打順について

私の打順観

私も野球好きになってから10年が経ち、今でこそ打順に対してこだわりも無くなったが、最初からそうだったわけではない。

小学校のラケット野球ではやはり四番が一番だと思っていた。
1,2,3と出塁して満塁ホームランを打てば四点入る、というのが理由。だから八番も5,6,7の後だから大事なのだと友達と話した記憶がある。
(私はちゃっかり三番を打っていたのでその頃から三番信者の性癖があった)
中学生の時、野球部ではやはり一番良い打者が四番に入っていたし、そこに何の疑問も持たなかった。小技も重視されていたし、そんなもんだと思っていた。まあ、チーム全体で貧打だったので致し方ないが

二番打者は繋ぎの役目で、クリーンアップでランナーを返す」という思想は普通だったわけだ。
もちろん私が小中学生だった頃は、日本にセイバーメトリクスが入ってきていたかというとすごく微妙な頃合いで、疑問を持たなかったのも無理はない。

一方で私が打順にこだわりを失くし、寧ろ小技と四番信仰に嫌悪感を抱き始めたのがいつ頃なのかがわからない
私が高校生の頃は既にメジャーリーグに四番信仰はなかったし、セイバーメトリクスに沿って打順が組まれていたように思う。大谷翔平はまだメジャーリーグに挑戦していなかったが、日本人選手が多く海を渡っていた頃と重なるので、私の目に入っていた事だろう。
ただ「二番小兵タイプ」に抵抗が生まれたのが何時だったか正確にはわからない。

手元には、ある資料がある。高校三年生の時の体育の時間で行われた、ソフトボールのスコア表である。体育の授業でありながら、記憶を元に私はその日のうちに全試合記録を付けていた。
全部で13試合あるこの記録を見てみる。私が入った打順は3番が9試合で一番多く、4番が3試合、5番は1試合だった。(三番信者過ぎる
そもそも運動が得意でなかった私がクリーンアップに入っている時点で、打順へのこだわりなんて全くなかった環境と言えよう。
ただ上位打線の大切さ、「良い打者に多く打席を回す」という思想は行われていたと感じる。授業を通して柵越えを記録したことのある生徒が上位に固められ、運動がやや苦手な生徒は下位打線に入っている。
自己申告制なので、わざわざ上位を打ちたいと進言する子が少なかったのが理由な気もするが、「打席を回せ」は思想としてあったと見える。
(授業で一番HRを打った生徒は一番起用だった)

今や私は二番に打てる奴を置けと連呼するオタクになってしまったわけだが、高校在籍時辺りからその感覚は生まれていたのだろう。

何のしがらみもない体育の時間、そして自分の思ったようにできる野球ゲームを経験した結果、打順の固定観念が払拭されたのだと思う。
そして送りバントを極力したくないという思想も同時期に生まれたと思う。

作戦有りきで打順を考える事は、「目的と手段を履き違えている」ことに過ぎない上に、アウト1つの重要性を学んだからこそ、自分の打順観に変化が生まれたのだと思うが、四番信仰を捨てた理由はこの辺にありそうだ。

仲間内でやる楽しい野球、野球ゲーム、セイバーメトリクスの理解
この3要素によって私の打順観はフラットになったと言える。

NPBの打順観

さて、そうやって打順観がフラットになってくると居心地が悪くなってくるのがNPBの打順だ。
強打者を並べる例はあれど、基本的には作戦や小技を重視した並びが組まれている。
これは日本野球の根幹である、トーナメント制の学生野球が影響していると考えられるがその上、昨今の打低環境では消極的な作戦(置きに行くような作戦)が取られるケースが増えているからだろう。
どうしても触れてしまうが、二番にバントをさせるという軟弱な作戦の是非においては極力触れないようにしつつ、NPBの打順観について見ていきたい。

工藤公康の打順観

まずはソフトバンクホークスを三度のリーグ優勝、五度の日本一に導いた名将の打順観について。

工藤はこの動画において、重視する打順を[七番]と発言している。
理由としてランナーが貯まった状態で回ってくるからだそう。

四番信仰の強いNPBでは四番に最も良い打者が入る。さすれば、その四番と勝負してもらうために五番打者にも力量が求められる。
そう考えれば七番が重要なのは説明するまでも無いだろう。よい打者の次が重要なのは言うまでもない

