賃金(Ⅳ) ~最低賃金と「◎◎万円の壁」~

■『最低賃金』とは?

「最低賃金法」によって保障されている。

(最低賃金の効力)
第四条 使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない。

e-Gov法令検索|最低賃金法


『最低賃金』は、原則として、都道府県別について決定されている。

(地域別最低賃金の原則)
第九条 賃金の低廉な労働者について、賃金の最低額を保障するため、地域別最低賃金(一定の地域ごとの最低賃金をいう。以下同じ。)は、あまねく全国各地域について決定されなければならない。

e-Gov法令検索|最低賃金法


『最低賃金』は、毎年10月に改定されている。
2022年は、2021年よりも30円以上増加した。この増加金額は過去最高のものである。


2015年11月24日に安倍内閣が「最低賃金を毎年3%程度引き上げ。将来的には1000円程度にするように。」と指示したわけだが、アベノミクスによる雇用改善やGDP増加などによる経済成長の成果という裏付けがあってこそのものだろう。


■◎◎万円の壁

最低賃金の話になると、時折、「パートで働く配偶者の給料の稼ぎが◎◎万円を超えると、税金や保険料や控除が……」と言われる事がある。いわゆる「◎◎万円の壁」と表現されるものである。

(1)98万円の壁と100万円の壁
・住民税(所得割)の納税が発生する。
  ・給与所得控除額55万円(所得税法第28条)
  ・住民税(所得割)の基礎控除額43万円(地方税法第34条第2項一)
  ・住民税(所得割)の非課税限度額45万円
※給与所得控除額を引いた金額が非課税限度額以下であれば課税されない。
※自治体によって異なる。

※e-Gov法令検索
・地方税法
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=325AC0000000226



(2)103万円の壁
・所得税の納税が発生する。
  ・給与所得控除額55万円(所得税法第28条)
  ・所得税の基礎控除額48万円(所得税法第86条)
 ※令和元年分以前は、65万円+38万円だった。

※e-Gov法令検索
・所得税法
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=340AC0000000033


(3)106万円の壁
"一定条件"で、社会保険に加入。
(扶養から外れ、社会保険料の負担が発生する)
  ・週の所定労働時間が20時間以上
  ・雇用期間が1年以上見込まれる
  ・月収8.8万円(≒106÷12)以上
  ・学生ではない

(4)130万円の壁
・社会保険に加入。
(扶養から外れ、社会保険料の負担が発生する)
・収入額には交通費も含まれる。
・将来の見込み年収から総合的に判断される。

※e-Gov法令検索
・健康保険法
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=211AC0000000070
・厚生年金保険法
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=329AC0000000115
・雇用保険法
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=349AC0000000116


(5)150万円の壁
夫が配偶者控除を受けられなくなる。


(6)201万円の壁
夫が配偶者特別控除を受けられなくなる。


ザックリとした計算にはなるが、給与所得が130万円以上になる場合は、170万円以上を稼がなければ、手取りが減ってしまう。


■最低賃金の引き上げによるデメリットと対策

(1)企業の人件費が増える。
 ⇒従業員数や雇用時間の見直しが必要になる可能性がある。
 ⇒新規採用のハードルが上がりやすくなる。

(2)壁の狭間で勤務する従業員が勤務時間を減らす可能性がある。
 ⇒壁を超えたら、扶養から外れてしまい、所得税の納税義務や社会保険の加入義務が発生する。
 ⇒従業員が壁を超えないようにシフトを意図的に減らすことで、職場が人手不足に陥る可能性がある。


こういったデメリットを打開するには、従業員一人一人がスキルを向上させたり、企業が設備や管理システム等に投資するなどして、生産性を高める事が必要になってくる。企業活動を活発にする事で、最低賃金の引き上げにもビクともしないくらいの体制を作る企業努力が何より必要である。

シンプルに考えて、壁を意識せずに働く人にとって、時給が上がるのは嬉しい事。だが、賃金が上がるという事は、それだけ企業活動に貢献していかなければならないという事でもある。


■全国一律時給1500円の思想は超キケン!

日本共産党が、党の政策として「全国一律時給1500円以上」を掲げている。「人間らしく生活するために」「8時間働いて普通に暮らせる社会」などと言っている。
緩やかに上げていって将来的に時給1500円にするというのならまだしも、いきなり時給1500円に引き上げようなど、ハッキリ言って超危険そのものである。

それこそ、企業の人件費が大幅に嵩むようになるので、経営体力のない企業ほど、新規採用の雇い控えや非正規雇用の雇い止めが起こるようになる。
その結果、人手不足に陥ってしまう事は容易に想像できる。

また、壁の狭間で勤務する人たちにとっては、「◎◎万円の壁」が大きな障壁となる事に変わりなく、やはり意図的に時間を減らそうとする。
その結果、人手不足に陥ってしまう事は容易に想像できる。


百万歩譲って、企業が人件費を一切気にしなかったり、壁の狭間で勤務する人たちが壁を一切気にしなかったとしよう。
人々の賃金が急激に上がれば、通貨の流通量は急激に増えまくり、物価上昇率も急激に上昇するだろう。

時給1500円と聞くと響きは良いが、甘い言葉には必ず裏がある。メリット以上のデメリットがある事も肝に銘じなければならない。


いつだったか、安倍総理が「気を付けよう。甘い言葉と民進党」と言っていたが、これは当然ながら他の野党にも当てはまる。
『気を付けよう。甘い言葉と共産党』である。


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