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「踊り場」2021 秋号

 最近、ネットプリントをよく見かけるようになりました。随分前からあったものなので、正確には「身近になった」と言えるかもしれません。Twitterのフォロワーが宣伝しているのを目にするし、リツイートでも目にするし。自分でもやってみたいと思っているコンテンツなので、より見つけやすくなっているのかなぁと思う今日この頃です。
 今回はそのネットプリントの「踊り場」の感想をしたためたいと思います。鉄は熱いうちに打て、のスタンスでお届けしていきます(こまかいことは気にしないでね、の意)(意訳がすぎる)

俳句連作「小鳥」

 連作の読み方というものを意識したことがなかったので、今回はじめて「まとまり」として読んでみようと試みました。

佐々木紺
 紺さんの句は、透明感があってすうっと体の中に入ってくるような印象があります。すべてに清涼感があるということではなくて、中にはどろりとした感触のものもあって、それすらも体内に取り込めてしまうようななめらかさや流動的なものを感じています。
 たとえば、「空間へ半紙を泳がせて涼し」は、ふわっと半紙がそよぐ風景のさわやかさが「涼し」という言葉で締めくくられてる。一方で、「自由なる小鳥の骨は拾はれず」という句で連作を終えるところに、足元がひたひたと冷たくなる感覚を覚えて、ほんの少しだけ息を飲む。
 流れるように入ってくるのに、入ってきたことで抱く違和感、不気味さ、現実味、というものをこの連作から感じました。

雲に鳥あなたの初めてのほほゑみ  佐々木紺

 人生ではじめてなのか、はじめて見せてくれたのか。明るい予感がする句だなぁと思いました。


有瀬こうこ
 淡々と、理路整然としている感じが小気味よくて好きです。「踊り場のつくつく法師踏まれさう」は、題字でもある「踊り場」の句ですが、「踏まれさう」の他人事ぶりには思わず「助けへんのかーい」とツッコミたくなります。そういう一歩引いた視点、冷静さがおもしろく、かと思えば「虫篭や語尾やはらかき人と寝る」という温度感がまたずるい。そいつ誰だよ、というね。めちゃくちゃ気になるじゃないですか。「語尾やはらかき人」ですよ。ずっと生活の音は感じるけれどもどこか静かな句の中で、急にふっと現れる今までとは異なる人の存在。こういう存在って連作ならではなんでしょうか。おもしろいです。

豆腐屋の車止まつてゐる野菊  有瀬こうこ

 ああ豆腐屋か、と思いながら横を通り過ぎる。足元には野菊。穏やかで平凡な日常を感じられる句だなぁ、と思って書き出しました。うっかりサスペンスがはじまったらどうしよ(考えすぎだよ)


宮永沙織
 悲壮感のないリアル。だけどちゃんと伝えたいものがある。宮永さんの連作を読んで最初にそう思いました。どれも意志の強さを感じるな、と。それは決して押しつけがましいものではなくて、主義主張とは異なる「伝達」という印象。読み手に正しく届けたい、という誠実さとでも言いましょうか。うまく言えないな、そんな感じです。
「繰り返す天災ごごご草の花」は、草の花の健気さやたくましさと天災の逃げ場のないものの対比を「繰り返す」「ごごご」と強調するところに、したたかさもありながら無力さがあるところに共感しました。「文化祭男子生徒にハイヒール」も、なにがどうとは言っていないけれど、この光景は少なくともまだネタになる光景なんだろうな、と考えさせられました。

人類は飼はれて二年小鳥来る  宮永沙織

 エッセイに「俳句も短歌も2021年を書いたつもりだ。」とありました。そうか、飼われているのか。だとしたら、もう少し大切にされたいですね。


内橋可奈子
 日々のことがらがかろやかに進んで行くような、親しみのある連作です。「わからない振りしていろよ唐辛子」も、唐辛子につぶやいているようにも思えるし、誰かに対してつぶやいているようにも思える。どっちにしたって、唐辛子に「わからない振りしていろよ」と思うことってそうないので、誰かに思っているのかな。ちょっと呆れているのかもしれませんね。
「小鳥来る将棋教えてもらってる」の句は、とてものどかで、あたたかくていいなぁ、と思います。唐辛子の句もそうですが、どこか語り口調というか、こちらに語り掛けてくるんですよね。強いメッセージはないけど、ちょっと言いたいことがある、みたいな感じ。やさしくてかわいらしくていいなぁ、と思いました。

あいつらとおれとはちがう秋の空  内橋可奈子

 最初は「俺はあいつらと違う!」という意味かと思ったんですが、何度か声に出して読んでいると、秋の空に掛かってるのか、と。秋の空も違うし、多分、秋の空じゃないなにかとも違う。でも「あいつらとおれ」なんですよね。「おれたち」ではない。たくさんの線引きがあって、気になる句でした。

短歌「水」

その世にはその世の搾取 嵐なら海へ身体をとおっていった/佐々木紺
 どこかずっと他人事のような言葉が並んでいて、でも嵐は身体を通って行ってる。本当は全部自分のことだけど、「そういうもんだから」と折り合いをつけているのかなぁ。「とおって」とひらがな表記なのが、存在が微かになっていくみたいで好きです。

東京に鯨のやうな月が出てあなたの海はひりひりしてる/有瀬こうこ
 おおきなおおきな月の夜です。東京ってそんなに大きなお月様が見えるんでしょうか。おおきく見えるのかな。「あなた」のことをすこし心配しているのかもしれない。気にかけている感じがやさしくて好きです。

愚痴を言ふ日々よ明日はしなやかな水の強度がありますやうに/宮永沙織
 声に出して読んだときに、おまじないのように心に残りました。水に強度を願うことで、飲んだときに自分もその強さを得られるような気がしてしまいます。「明日は」という言葉に切実さがあって好きです。

突き上げたパピコは溶けて濡れていく正しいことと信じて叫ぶ/内橋可奈子
 パピコを犠牲にしても叫ぶ。パピコが溶けても、叫ぶ。なぜならパピコが誓いのパピコだから。宣誓のパピコだから。「パピコ」という音のかわいらしさと、「正しいことと信じて」というシリアスな心情がワンシーンとしてあるのがおもしろくて好きです。パピコははよ食べてくださいね(やめんか)

 というわけで、楽しく拝読させていただきました。本当はエッセイもあるんですが、そこまで書いていたらさすがにくどいな、と思ったのでエッセイは作品の余韻を楽しみながら再読したいと思います。
 冒頭にも書きましたが、連作を連作として読むことを意識したことがなかったので(出るとこ出たら怒られるやつ~~)、今回、自分なりに真摯に読んでみました。ネットプリントで作品を読むことがより身近になり、自分も挑戦してみたいと思いました。刺激を受けるってこういうことなんですねぇ(うわぁ他人事だぁ)

 ネットプリントの出力期間は過ぎていますが、配布しているところもあるようなのでTwitterなどでペペっと検索していただければと!(なにげに宣伝しちゃう)
 ここまでお付き合いいただきありがとうございました。「踊り場」のみなさま、素敵なネプリありがとうございました!

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