この下位打線が大事という考え方は、人口に膾炙している。
例えば現日本ハムファイターズ監督の、新庄剛の発言だ。
僕の4番バッターって6番バッターなんです
理由はランナーが貯まっている場面が多いため、であり工藤公康の思想と似ている。この理論は野球系Youtuberの高木豊氏同意しており、日本球界ではよく言われていることのようだ。高木豊に至っては三拍子揃っていて欲しいとさえ発言している。
≪参考資料≫

岡田彰布の打順観

続いて、2023年阪神を優勝及び日本一に導いた名将の考え方。
八番に木浪や小幡を入れ、下位からチャンスを作っていく打順で日本一となった阪神。2024年度は似たような組み方をする監督が増え、影響力の強さに驚く。さてそんな我が軍の監督の発言で、私が気になったものを。

みんな2番で打つ必要はないんやから。オレそんなん打つことなんか考えてないから。そら守備よ。守備でポジション勝ち取ったもんが2番が一番最適と思う人間をあてはめるだけやんか

https://www.nikkansports.com/baseball/news/202210270000737.html#goog_rewarded

就任当初の秋キャンプでの発言だ。岡田調のややこしい言い方だが、二番強打者論とは逆の考え方である事に違いない。

なんかなあ、打ちやすい打順やのになあ。後ろに打つのがおるわけやから。3番は、そんなにツーアウトで回ってけえへんからなあ。

https://news.yahoo.co.jp/articles/d3c5afedb3d9765c88362a3b3c006ecfc787e081

続いて2024年5月の発言。三番打者は率が大事で繋ぎの役目も必要とし、ただ一番楽な打順だという。
ただ、これも四番という日本的絶対打者がいるから成立する。

岡田野球は役割野球である。結果ロースターに柔軟性が失われているが、これは善し悪しでもあって、全員野球で勝った以上は多少の理解はしたい。

小久保裕紀の打順観

山川の後の近藤っていうのがちょっといいかなというふうに思ってる。出塁率の高い選手なんで、なるべく上位で早めに回すっていう考えもあるんですけど、ランナーがたまっている時にかえしてくれる。

https://www.nikkansports.com/baseball/news/202403190001850.html

SNSでも大いに話題となった五番近藤。WBCにて二番近藤で世界一になったのを皆が目にしており、なぜ近藤が山川の後ろなのかと疑問があふれた。
ただ、これも今まで見てきたように、チャンスで返せない事に相当な不満があるのだと理解できる。
つまり、柳田山川と出塁しても次の打者が返してくれないとということ。

しかし、ソフトバンクホークスは強大な戦力を保持している。柳田山川近藤だけでなく、栗原や柳町のように能力ある選手もいる上に、中村晃についてもまだ頼りたい場面はあるだろう。
つまり、ドジャースみたいなもので、上位に選手を固めたとて下位打線が貧弱になる事は考えにくい。こういった理由からやはり、ファンが納得できる理由が提示できていない印象である。

そして小久保監督の考え方を援護するかの如く大本営が記事を出している。

要約すると大事な点は2点。1点目は昨年度五番打者が不在だった事。2点目は今宮健太の繋ぎ面での能力の高さを評価している事。

何度も述べているが五番が大事なのは四番が重要視されているから。打順の理論ではなく四番信仰によるものだ。
(山川穂高に関しては上位で起用するべき打者かも疑問だが)

文句は最小限にしたいと述べたが、この今宮健太の起用法にだけは大いに文句を言っておきたい。
なぜ今宮が二番なのか記事では説明されているが、まずは一番周東の盗塁をアシストできるか、次に犠打の技術、そしてストライクカウントが嵩んでも今宮の打率が下がらなかったとし、二番今宮健太を推している。

まず、なぜ周東のために野球をやらなければならないのだろうか
今宮健太は周東佑京のインセンティブのために存在しているわけではない
少し横暴な言い方になったが、盗塁技術はチームのためと言えど盗塁を待ったせいで窮屈な打撃を強いられているとは本末転倒ではないだろうか。

近藤健介に窮屈な打撃は強いられない、とは一見筋が通ってそうだが、周東の盗塁をそこまで重視する必要があるのかと疑問に思う。

次に、今宮健太は打撃技術に秀でた選手である。
2023年までのプロ生活で、370回も自分の打席を犠牲にしつつ、1200本以上の安打を放っていることがその証明である。二桁本塁打は4度記録し、2023年度のwRC+こそ91となったが、例年はリーグ平均程度かそれ以上の打撃力を擁している。

