にらんでないけどオヤニラミ
私の現在の研究テーマは海産魚の単生類(寄生虫)です。魚類のことはあまり詳しいわけではないですが、淡水魚は海の魚以上に知りません。しかし、海産魚よりも淡水魚の方が入手しやすいことから、私が現在の学校に勤務し始めてからは川魚をターゲットにしてきました。日本の川は大陸の河川に比べると小さいですが、その中で多くの生物が関係を築いています。
和名:オヤニラミ
学名:Coreoperca kawamebari (Temminck and Schlegel, 1834)
分類:スズキ目、ケツギョ科、オヤニラミ属
生息: 西日本(保津川・由良川以西の本州, 四国北部, 九州北部)と朝鮮半島南部
やっぱりにらんでる?
オヤニラミ最大の特徴は、えらぶたの後端にある眼状紋という目玉のような模様です。他にも婚姻色の美しさや雄が子育てをするなどの特徴から、高校の生物部の研究対象や鑑賞魚として非常に人気の高い魚です。河川の中流や下流の本流・支流に生息し、水草が多く流れの緩やかなところに住んでいます。肉食性で、小型の水生昆虫や小魚、エビなどを食べています。詳しくは、後述しますが、この“流れが緩やか”で“水草が生える”ところというのは、確かに水生昆虫やエビなどの動物がたくさん住んでいますが、住みやすいのと同時に首を絞めることになっているかと。ちなみに、和名のオヤニラミの由来ですが、卵を守る習性があるため親魚がまわりに睨みを利かせているいるということからだそうです。
気に入った理由は?
私がこのオヤニラミを調べていた理由は、腸管にCoitocaecum plagiorchisという吸虫が寄生しているためです。吸虫は、幼虫のころはカワニナやエビなどの無脊椎動物に寄生し、成虫になると魚類などの脊椎動物の体内に移動します。この宿主間の移動は食物連鎖などを利用しており、生物の多様性が豊かなところでないと成り立ちません。そのため、多様な生物が生息するところの脊椎動物にしか吸虫は寄生していないことから、“生態系の指標になる”とも言われています(寄生虫学界隈だけかもしれませんが)。私は、中学の時に寄生虫に興味を持ち始めてからこの吸虫の一生には強い関心があり、いつか自分で調べてみたいと考えていました。オヤニラミが好んで生息する “流れが緩やか”で“水草が生える”ところは河川の中でも限られた狭い場所であり、同じところには貝類や甲殻類も生息していることから、C. plagiorchisの一生が容易に調べられると考えて研究しておりました。残念ながら未解決のまま現在に至っておりますが…。
けっこう問題児
国立環境研究所の侵入生物データベースによると、オヤニラミは東京都, 愛知県, 滋賀県において侵入の情報があり、指定外来種とされています。日本の魚なのに外来種?と思われるかもしれませんが、オヤニラミは本来は西日本の淡水魚ですから、関東や中部地方に生息しているはずはありません。人の手によって移動させられたことになります。日本国内だから問題ないのでは?と考える方もいるかもしれませんが、従来の生態系に入り込んで混乱をもたらしたり、遺伝的撹乱を引き起こしている可能性があります。個人的には、C. plagiorchisも東京都, 愛知県, 滋賀県にもちこまれているのか気になります。侵入した先にも、元の場所と同じような生態系がないと子孫を残せないので、もしこの吸虫も移入されていれば、色々と考えさせられます。
しかも絶滅危惧種
オヤニラミは個体数を減らしており、環境省レッドリストの絶滅危惧1類に指定されています。自治体によっては天然記念物に登録されているところもあり、私が住んでいる兵庫県でも準天然記念物に指定されています。徳島県から出ている資料?によると、オヤニラミが絶滅危惧種となった要因は次のようなことが考えられるとのことです。「ダムの建設により生息地の消失・分断がおきた」「排水の流入により水質が劣化した」「護岸工事により生息地がなくなった」「観賞用として過剰な捕獲が行われた」「外来種によって過剰に捕食された」などなど。先述したように、オヤニラミの“流れが緩やか”で“水草が生える”場所はダムや護岸工事で容易に失われます。また、流れが緩やかなところは水質が悪化しやすく、水草の多いところは外来種も好んで生息します。ダムや護岸工事などは人の生活に必要なものなので、ここではその是非は議論しませんが、オヤニラミの個体数の減少は人間の行いの結果を示しているように思います。みんなで議論すべきことではないでしょうか?
5年以上調査して
私は姫路市を流れる河川の支流で5年以上オヤニラミを含めた魚類の寄生虫の調査を行なっていました。最初の頃は、カワムツ, ムギツク, ドンコ, ヨシノボリなど多様な魚類を採集することができ、個体数も多く、釣りを30分もすれば20匹以上釣ることができました。川も水草と雑草でおおわれており、魚をとるのも大変でしたが、同時に多くの生物をみることができました。しかし、しだいに10匹魚をとるのに1時間以上かかるようになり、ブラックバスを採集することもありました。魚の数が減っていることや外来種が侵入していることは、地元の方も感じているようで話を聞かされたこともあります。現在の感染症騒ぎが起こる直前くらいに、調査を行なっていたところが重機で浚われたこともあり、調査をやめました。吸虫の一生を調べて姫路の河川の生物の多様性を調べるつもりでしたが、皮肉にも先述した絶滅要因を観察してくことにもなりました。
昨年の夏に、用事があって近くに行ったので、いつも調査をしていたところに行ってみました。水草が全くなく、オヤニラミが生息できるような場所はありませんでしたが、カワムツなど移動力のある魚や貝類が戻ってきていました。また、本流の方ではオヤニラミを採集することができましたが、詳細は「観賞用として過剰な捕獲が行われた」という絶滅要因にも関わるので内緒です。ちなみに、私は採集(寄生虫研究)に使用する魚類の個体数や体長を定めており、取りすぎや子供の魚を検査しないようにしていました。
【参考文献】
https://www.pref.tokushima.lg.jp/file/attachment/464937.pdf