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ハリガネムシ

ここでは、私がこれまでに見つけた動物を気まぐれで紹介していきます。誰も興味を持たないような動物がほとんどだと思います。今回は、私が寄生虫という生物を知り、興味を持つきっかけとなった生物です。

和名:ニホンザラハリガネムシ(たぶん)
学名:Chordodes japonensis Inoue, 1979
分類:類線形動物門 ハリガネムシ綱
生息:昆虫の体腔(幼虫)→小川や池などの淡水(成虫)
解説:夏の終わりから秋にかけて、水中をうごめくように動く黒いハリガネを見たことがある人も多いと思います。水生生物ですが、幼虫の間はカマキリやコオロギなどの昆虫に寄生しています。

ハリガネムシの生活環

ハリガネムシの成虫は水中で生息しているため、卵を水底に産みます。卵から孵化した幼虫は、同じく水中に生息するユスリカの幼虫の体に潜り込みます。このユスリカが成虫になり、陸上にあがるとカマキリなどの陸上の昆虫に食べられます。ハリガネムシの幼虫は、カマキリに捕食されることで、カマキリの体内へ移動します。そこで成長したハリガネムシは、十分に成長すると宿主の腹を破って水中に移動します。

宿主操作!?

このハリガネムシの生活環には1つ疑問があります。それは、ハリガネムシが水中に移動するためには、昆虫が水辺に近づかないといけません。しかし、陸上の昆虫は水を嫌って近づかない性質があるため、昆虫が水に近づくことはまずありません。そのため、ハリガネムシは昆虫の体内に寄生しているときに、宿主である昆虫に特殊な物質を注入し、水辺に移動するように促します。これを宿主操作というのですが、2021年に神戸大学と弘前大学の研究でその一部が明らかにされました。水平偏光とよばれる光が水面に反射した時に生じる特殊な波長の光に、ハリガネムシに寄生された宿主である昆虫は近づくようになります(Obayashi et al., 2021)。

山と川に欠かせない生き物

ハリガネムシの宿主操作により川に落下する昆虫が、秋時期に水中のエサが少なくなるイワナの重要な食糧になっています(Sato et al., 2011)。これは、ハリガネムシが河川の生態系を維持するために重要な役割を果たしていることを意味しています。人類にとって害にも益にもならないと考えられていた動物でしたが、実は日本の生態系には欠かせない動物といえます。
私たちが知らないだけで、他にも現在の環境を支えている生物はたくさんいるのかもしれません。

写真のハリガネムシは、兵庫県加東市の川でとれたハリガネムシです。冒頭で、“ニホンザラハリガネムシ”と紹介していますが、正確なことは分かりません。生息域的にそうかな?と。
ハリガネムシは外観の形態に大きな違いはありません。体表を電子顕微鏡で観察すると、陰茎などの生殖器がみえることから種同定できます。

参考文献】
SatoT, Watanabe K, Kanaiwa M, Niizuma Y, Harada Y. and Lafferty K. D. 2011 Nematomorph parasites drive energy flow through a riparian ecosystem.
Ecology 92: 201-207

Obayashi, N., Iwatani, Y., Sakura, M., Tamotsu, S., Chiu, M.C. & Sato, T. 2021
Enhanced polarotaxis can explain water-entry behaviour of mantids infected with nematomorph parasites
Current Biology 777-778



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