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論文が出版されました

先月の話になるのですが論文が出版されました。タイトルは、New Records of Gemmaecaputia corrugata (Monogenea: Chauhaneidae) from Sphyraena forsteri (Sphyraenidae) off Yomitan Town, Okinawa-jima Island, Southern Japanで、日本語にすると「沖縄産オオメカマスに寄生するGemmaecaputia corrugataの日本新記緑」になります。未記載種(新種)を発見したわけではありませんが、これまでインドでしか発見されていなかったG. corrugata を 日本で初めて発見したという論文です。

Gemmaecaputia属単生類

単生類とは扁形動物門単生綱に属する動物の総称です。単生綱は、体の後端にある吸盤の数から、単後吸盤亜綱多後吸盤亜綱に分かれます。単生類は一部を除いて魚の体表かエラに寄生する外部寄生虫と呼ばれる動物です。Gemmaecaputia属単生類は、多後吸盤亜綱に属し、カマス類(カマス科カマス属)のエラに寄生する動物です。また、 Chauhaneidae 科に属しているのですが分かっていないことも多く、この論文でも系統関係の議論をしています。

論文のジャンル

この論文は、"再記載論文"と呼ばれる論文です。記載論文とは、新種を発見した時に、標本と共に形態的特徴などを記録した論文です。一方、再記載とは既知種が新たな地域で発見されたり、分類学的な課題が解決された時に書かれる論文です。近年の記載論文(特に寄生虫)では、DNA解析による塩基配列の報告が行なわれています。これは、塩基配列が分かっておれば、種同定に専門的な技術や知識が必要な分類群の動物の種同定が容易になるためです。この論文では、G. corrugataが沖縄県(日本)で初めて発見されたこと、オオメカマスが新宿主であること、塩基配列を解析したことを新たに判明したため報告しています。

論文の内容

論文の内容は、G. corrugataの形態的特徴が中心なので、詳細はここでは述べません。代わりに、単生類の特徴を紹介します。単生類は、雌雄同体なので精巣と卵巣の両方があります。また、心臓や血管などの循環器官はなく、腸が体全体に広がっており、栄養や酸素は体の細胞に直接届けられています。運動器官は、宿主にはりつくための吸盤(正確には把握器)くらいです。
このように、単生類の体の構造はとてもシンプルなので種の違いは、精巣や卵巣の位置や形状把握器の形状や数で見分けています。しかも、大きくても 3mm程度の生物なのでそれなりの精度の顕微鏡が必要になっており、寄生虫の種同定が難しい原因となっています。

新たな課題

この論文で扱かったG. corrugataはChauhaneidae科に属しており、この科は他8科とあわせてGastrocotylinea上科をつくっています。Genbankに登緑されているGastrocotylinea 上科に属する種の塩基配列を利用して、系統解析を行いました。系統解析は系統樹という形で結果が出ます。この時、同じ属や科に属する種は同じ枝(グループ)に集まります。ところが、今回の論文では、Chauhaneidae 科が近縁なAllodiscocotylida 科やProtomicrocotylidae 科に属する種と混合するような形で枝を形成しました。G. corrugataの形態的な特徴は間違いなくChauhaneidae科であったことから、複数の科に属する単生類が集まったのは、多系統群になっているためだと考えられます.これは簡単に言うと、Gastrocotylinea上科の一部は塩基配列ではグループ分けができないと言う事です.現在、Chauhaneidae科単生類で塩基配列が分かっている種はG. corrugataを含めて2、3種です。今後、解析される塩基配列が増えれば多系統群は解決されると思います。

今後の方針

論文にはしていませんが、本州近海に生息するアカカマスヤマトカマスにもChauhaneidae科とおぼしき単生類が寄生していることを、この論文の研究を行う中で発見しました。これらの記載を行えば多系統群の解決につながるかも知れません。現在は、カマスは休憩中ですが、いずれ塩基配列と共に解析していくつもりです。


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