日本アカデミー賞最優秀作品賞46作品全部見たから全部レビューする(全28000字)
少し前に、米国のアカデミー賞作品賞受賞作を全て見て、そのレビューやトリビアを一本の記事にまとめるというnoteを書いたので、せっかくだったら日本アカデミー賞の方も全部見てしまおうということで、全部見てきました。
前回は設立経緯や賞の社会的な意義などについても触れるようにして、結果的に記事がとても長くなってしまったので、今回は本当にごく簡単に、それぞれの作品について一言二言の感想で済ませるようにしたいと思います。日本アカデミー賞の沿革については公式ページに詳しいので、よく知りたい方はぜひそちらを参照してみてください。
[前回の記事]
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※以下作品について若干のネタバレを含みます。また、参考のために、どれくらい人に薦めやすいかという“オススメ度(作品内容や上映時間などを総合的に勘案したもの)”と、個人的な好みを「⭐︎〜⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎」の形で付しております。(〇〇〇〇年)はその映画の上映された年を表しています。また、人物については敬称略です。偉そうに失礼します。
※YouTubeに公式から予告が上がっているものはそのリンクを、予告映像がないものはAmazonのリンクを貼っていますが、アフィリエイトではございません。
○第1回受賞作『幸福の黄色いハンカチ』(1977年)
松竹の『男はつらいよ』や『釣りバカ日誌』シリーズで知られる山田洋次監督作品。ちなみに、『男はつらいよ』は69年から、『釣りバカ日誌』は88年からのシリーズです。
失恋してヤケになり、赤のファミリアを購入した欽也(武田鉄矢)と、同じく失恋して傷心中の朱美(桃井かおり)、刑期を終えた中年男の勇作(高倉健)。偶然出会った3人が、道内を巡るロードムービー。映画初主演の武田鉄矢のコメディセンスが光る一作です。警官役として、渥美清も出演しています。超ベタですが、ベタなだけに、晴れやかな気持ちで安心して観ていられます。今見ると高倉健演じる勇さんはちょっと身勝手だなあとは思いますが。。
77年は、シルヴェスター・スタローンの『ロッキー』(第49回アカデミー賞作品賞、第1回日本アカデミー賞最優秀外国作品賞受賞)が日本で公開された年です。本作は、2008年に『イエロー・ハンカチーフ』という題で海外版のリメイクもされています。
オススメ度:☆☆☆☆
好み:☆☆☆
○第2回受賞作『事件』(1978年)
大岡昇平の推理小説を、脚本:新藤兼人、監督:野村芳太郎で映画化したもの。一人の青年(永島敏行)が犯した殺人事件の、色んな人間の証言を重ねごとに徐々に明らかになっていくというストーリー。事件の鍵となる姉妹を大竹しのぶと松坂慶子が演じます。また、裁判長を佐分利信、弁護人を丹波哲郎。検察を芦田伸介が演じ、証人の一人として森繁も出演していたりと、豪華なキャストが揃っています。
今まで日本にほとんどなかった本格的な法廷劇で、今見てもそんなに古臭さは感じず、裁判長、弁護人、検察のその三者の掛け合いは中々面白いです。構成もクールです。主演の永島敏行は新人で、演技は拙いですが、そのフレッシュさが評価されたようで、この年は東陽一監督の『サード』、藤田敏八監督の『帰らざる日々』で同じく主演を果たす大抜擢でした。
オススメ度:☆☆
好み:☆☆☆☆
○第3回受賞作『復讐するは我にあり』(1979年)
今村昌平監督作品。「西口彰連続殺人事件」を描いた佐木隆三の小説が原作で、実在した殺人犯の話です。緒形拳の快演が見事。主人公の榎津(えのきず)は、サイコパスやシリアルキラーというのともちょっと違って、「人を殺す」という選択が、他の選択肢と同じような軽さで、同列に存在している人間なんですね。だから、憎しみに駆られて人を殺すわけでも、正気を失って手をかけるわけでもありません。それが却って恐ろしいわけですが。
緒形拳の快演が見事で、女性の艶めかしい描写が多いのが印象に残っています。作品内容がすごく面白いわけではないですが、見入ってしまいますね。タイトルの「復讐するは我にあり」の我とは主(神様)のことで、主人公はカトリックの信者です。そのため、神やキリストというのも、一つこの映画の中心テーマになっています。
オススメ度:☆☆
好み:☆☆☆
⬛︎1980年代〜
○第4回受賞作『ツィゴイネルワイゼン』(1980年)
鈴木清順監督作品。『サラサーテの盤』他、内田百聞の短編を下敷きにしています。彼の撮る映画を観たことがある人は分かる通り、独特の美学のある監督で、ゆえに好みも別れそうなものなんですが、本作がこの年のアカデミー賞の最優秀作品賞と、キネマ旬報ベスト・テンの一位を獲得しているのが驚きです。