「誰を犠牲にするか」が議論の中心となっているのが理解に苦しむ。

阿部慎之助の打順観

言うに及ばず」ではいけないが、五番にバントさせたいだの、理想の2番は右打者だの、進塁打がどうこうとか、二番も三番も繋ぎみたいな、なんかそんな感じ。阿部監督はお手本のような四番信仰を持っており、四番岡本和真にプライドがありそう。

高津臣吾の打順観

ヤクルトスワローズをセリーグ連覇に導いた名将。日本だけでなくアメリカや台湾の野球も経験している貴重な人物だ。
ただ、高津監督も四番信仰が強めである。村上宗隆を四番に据え、そこから打順を組んでいる印象である。ヤクルトのサンタナが、ホークスの近藤と同じような扱いを受けている
村上の後ろが大事であることから、成績を出しているサンタナを打線の後ろに置かざるを得ない状況となっていた。
岡本と村上はチームにおいて最強の打者であるがゆえに、彼らを四番に据えることで寧ろ打順の組方に四苦八苦している。

勿論、塩見の離脱がなければ上位打線に選択肢が増え、小技を不要とした火力あるスワローズが見られたかもしれない。
それでもまあ、二番村上という決断が出来る監督であるので、世界を渡ってきた野球人生の経験は貴重だと言える。

新井貴浩の打順観

現12球団の監督で、異色なのが新井貴浩だ。
選手新井は広島阪神で四番を務め、チームの勝敗を背負う日本的四番像の中でもがき苦しみ、そして成長した名選手だ。著書においてもそのような記述が見られる。
新井監督はその点で考えが柔軟だ。
チーム編成や外国人選手が不発だった事も原因ではあるが、四番に長打力を求める事もなく足で掻き回しながら繋いでいく野球をやっている。
四番に上本や小園を躊躇なく置き、勝敗の責任を押し付ける事が無い
新井貴浩自身の本当のところは知る由無いが、四番信仰はなさそうだ。

吉井理人の打順観

日米の野球を経験し、指揮官となってからはオープナーなど様々な戦略を試している理論派。それだけに、打順の組方にも注目が集まった。

先述した新井監督と同じような部分があって、安田や山口が出てこない現状も相まってか、四番に茶谷や岡大海を起用する試合も多い。この点、出塁率を意識した結果だと述べた試合もあり、ある程度数字で決めている印象。

2番打者についてもポランコや藤岡裕大が起用される試合が多い。初回から小細工なしに打っていく事を主眼としている指揮官である。

1番の出塁率が高くて、2番がめちゃくちゃ打てば点が入る。(元阪神の)鳥谷のように二塁打も打てて、四球を選んだら盗塁もできるイメージ。3番は、2死走者なしで回ることが多いので、お調子者の打者がいいかなと思う。2、4、1、3番の順で大事だと思っているが、状況に応じて変わるかもしれない。開幕まで楽しみにしていて

https://www.sankei.com/article/20230212-RX3MCZOCEJJBZPGO7S3WK6PGKI/2/

吉井監督は就任一年目の春、産経新聞のインタビューに上記の通り答えている(打順の重要性の部分などセイバーメトリクスのまんまである)。うまくいかない事も多いだろうが、自身の信念は揺らぐことなく、二年目の監督業も行っているのだろう。

三浦大輔の打順観

2024年シーズンに四年目を迎える横浜ベイスターズの監督。長く横浜を支えてきたエースの打順観はどうか。
まず、三浦監督も四番牧に拘るタイプである。四番に責任を持たせるタイプで、バントも多い監督だ。リベンジ采配も度々見られ、ファンの中では「優勝できる監督かどうか心配な声もあがる。ただ、これまでの日本的野球を好むタイプと少し異なる点もある。

当然、横浜ベイスターズというチームが、データサイエンスを重視している球団であることから、監督の決定権の幅がいかほどか不明瞭な点はある。ただ、一番佐野恵太を決断したのは素晴らしいのではないだろうか。

いかにしてランナーがいる状況で4番の牧に回そうかと、結構考えました。出塁率が高く、状態も良く、バットが振れている佐野に勢いをつけてもらおうと思いました

https://full-count.jp/2022/05/25/post1226005/

そのままの佐野でいい、と三浦監督は告げたようで佐野の出塁率の高さに着目した良い選択を行っていた。ベイスターズは元々火力のあるチーム。上位打線がどんどん打っていく打線の組方は、チームカラーにあっているだろう。

