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「刻々+」十文字美信

鎌倉駅『Bishin Jumonji Gallery』にて開催中

水をテーマにした写真展。1/2,000秒の高速シャッターで捉えると水はさまざまな顔を見せる。液体の相、気体の相、固体の相。肉眼では見えない姿がシャッターを切った瞬間に現れてくる。

52年の経験でたいていのものの撮り方はがわかり、出てくるプリント、評価される作品の予想がついてしまう氏である。結果が予測不可能で、しばしば期待を超えてくる水は、撮っていて楽しくて仕方がないとのこと。
限りなく透明な富士の伏流水が、複雑に流れを絡み合わせた水面。光を乱反射しながら河底の色や形を透かしている様は、きわめて精緻な抽象画といったところだ。熟練の写真家が晩年に挑むテーマに相応しい。

氏はデビュー作の「untitled(顔なし)」から一貫してフレーム外に意識を凝らしてきた。みなが「必須」と認める顔をはずしたら何が残るのか。
カメラマンの選ぶ対象・表情・瞬間はわかりやすく劇的なものが評価される。しかし、そうやって丹念に作り上げたフレームの外にも世界は広がっている。ふとした瞬間にあらわれる無表情。陰影のひだに滲むあわい。

氏のまなざしは柔らかく、そして鋭い。