映像と音楽が超カッコイイ映画なんですけど、言葉ではどんな作品か説明しようないので、生と死、エロ、幽玄、ナンセンス、みたいなキーワードで興味の湧く人はぜひ実際に観てみてください。寺山修司の『田園に死す』(1974年)とか、夢野久作の小説が好きだったりする人は結構ハマると思います。
オススメ度:☆☆
好み:☆☆☆
○第5回受賞作『駅 STATION』(1981年)
脚本家の倉本聰が、TBSのドラマで仲良くなった高倉健の誕生日のために、当て書きで書き下ろした作品。第一回受賞作の『幸福の黄色いハンカチ』に続いて、また舞台は北海道。高倉健×倍賞千恵子というのも同じです。高倉健のこの渋い感じは寒いところが似合いますね。
直子(いしだあゆみ)、すず子(烏丸せつこ)桐子(倍賞千恵子)という3人の女性との物語で、愛する者との惜別を描いた映画。“駅”というタイトルだけあって、道内のいくつかの駅がとても印象的に映されます。人と出会って、交わってはまた分かれて(別れて)、という人生の機微を電車や駅にたとえたような作品なので、イ・チャンドンの『ペパーミント・キャンディー』(1999年)なんかとちょっと似てるかもしれません。
挿入歌としてある八代亜紀の代表曲「舟歌」が、すーっと作品の底を流れているようで、あとも耳に残ります。「しみじみ飲めば〜しみじみと〜」ってやつ。この年は対抗に、小栗康平監督の『泥の河』がありました。
オススメ度:☆☆
好み:☆☆
○第6回受賞作『蒲田行進曲』(1982年)
つかこうへい脚本(原作)、深作欣二監督作品。タイトルには蒲田とありますが、実際には松竹の蒲田撮影所ではなく、東映の京都撮影所の話です。池田屋の階段落ち(39段の階段落ち)のシーンなどが有名なので、古い映画ですが観たことある人も多いと思います。
大スターの“銀ちゃん”と、彼を慕う子分のヤス。ある日ヤスは、銀ちゃんの子を身籠った小夏を迎え入れることになり・・・というお話。
ネタバレになるといけないので詳しい内容については書きませんが、笑える・泣ける・手に汗握ると、映画的な躍動感に満ちた傑作です。こんなに痛快な悲喜劇は中々ないでしょう。
オススメ度:☆☆☆☆
好み:☆☆☆☆☆
○第7回受賞作『楢山節考』(1983年)
深沢七郎原作。1958年に木下恵介監督が同タイトルで映像化したものを、今村昌平監督が再映画化したのもの。この作品は同年の『戦場のメリークリスマス』(大島渚監督)と合わせて、第36回カンヌ国際映画際に出品され、審査の結果、見事パルム・ドール(最優秀作品賞)を受賞しました。回ました。日本の映画がカンヌでパルム・ドールを獲るのは、第7回の『地獄門』(衣笠貞之助,1953年)、第33回の『影武者』(黒澤明,1980年)に続いて三度目のことです。
姥捨山の言い伝えのように、70歳になった老人は山に捨てられるという慣習(因習)が残る寒村。主人公(緒形拳)の母親おりんも、この冬でついに70歳を迎え・・・という話。生々しい人間の「生」と「性」の物語で、終盤の楢山参りのシーンは胸に痛いものがあります。
以前まではサブスクになくてDVDを借りないといけなかったんですが、今はU-NEXTで観られるようです。でも、方言がかなり強くて聞き取りにくい部分があるので、日本語字幕が出せるDVDで観るのをお勧めします。
オススメ度:☆☆
好み:☆☆☆
○第8回受賞作『お葬式』(1984年)
伊丹十三の、映画監督してのデビュー作であり出世作。当時51歳の異例の新人です。この年には、時を同じくして、エッセイスト/イラストレーターの和田誠も映画監督としてのデビューを果たしました(『麻雀放浪記』)。ちなみに、宮崎駿監督の『風の谷のナウシカ』が公開されたのも84年のことです。
突然、病に倒れた妻の父。義母の代わりに、主人公(山崎努)は実質的な喪主を務めて、葬儀を取り仕切ることに。固いイメージのあった「お葬式」というものを解体して、葬式という儀式に纏わりつく可笑しさなようなものを、独特のアイロニーを織り交ぜながら描破します。
主演の山崎努が数十年後にアカデミー賞を受賞する『おくりびと』に納棺師の側で出演しているのがなんとも面白いですね。坊さん役では、小津映画でお馴染みの笠智衆が、バイクの配達員というちょい役では井上陽水も出演しています。『楢山節考』と二作続いて青姦のシーンがあるので、そういったものが苦手な人は気をつけてください。
オススメ度:☆☆☆
好み:☆☆☆
○第9回受賞作『花いちもんめ』(1985年)
アルツハイマーに侵されていく老人と、その家族を描いた作品。85年というかなり早い段階で、長寿大国日本が抱える問題を正面から取り扱った映画です。数年後には軽度の患者も含めて、700万人にも及ぶと言われている認知症。だからすごく現代的な主題でもあります。
元大学教授で考古学者の鷹野(千秋実)は、長年勤めた歴史館から勇退を命じられる。自分のアイデンティティとしていたものを失ったショックから、ボケも決定的なものなってしまう。ついには息子の嫁を妻と勘違いするようになり・・・というあらすじ。
