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これまでの研究(前編)

今回は、私がこれまで取り組んできた「分類学上」の課題について紹介します。現在のところ、論文になっているのはこれだけなのですが、長い文章を書くのが苦手なので2回に分けてお話しします。
大学院の修士課程の時代から取り組んでいたテーマになるのですが、2020年にSystematic Parasitologyから論文が出版され、やっと形になりました。
Taxonomic revision of Microcotyle caudata Goto, 1894 parasitic on gills of sebastids (Scorpaeniformes: Sebastidae), with a description of Microcotyle kasago n. sp. (Monogenea: Microcotylidae) from off Japan” というタイトルで、日本語にすると『日本におけるメバル複合種群のエラに寄生するMicrocotyle caudataの分類学的再検討とMicrocotyle kasagoの記載』となります。
内容は、分類学的再検討新種記載が同時に行われているので、今回は前者の話をします。

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メバル複合種群って?

メバル”は食用や釣りの対象魚として有名な魚の1つです。このメバルは2008年に京都大学の甲斐先生と中坊先生の研究により、アカメバル(Sebastes inermis),クロメバル(S. ventricosus),シロメバル(S. cheni)の3種に分けられました(Kai & Nakabo, 2008)。そのため、これまで“メバル”に寄生するとされていた寄生虫の正確な宿主がわからなくなってしまいました。中でも、私の研究対象であったMicrocotyle属単生類は魚病の原因になる種もいるため、”メバル”の寄生虫の分類学的な研究が必要となっていました。

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Microcotyle属単生類って?

私が研究対象としてきたMicrocotyle属単生類は、和名をコガタツカミムシ(以後和名で呼びます)といい、体の後端に小さな吸盤がたくさんついているのが特徴です。大きさは2,3mmで、海水魚のエラに寄生して血を吸っています。ちなみに、雄雌同体で精巣と卵巣の両方を有しています
メバル複合種群に寄生されているのが初めて確認されたコガタツカミムシ属単生類は、1894年に愛媛県で発見されたMicrocotyle caudata です(Goto, 1894)。その後、1958年に兵庫県神戸市垂水漁港で採集されたカサゴやメバルから得られたコガタツカミムシ属単生類が、精巣数と卵サイズの違いからM. caudataとは異なる新種であるとされ、Microcotyle sebastisciと名付けられました(Yamaguti, 1958)。このM. sebastisciは魚病の原因として魚病学の教科書にも載っています。

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分類学上の課題とは?

ここまでの話をまとめると、『“メバル”が2008年に3種に分かれたため、“メバル”に寄生するとされていた寄生虫の宿主がわからなくなった』『メバル複合種群には2種類のコガタツカミムシ属単生類が寄生している』です。
しかし、メバル複合種群に寄生するコガタツカミムシ属単生類2種の一番の問題点は、区別する方法が、“精巣の数だけ(精巣は写真の黄色丸内)”ということです。(卵を持たない個体もあるため。)しかも、M. caudataの精巣数は20〜26で、M. sebastisciの精巣数は8〜20です。もうお分かりになったと思いますが、精巣数が20の場合は区別ができませんでした。


結局どうなったの?

詳細は省きますが、この課題の解決のためひたすらメバル複合種群をとりまくりました。生徒たちとM. sebastisciが見つかった垂水漁港で、暑い日も寒い日も毎月夜釣りをしたのはいい思い出です。3種のメバルからコガタツカミムシ属単生類をとりだし、染色標本を作製して精巣数を数え精巣数以外に違いがないか隅から隅まで調べました。また、DNA解析も取り入れ、精巣数の違いで塩基配列が異なるのか調べました。日本各地のメバルの提供もうけました。本当にいろんな人に助けられました。
結論は、『M. caudataとM. sebastisciに種としての違いはない』です。M. caudataの方が先に報告されていたため、M. sebastisciはM. caudataのシノニムとなりました
https://www.marinespecies.org/aphia.php?p=taxdetails&id=718157
これで分類学上の課題は解決されたことになるのですが、新たに解決しなければならないことがでてきました。それについては、後日新種の発見と合わせて紹介します。


【参考文献】

Kai, Y., & Nakabo, T. (2008). Taxonomic review of the Se- bastes inermis species complex (Scorpaeniformes: Scor- paenidae). Ichthyological Research, 55, 238–259.
Goto, S. (1894). Studies on the ectoparasitic trematodes of Japan. Journal of the College of Sciences, 8, 1–173
Yamaguti, S. (1958). Studies on the helminth fauna of Japan. Part 53. Trematodes of fishes, VII. Publications of the Seto Marine Biological Laboratory, 7, 53–88.

Twitterでも生物の話をしています。宜しければご覧ください。


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