2024シーズンはフロントやデータ班が、より采配に影響力を持っており、2番タイラー・オースティンというサプライズも。オースティンに関してはフロントの意向にも思うが、一軍復帰後の度会を二番に置くなど現代野球にある程度理解を示す監督だと私は思う。

原辰徳の打順観

通算17年の監督人生を数え、リーグ優勝9回、日本一3回の名将。
Aクラス14回というのはとんでもない記録。

原辰徳はやはり読売巨人軍の人間であり、巨人の四番には特別なものを持っている。自身も経験しているし、後輩に求めるモノも大きい。

一方で、内野五人シフトや点差が付いた時の野手登板など率先して新しい考え方を取り入れる監督でもあった。
マシンガン継投、坂本や岡本にバントのサインを出すなど采配面で本当に色々あったが、原辰徳が現代野球に理解があったことは伺える。

この記事にも書かれているが、原辰徳は二番に坂本勇人、丸佳浩、梶谷隆幸といった強打の選手を起用する考えを持っていた。出塁率やOPSにも理解を示しているし、日本的打順観や四番信仰に縛られない監督だった。

原辰徳は名将だったか。
メジャーのいい部分と日本的な部分をうまく融合させて、いかに日本のスタイルで効率的な形を作れるか。
こう公で発言できる人物は意外と少ない。

渡辺久信の打順観

四番は右の強打者がよいらしい。中村剛也がどうとか言い出すし、清原落合門田がどうとか言い出すインタビューを見て、私は目を疑った。
埼玉西武ライオンズは大丈夫なのだろうか??

結論と言う名の愚痴

パ・リーグ最下位チームの監督代行をオチに使うという人の心がない行為をしてしまったが、言いたいことは言えた。

日本的打順観、ベンチワーク依存、四番信仰
この三点が日本野球が直面している課題となる。
日本野球では二番論と四番信仰は根強く、その固定観念に苦しむプロ野球選手は多い。幼少期から染みついた打順のイメージは、すぐには取り払えないのである。

ことプロ野球の試合に関しても、年々減少傾向にあった犠打の数もなんか増えているし、ボールは飛ばないし、エンターテインメントとして心配になる有様。

四番を重視するがゆえに一番二番が疎かになる打線の組方は、今後も続くのだろうか。

もし先頭打者が出塁したら、もしバントが成功したら、もしかしたらクリーンアップが返してくれるかも」という夢物語で打順を考え続けている以上、データや理論を用いた野球の運用は難しくなる。

得点圏打率は、一時的なものでその選手の実力を測るデータと言えないというのが定説とされつつある中で、得点圏にランナーを進める事を第一に考えている思考は些か理解に苦しむ。得点圏打率を全否定しているわけではない。逆に得点圏打率に囚われている方が問題だ。

トーナメント制の野球が影響していると先述した。
ただ、そもそもトーナメントとバントがイコールになるはずがない。
学生野球の泥臭さをプロ野球が勘違いして取り入れているのだと思う。
「一点をもぎ取りに行く」とよく言うが「もぎ取る」必要はなく、「長打を打てば点は入る」のである。
わざわざ無理をして一点を「もぎ取ろう」としているのが日本野球かもしれない。
バントをしてアウトを献上し、得点期待値を下げ、後ろの打者にプレッシャーをかけるのが「野球」だと言うのだろうか

「プレッシャーがかかる場面でもランナーを返すのが四番の仕事」と四番信仰に益々拍車がかかるだけであり、「点を多くとったチームが勝つ」というスポーツの本質から離れていくばかりである。

どんな手を使ってでも点を取ればいい。その選択がサインプレーである必要などない。

最後に

・6番や7番を重視してしまうのは、最強打者が4番に座るから。
・監督は常に「野球」をしたいので、サインプレーを好む。その結果小技が市民権を得て、逆に得点期待値自体を下げてしまう。
・コントロールの荒れてる投手にバントをしてアウトを献上し立ち直らせてしまうなど、何故か現場に入ると客観的視点が抜け落ちる監督が多い。
・ゲッツーを酷く嫌う。無策だと思われたくないのだろうが、選手を信じて打てのサインを出すのは無策ではない。立派な作戦である。
・野球は得点圏にランナーを送るゲームではない。如何に効率よくホームを踏むかのゲームである。
・プレーオフでのバントは必要である。ただシーズンでも同じ野球をする必要はない。もっとマクロな視点で野球をしてほしい。

野球には夢がある。俺たちにもっとロマンを見せて欲しい。
進塁打はロマンではない。
ロマンとは紛れもない、ホームランである。

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