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みんな違って、みんなメバル

気づけば15年くらい前に出版された論文の内容になるのですが、ずっと私が研究テーマにしていた寄生虫(単生類)の宿主のメバルが3種に分かれました。宿主であるメバルの話はしたことがなかったので、ここで少しお話しようかと思います。

和名:アカメバル, クロメバル, シロメバル
学名:Sebastes inermis, S. ventricosus, S. cheni
分類:カサゴ目メバル科メバル属
生息:後述します

街灯の下で撮影したので、赤色に見えているだけかもしれませんが、アカメバルです。
トップの写真は、同僚らと共に釣りに行った時のクロメバルです。

同種?別種?

もう20年ほど前の話になるのですが、メバルSebastes inermis)は体色や形態が多様なことから、分類学的に混乱していました。赤色黒色褐色3つの色彩形態があったことから、これらを別種として扱うか、種内変異(同種だけど特徴が異なる)として扱うかで議論が続いていました。といっても、これは20世紀の話です。2000年に入るとDNA解析を行えるようになったことから、従来から行っていた形態学的な解析にDNA解析を加えて検査をしたところ、3色のメバルには生殖障壁があることが明らかになりました。“種”の定義として子孫を残せることとあるので、別の色のメバルと生殖ができないとなると別種になるのですが、別種であると論文がだされるまでにはもう少し時間がかかっています。

多分シロメバルです。正直、見た目ではわかりにくいです。

どんな違いがあるの?

私が大学院でメバルの寄生虫の研究を始めた時には、S. inermis(従来のメバル)の3つの体色変異から、形態型A (赤味)、形態型B (黒味)、形態型C (茶味)という分類のしかたで研究を進めていました。しかし、研究をはじめてまもなくメバルが3種に分かれたという論文が発表されたため、Aがアカメバル、Bがクロメバル、Cがシロメバルとなりました。3種のメバルの区別のしかたは、体色、胸鰭と尻鰭の軟条(筋です)数、側線の鱗の数、鰓杷の本数で見分けます(下の表を参考にして下さい)。

他にも色々ありますが、基本的には体の色と胸びれの軟条数で区別しています。

また、生息場所も微妙に違います。

アカメバル
北海道南部から九州,朝鮮半島南部に分布します。通常,アマモやホンダワラなどの海藻の茂った場所で群れを形成しています。

クロメバル
岩手県・石川県以南から九州,朝鮮半島南部に分布します。瀬戸内海よりも和歌山県南部の太平洋岸のように外洋に面した海に多いです。岩礁域に単独で生息し,通常は海底付近で動かないが,ときどき海底で休息しています。

シロメバル
岩手県・秋田県以南から九州,朝鮮半島南部に分布します。日本周辺に分布するメバルの3種の中では最も普通に見られます。通常,内湾域に生息し,岩礁のくぼみに集まってじっとしていることが多いです。

寄生虫は有名?

メバルは食用や釣りの対象魚としても有名であるため、どのような寄生虫がメバルに寄生しているのかは昔から調べられていました。中でも、私が研究対象としていたコガタツカミムシ単生類は魚病の原因ともなるため、何度も論文が出されていました。私の研究テーマがメバルのコガタツカミムシ単生類となったのは、宿主のメバルが3種に分かれたことで、新しく分かれたた3種のメバルにどの寄生虫が寄生しているのか再度調べ直す必要があったためです。また、メバルに寄生しているコガタツカミムシ単生類も2種報告されており、これらの単生類の違いがほとんどなく、本当に別種なのかという寄生虫自体の分類学的な問題もありました。

エラに寄生しているコガタツカミムシ単生類です。

いろんな思い出

大学院のころはメバル採集に明け暮れていました。調査場所は3種のメバルが同時に釣れる広島県呉市の島でした。この時に初めて釣りの仕方を研究室の仲間から教えてもらい、毎月(時折毎日)通ってメバルを採集していました。先述しましたが、メバル属3種は生息場所が異なります。釣り初心者の私には釣り分けは大変困難でしたが、研究室の後輩のルアーマンと釣りに行った時、「アカメバルは東側、シロメバルは防波堤のはし、クロメバルは指示した時に沖に投げて」とアドバイス通りにしたところ、簡単に釣り分けられました。彼はメバル3種の棲み分けを理解して釣りをしていました。また、この生息場所の違いは単生類の寄生のされ方にも関係している可能性がありました。単生類は魚の鰓もしくは体表に寄生し、卵を産みます。この卵は近くにいる魚の鰓や体表に付着して、孵化、成長します。群をつくり集団で過ごす魚ほどよく単生類に感染する可能性が高いので、単独で生活するクロメバルには少ないかと思っていましたがそのような傾向は見られませんでした。

調査場所にしていた呉市の島です。時々、釣り好きの大学生を連れて行きますが、とても楽しそうにしていました。

垂水での思い出

就職してからは神戸市の垂水漁港を採集場所としてメバルを採集していました。神戸市の海岸は護岸されていることもあり、海藻の多いところに生息するアカメバルはなかなか釣れませんでした。広島の島とは違い、なかなか釣れませんでしたが、試行錯誤して釣れるようになりました。具体例をあげると、垂水漁港では、21時前後に街灯の下で、ゴカイの頭に針をさして流すというのが一番よく釣れました。おそらく、街灯の下で釣りをすることで、大きいゴカイのシルエットが目立つことから、目の良いメバルは反応しているのではないかと思います。あと、干潮もしくは満潮、小潮の時期を選んでいくと水の流れが少ないため釣りやすかったです。

神戸市の垂水には、寄生虫学の大御所山口左仲の別荘があったことから(戦前の話です)、多くの魚類の寄生虫の発見の場所となっています。

寄生虫の話

私が大学院のころにテーマにしていたコガタツカミムシ単生類ですが、Microcotyle caudataMicrcotyle sebastisciの2種がメバルに寄生するとされていました。両種の違いは精巣数であり、M. caudataが20〜26M. sebastisciが8〜20と重複していました。形態学的な解析やDNA解析を用いて違いを調べたところ、両種に違いがないことが明らかになりました。ちなみに、Microcotyle caudataの方が先に報告があったため、Micrcotyle sebastisciは現在学名として使われていません。また、Micrcotyle sebastisciは魚病の原因ともなっていたので、この種がなくなったことでMicrocotyle caudataに病原性があるのかどうかが魚病学的な問題が残りました。

以下のリンクでこの時の研究の話をまとめています。

【参考文献】

Kai, Y., & Nakabo, T. (2008). Taxonomic review of the Sebastes inermis species complex (Scorpaeniformes: Scorpaenidae). Ichthyological Research, 55, 238-259.
Ono, N., Matsumoto, R., Nitta, M., and Kamio, Y. 2020. Taxonomic revision of Microcotyle caudata Goto, 1894 parasitic on gills of sebastids (Scorpaeniformes: Sebastidae), with a description of Microcotyle kasago n. sp. (Monogenea: Microcotylidae) from off Japan. Systematic Parasitology 97: 501–516.福田 穣 (1999). 1980年から1997年に大分県で発生した養殖海産魚介類の疾病. 大分県海洋水産研究センター調査研究報告 2: 41–73. (Fukuda, Y. (1999).

Twitterでも生物の話をしています。宜しければご覧ください。


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