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カツオの吸虫

ここでは、私がこれまでに見つけた動物を気まぐれで紹介していきます。今回はあまり関わりたくないかも知れない生物ですが、よく知ってもらいたい生物でもあります。

カツオの吸虫について

和名:ディディモゾーン科吸虫
学名:Gonapodasmius okushimai ISHII, 1935?
分類:扁形動物門 吸虫綱
生息:魚類(マダイ, コショウダイ, カツオ)の筋肉中

夕食の前に

2022年5月最初の日のことですが、夕食のカツオのたたきから黄色い塊がでてきました。寄生虫であることは一目瞭然でしたが、寄生虫を取り出す過程で少し不安になりました。細長いくせに柔らかかったので…。どういうことかと言いますと、筋肉中に寄生している可能性があるのは、アニサキスのような線虫サナダムシの仲間の条虫ですが、線虫は少し硬めで条虫は柔らかいです。条虫の場合は米粒状で、線虫は名前の通り細長いです。特徴が当てはまらないので戸惑いましたが、顕微鏡での観察と文献調査で上記の吸虫であることが判明しました。

ちょっと変わった吸虫

今回の発見で改めてディディモゾーン科というグループの吸虫を調べてみたのですが、とても変わったグループの吸虫でした。その一部を紹介します。

雌雄が別個体
吸虫綱の動物のほとんどが精巣と卵巣のどちらももつ雌雄同体です。しかし、このディディモゾーン科の吸虫は雌雄ペアになってシストという殻に包まれた状態で寄生しています。黄色い塊はこの吸虫の体の色だったようです。

体が長い!
吸虫綱の動物の多くが米粒のような形をしています。一部細長い吸虫もいますが、ディディモゾーン科の吸虫はとても長いです。シストにある虫体を引き伸ばすと2〜5mになる吸虫もいるようです。

私の専門は、同じ扁形動物でも単生類なのでもっと調べる必要があります。偶然にもエタノールを持ち合わせていたので、虫体を固定することができたので、DNA解析をしてみてもいいかもしれません。ちなみに、学名をGonapodasmius okushimaiと紹介していますが、これは中島らの報告をもとにしています。しかし、この報告では厳密な種同定を行っていないため、Gonapodasmius属吸虫としておいた方がよいかもしれません(桃山, 2006)。

無害な寄生虫がほとんど

多くの人が気になるのは安全性ですが、この部分を食べなければ問題ありません。仮に食べてしまっても問題ないでしょう。カツオには他にもテンタクラリア(条虫)やアニサキス(線虫)が筋肉中にいる可能性があります。アニサキスは誤って食べてしまうと激しい腹痛を起こすので注意が必要ですが、他の2種はヒトに害を加えることはありません。理由は、どちらもヒトの寄生虫ではないからです。魚の筋肉中に寄生している寄生虫は、鳥や海洋哺乳類に食べられて、その体内で成虫になり産卵することを目的にしています。そのため、ヒトに食べられても、胃で消化されてしまいます。ただし、アニサキスはイルカやクジラの寄生虫であるため、ヒトに影響を及ぼしてしまいます。しかし、日本の魚屋さんの寄生虫の知識は専門家よりあると言ってもよいです。安心してください。

正しい知識で安全に美味しく

スーパーや市場で購入した魚から寄生虫が出てくると衛生面を心配する気持ちは理解できますが、天然で新鮮であれば必ず寄生虫がついています。寄生虫がついているのは天然で新鮮な証拠です。寄生虫の正しい知識を持っていれば、安全に美味しく魚を食べることができます。現在、技術の発展で遠方の魚を新鮮な状態で手に入れることができるようになりました。それに伴い、寄生虫も死滅せず、生きたまま手元に届くこともあるようです。先日もあるバラエティ番組で“ホタルイカを新鮮に食べる”という内容の放送のあと、多くの寄生虫の専門家が旋尾線虫症の危険性をアナウンスしていました。今回紹介しているディディモゾーン科吸虫も昔から知られており、愛媛県のある地域では「きくいダイ」と呼ばれる生食が忌まれる異常魚がいたようです。伝統的な調理法は、先人が長い間時間をかけて美味しく安全に魚を食べる知恵の結晶なのかもしれません。

参考文献

http://fishparasite.fs.a.u-tokyo.ac.jp/katsuwo-didymozoid/katsuwo-didymozoid.html
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/shokuhin/musi/18.html
中島健次・杉山瑛之・江草周三 (1974): マダイの筋肉内に虫竃をつくる吸虫Gonapodasmius okushimai Ishii, 1935. 魚病研究, 8, 175-176.
桃山和夫・天社こずえ (2006): 山口県沿岸域および湖沼河川で採集された異様な外観を呈する天然魚介類の寄生虫およびその他の異常. 山口県水産研究センター研究報告第4号(別刷), 143-161.



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