような考え方に基づいているのでしょうか?

渡部:当初は音楽業界のための資金調達を目的としていました。インディペンデントでがんばっている才能あるアーティストたちに自分の音楽を追求してほしい。そのために出資という形での支援、言わば「伴走」をしたいというのが当初の目的です。インディペンデントという点が大事です。独立した立場で独自にがんばっているということ。そういう意味では、音楽以外の分野でも津田さんみたいにインディペンデントでがんばっている方がいらっしゃいます。そうした人たちがチャレンジするためには資金が必要で、リスクをとってそこに投資してくれる人を探すのが私たちの仕事です。投資である以上は利回りも重要ですが、それと同時に、集めた資金によって何らかの地域課題や業界課題、社会課題の解決にチャレンジする事業への投資となればもっと素晴らしいと考えています。

海というプラットフォーム自体を守る

――では、そのようなインパクト投資の一つとして「フィッシャーマンジャパン・ブルーファンド」が誕生した経緯を教えてください。

津田:海を守るにはどうしたらいいかをずっと考えています。フィッシャーマン・ジャパンは水産業に変革を起こそうと努力してきました。担い手育成などの取り組みが代表例です。でも、どんなに努力しても海というプラットフォーム自体が凄まじい勢いで壊れてしまっているという現状があります。海自体を守る取り組みが必要であり、この課題は大きすぎるためフィッシャーマン・ジャパン単独では解決できません。だから、全国の志ある事業者たちが連携、協働できるプラットフォームを作りたい。そういうプラットフォームがないのなら、自分たちで作るしかない。そういう風に考えました。 
 最大の課題はやはり資金調達です。海洋環境保全の事業は、大事だけど採算性が厳しいものばかり。だから本来は行政がやるべきことですが、補助金に頼ると次年度以降も事業を続けられるかが分かりません。借金しても返せる当てがないし、「数年で上場」というようなビジョンも描けないので一般のベンチャーキャピタルの投資対象にもならない。そういう中で数年前から、「インパクト投資はどうかな」と考えていました。ちょうどその頃、ミュージックセキュリティーズからご連絡をいただき、「一緒に海を守るインパクト投資のファンドを作りませんか」と持ちかけました。

FJが取り組む担い手育成事業TRITON PROJECTから全国でこれまでに約200名のフィッシャーマンが誕生した

渡部:私たちは二つ返事で「ぜひやりましょう」と答えました。先ほど話した通り、どんな業界であれチャレンジする人に資金を供給するのがミュージックセキュリティーズのミッションです。事業を行いながら海を守るという「ブルーエコノミー」のアイデアも具体的で素晴らしいと思いました。

津田:私たちフィッシャーマン・ジャパンがファンドの投資先として有望な企業をピックアップする。ミュージックセキュリティーズが候補となる企業の事業計画などを精査し、それと同時に出資してくれる機関投資家や企業・個人をつのる。そういう役割分担ですね。
業界では例がない取り組みなので、実際のスタートまでにはハードルがいくつもありました。通常のファンドなら利益やキャッシュフローなど評価基準が定まっています。数字を見れば投資の可否が判断できることが多いでしょう。ところがインパクト投資は数字だけでは判断できません。何をもって社会にインパクトをもたらしたと評価するのか。基準となる「物差し」の設定が重要かつ難しくなります。そういった点は投資の案件数を増やしながら考え方を練り上げていくことになると思います。

有望な投資先はまだまだたくさんある

――11月21日に発表された投資先について教えてください。

渡部:一例として福岡市に本社を置く「株式会社ベンナーズ」を紹介しましょう。祖父母の代から水産業に従事している井口剛志さんという若き経営者が2018年に創業した会社です。水産資源の有効活用をかかげ、とてもユニークな事業を行っています。流通前の段階で廃棄されてしまう未利用魚を加工し、おいしいミールキットを作ります。それを消費者に直接、サブスクリプション方式で販売するという事業です。

株式会社ベンナーズ公式サイトより

津田:骨が多くて加工が難しい、漁獲量が少なくて流通させにくい、こういったさまざまな理由で未利用魚になっている魚種がたくさんあります。一般の水産現場では、こういう魚は捨てられるだけでした。未利用魚が食材として利用されれば、そのぶん漁師は潤いますし、乱獲などの問題も少しは減っていくのではないかと思います。
また、海の中の海藻がなくなってしまう「磯焼け」が問題になっていますが、原因の一つは魚による「食害」です。草食の魚が海藻を食べてしまうのです。こういう魚たちはこれまで冬場になると活動量が低下していましたが、海水温の上昇で最近は年中元気です。そのぶん磯焼けが深刻になっています。ベンナーズが手がける「未利用魚の活用」は、こうした問題へのアプローチとしても有効かもしれません。

――投資先はどのように選んだのでしょうか?

津田:今回は完全に「津田フィルター」で選びました。これまでに多くの案件が弊社に寄せられてきておりまして、その中でも特に社会的意義が高い、資金を提供すれば拡大が見込める事業を選びました。
フィッシャーマン・ジャパンはおもしろそうだったらなんでもチャレンジする集団です。10年近く続けてきたので、ユニークな水産業者の情報が全国から集まるようになりました。また、事業内容を聞けば「これは有望だな」とか「少し難しそうだな」とかいうことも感覚的に分かるようになってきました。その感覚に基づいて判断しました。

――今後の抱負を教えてください。

渡部:とにかく多くの投資家に興味を持ってもらいたいです。フィッシャーマンジャパン・ブルーファンドが危機に瀕した海洋環境に変化をもたらす金融スキームであることを知っていただければ資金はもっと集まると思います。他の投資で得られた収益の一部や、補助金やスポンサー、広告宣伝費などのもともと一方通行であった資金のなど、一部をぜひ水産業の未来に還元してほしい。そういう風にアピールしていきたいです。

津田:今回に続いて第2弾、第3弾の投資を行っていきたいと考えています。すでに現段階で、有望な投資先が10社以上もあります。お金を出してくれる投資家が集まれば、どんどん海を守る事業を広げていけます。




会社紹介
【ミュージックセキュリティーズ株式会社】
「金融を通じた新たな価値の提供」をミッションに掲げ、インパクト投資プラットフォーム「セキュリテ」の運営を軸にファンド組成・販売業務などを手がけるフィンテック企業。地場産業の活性化や貧困問題などさまざまな社会的課題の解決を目的としたファンドを組成し、投資家たちに出資を呼びかけている。

【渡部泰地(ミュージックセキュリティーズ取締役)】

横浜国立大学大学院修了。2005年株式会社インテリジェンスに入社。アウトソーシング事業や人材関連事業の営業に従事する。2007年にミュージックセキュリティーズに入社。全国各地のファンド組成業務に従事し、2015年に執行役員就任(北海道支店長兼務)。2017年から現職。

【一般社団法人フィッシャーマン・ジャパン】

東日本大震災の被災地である宮城・石巻の若手漁師や水産業者が2014年に設立した一般社団法人。被災地だけでなく日本の水産業全体の変革を目指し、人材育成や新規事業の開拓、業界のイメージ改革に挑んでいる。

【津田祐樹(フィッシャーマン・ジャパン・マーケティング 代表取締役社長)】

宮城・石巻にある鮮魚店の二代目。東日本大震災で同級生が亡くなったのをきっかけに、地元水産業の復興をけん引しようと決意。若手漁師らと共にフィッシャーマン・ジャパンを設立した。現在は販売部門の株式会社フィッシャーマン・ジャパン・マーケティングの社長を務め、地元産品の海外輸出や海洋環境の保全に取り組んでいる。


 

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