見出し画像

「税理士」の名前の由来とこれから。

「税理士」の名前の由来は?

年末と言えば年末調整、年が明けると確定申告、また12月半ばには来年度の税制改正法案が出されるなど、年末年始にかけては、税金関係のイベントが続きます。

税金と言えば「税理士」の仕事ですが、そもそも「税理士」という名称の由来をご存じでしょうか?

他の士業をみてみると、依頼人の弁護をするから「弁護士」、会計処理が正しいかどうかをチェックするから「公認会計士」、行政文書を作るから「行政書士」などとストレートに分かりやすい名称が付けられています。

一方で税理士の”税理”とは「税務代理」を省略したものです。もともとは、「税務代理士」と呼ばれていたのが略称の「税理士」の方が一般的となり、法律上も「税理士」とされました。

ちょっと歴史を紐解いてみます。


税理士制度の歴史

 日本では明治維新後、しばらくは土地に対して課す「地租」が税収の中心でした。その後、文明開化による商工業の発展により都市部と地方との税収格差が顕著になってきたこともあり、税制改正の必要が議論されるようになりました。さらに、日清戦争の勃発による戦費調達のために地租だけでは税金が不足し、新たな税収が求められました。

そこで導入されたのが「営業税」です。現在の税制に例えるなら、固定資産税が中心だったところに所得税が導入されたようなイメージです。

地租と営業税の大きな違いは、前者は決められた価格と税金が課されていたのに対して、営業税は納税者が自分で申告納付する点です。

自分で申告するといっても、税法は複雑だし、申告書の書き方も簡単ではありません。そこで税金や、その申告を専門にやってくれる業者が現れました。「納税者に代わって税務関係の手続きを行う職業」ということで、「税務代理士」と言いました。

つまり、”税”務代”理”士を縮めた、略称が「税理士」なのです。この頃は今のような国家資格でなく、誰でも「税務代理士」を名乗って仕事をすることができました。

 そんな折、税理士業界へも大きな影響を与えた一大事件が起きます。それは、第二次世界大戦です。

かつて無いほどの膨大な戦費が必要となります。

 また、営業税も欠陥の多い税制だったようで、大正・昭和と時代が下る中で度重なる改正が行われたり、新たな税金が設けられるようになりした。結果として税制はより複雑なものとなり、トラブルも増えるようになりました。

 これらを背景に施行されたのが「税務代理士法」です。これまで誰でも名乗ることができたものを専門家として国家資格としました。(ちなみに、この法律が公布・施工されたのが2月23日だったので、現在この日は「税理士記念日」となっています。)

第二次世界大戦後、税制も民主化することなりました。税制の民営化の中で最も重要視されたのが「自主申告納税」の推進です。つまり、納税者自らが自分の税金を計算して申告を行う、そうすることで「自分がいくら税金を納めているか」を把握し、「自分が納めた税金が正しく使われているか」に関心を持つことで、政治が国民の生活のためのものとなっているかチェックできるようにする、という訳です。

そうかと言って、いきなり「今年から自分で申告してください」と言われても直ぐに対応できる人はいません。そこで、「税務代理士」がサポートが必要となったのです。

戦時中は効率よく税金を徴収するためにできた制度が、今度は経済復興のための制度として活用されました。そして税務代理士法は廃止となり、昭和26年(1951年)に「税理士法」が施行されました。その後数度の改正を経て現在に至ります。

これからの税理士

 日本史でも世界史でも、どういう税金制度があったかは国家運営の成否を握る最重要事項です。中国でもイスラム世界でもアメリカやヨーロッパでも、国家の財政危機→増税→重税に対する納税者の不満爆発→反乱・革命というのは一つのパターンです。国家にとって「できるだけ反対が少なくて、多くの人が納得がいく方法で、できるだけ簡単に税金を集めたい」というのは、永遠の課題なんだと思います。日本においては「税理士」の存在がこの課題に対する一つの対策ではないかと思います。

 実は税理士という職業は世界的にみれば一般的な資格ではなく、日本独自のものです。例えば、アメリカでもEnrolled Agent(EA) = 米国税理士という翻訳される資格はありますが、「税務に関する裁判になった際に弁護士でなくても納税者の代理人になれる」という資格です。日本では、会計処理から税務申告まで個人事業者や中小企業にとって必要な財務・税務手続きを一通りこなしており、より広範な業務を行っていると言えます。 

 海外に行った際に自分の職業を英語で何と言ったらよいのか迷うことがあります。単語集などではよくTax Accountantとされていますが、私自身この語句で自己紹介をしても「何それ?公認会計士(Certified Public Accountant :CPA)と違うの?」という反応でした。なので、私はTax Advisorと名乗ることが多かったです。

少し話がそれてしまったので戻りましょう。

明治維新以後、国策として発展してきた税理士制度ですが、果たしてこれから何処に向かえばよいのでしょうか?

日本の税制において、これまでサラリーマンが圧倒的に有利でした。サラリーマンのお父さん、専業主婦のお母さん、そして子ども達。そしてマイホームを住宅ローンを組んで建てる。こうした家族像を念頭に、この家族が最も有利になるように税制が整備されてきました。

ただ、こうした家族像は徐々に変わってきていることは、多くの人が実感しているのではないでしょうか?

ここ数年の税制改正は、”サラリーマンとそれ以外のはたらき方をする納税者への課税の公平”という趣旨の文言が随所に見られます。実際に令和2年からは給与所得控除(給与収入から”みなし”経費として引くことができる金額の引き下げと、基礎控除の引き上げがなされました。つまりサラリーマンが経費として計算できる金額が下がり、一方で働き方にかかわらず誰でも引ける金額が増えました。

2020年は在宅勤務が増え、本業の収入が減る一方で副業で収入を増やす、といったことへの関心も高まっており、実践した人も多いのではないかと思います。今後このように「個人がどうやって自分自身の収支を管理し、財産を築いていくか」が、増々重要になってくるかと思います。税制もこの社会状況に沿うものに徐々に改正されてくると思われます。

今後「お金の知識=ファイナンシャル・リテラシー」がより重要となります。しかし残念ながら、これまで日本では「お金=汚い、リスク」という認識が強くありました。前述のとおり、サラリーマンをしていれば最も税制の恩恵を受けることができ、銀行に定期預金をしていけばリタイアするころには十分な貯蓄をすることができました。このため、わざわざサラリーマン以外の収入源を考えたり、株式などの損を被る可能性がある商品で運用することは、”下策”でしかなかったためです。

 かつて税理士が戦後の経済復興と高度経済成長を支える一翼を担ったように、変わり続ける社会において、私たち税理士が話すべき役割は「ファイナンシャル・リテラシーを多くの国民に知らせ、より豊かな人生構築を手伝う」職業となる必要があります。

先ほど、海外で自分の職業を紹介する際にTax Advisorを名乗っていると、書きました。これからはFinacial AdvisorやLife Plannerと名乗れるようにしなければならないと考えています。

この記事が参加している募集

名前の由来

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?