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図書館の囁き

夏の終わり、高校2年生の美咲はあるプロジェクトの資料を探すために、学校の図書館で遅くまで作業をしていた。彼女の学校には、廃校寸前だった古い校舎がまだ残っており、そこの一角にある図書館はあまり利用されていなかった。その日も、美咲は一人で資料を調べていた。

夜が更けてくると、図書館の周りは静まり返り、ただ時計の秒針の音だけが響いていた。突然、美咲は背後から小さな物音を感じた。振り返ると、誰もいない。ただ、彼女が先ほど調べていた歴史の本が床に落ちていた。不思議に思いながらも本を戻し、作業を続けようとしたその時、再び同じ本が床に落ちた。

美咲は少し怖くなりながらも、本を手に取り、何かメモが挟まっていないかページをめくった。すると、本から古びた写真が一枚落ちた。それはこの学校の昔のクラス写真で、どの生徒も真剣な表情をしていた。彼女がその写真をよく見ていると、図書館の奥から女性の声で「返して...」というささやきが聞こえた。

恐怖を感じた美咲は、写真を本に挟み、本棚に戻した。しかし、声は止まず、「返してください... 私の物です...」と続いた。声の方向へ足を向けた美咲は、図書館の最も古いセクションに足を踏み入れた。そこには、学校の創立期に関する資料が保管されていた。

部屋に入ると、温度が急に下がり、息が白くなった。彼女が辺りを見渡すと、先ほどの写真に写っていた一人の女性の霊が、本棚の間からぼんやりと現れた。霊は美咲に向かって手を伸ばし、「ありがとう」と言って、消えた。

その夜以降、図書館の奇妙な現象はなくなった。美咲はその後、写真の女性がかつてこの学校で亡くなった教師だったことを知る。彼女が遺した願いが、ようやく叶ったのだと美咲は思った。

この経験から、美咲は人々が忘れ去られた歴史にも、大切な物語があることを学んだ。そして、彼女はいつも図書館を訪れるたびに、その教師に軽く会釈をするようになった。

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