“認知症”という呼び方が一般的ではない時代なので、病院では“アルツハイマー型老年痴呆”と診断されるんですが、進行性の経過を辿って、根本的な治療法がないというのは今も変わらずです。介護の当事者でないから、自分にはこれがどれくらいリアルなのかは分からないんですけど、結構キツい(後半は特に)作品です。
作品内容とは関係ありませんが、この作品画質がかなり悪いのでそれだけ注意してください。VODでもDVDでもダメみたいで、たぶん46作品の中で一番画質が荒いです。
オススメ度:☆☆
好み:☆☆
○第10回受賞作『火宅の人』(1986年)
深作欣二監督作品。文壇で「最後の無頼派」と称される檀一雄の遺作を、オリジナルキャラクターを登場させて映画化したもの。深作欣二監督作品。原作の方はほとんど私小説ですね。「火宅」というのは仏教用語で、「汚濁と苦悩に悩まされて安住できないことを、燃え盛る家にたとえた語」(精選 日本国語大辞典)だそうです。
脳炎で障害の残った息子と、宗教に縋り付く妻を尻目に現実から逃避し、女優の卵である恵子(原田美枝子)と恋に落ちる。その彼女が妊娠・堕胎、壮絶な喧嘩を経て、今度は島に逃げ移るように放浪の旅へ・・・。
檀一雄役の緒形拳も、太宰役の演者も、若干顔が似ているのが面白いです。こういう物語って小説だったらまあいいんですけど、映画で映像になると主人公の“ダメさ”が際立ってあんまり見てられないですね。自分の中にある目を背けたい部分、情けない部分を見ているような気がするからかもしれませんが。
オススメ度:☆
好み:☆☆
○第11回受賞作『マルサの女』(1987年)
伊丹十三監督作、『お葬式』に続いて2作目の最優秀作品賞受賞です。その『お葬式』のヒットの半分を税金で持っていかれた恨みと興味から、着想を得たそう。ざっくりいうと、査察官(宮本信子)が脱税者(山崎努)を追い詰める話です。別に銃が出てくるとか、カーアクションがあるとかそういう大胆なバトルではないんですが、新鮮な切り口でとても面白いです。
「マルサ」というのは、査察の査の字に○で、国税局査察部の査察官の通称です。映画自体を観たことがない人でも、マルサの女のテーマは絶対に聞いたことがあると思います。印象に残るクールなシーン、カッコイイ台詞も多いです。
この作品の後も、伊丹監督は『ミンボーの女』(1992)、『スーパーの女』(1996)、『マルタイの女』(1997)と、妻の宮本信子を主演に、斬新なアプローチでヒット作を撮っていきます。主人公がテキパキと仕事をこなす女性というのも、当時としては画期的だったようです。ビデオソフトが社会に浸透し始めたのもこの頃のことです。
○第12回受賞作『敦煌』(1988年)
井上靖の壮大な原作を超予算、中国ロケで映画化した大作。配収45億の大ヒットを収めました。主演は若き日の佐藤浩一。漢人の闘将・朱王礼を西田敏行が演じます。この年は、『となりのトトロ』公開の年でもあります。
舞台は11世紀の北宋。科挙の試験に落第した趙行徳(佐藤浩市)は、失意の末、シルクロードを渡り、新興国・西夏へと渡る。西夏軍に捕えられたのち、参謀として重用された行徳は、やがて敦煌で辞書の編纂を命じられることに・・・。
スケールの大きさは感じられるんですが、アクションとカメラが結構チープな感じで、音楽もダサく、合戦のシーンがイマイチです。お金もかけてるんだし、88年ならもっといいものが作れるんじゃないかなと思ってしまいます。現に、その興行収入に反して評価は高くなく、キネマ旬報のベスト・テン選考でも13位に留まっています。
オススメ度:☆
好み:☆
○第13回受賞作『黒い雨』(1989年)
井伏鱒二の名作を今村昌平監督が映画化したもの。小中学生にの頃に、学校や授業の一環で観たことある人がいるもしれません。映像が白黒なので、もっと古い作品だと思っていたんですが、意外と新しいんですね。この作品なぜかDVDが廃盤になっていて、サブスクでも観られないので、今年の夏に名画座で上映されていたのを狙って子どもの頃ぶりに見にいきました。
広島での原爆投下後に、放射線物質を含んだ「黒い雨」をその身体に浴びたヒロイン矢須子(田中好子)と、その周りの人物たちのその後の生活を描きます。のっけから凄惨なシーンで始まるんですが、当たり前のようにある被爆差別や人々の偏見が、同じくらい心にのしかかって辛いです。また、原作には登場しない、PTSDの元軍人の青年の描写がとても印象的でした。
こういうことを言うとちょっと説教くさいですが、日本人ならぜひ一度は観ておいてほしい映画です。毎年8月になると結構いろんな場所で上映されるので是非。図書館のライブラでも観られるかもしれません。
オススメ度:☆☆☆☆
好み:☆☆☆
⬛︎1990年代〜
〇第14回受賞作『少年時代』(1990年)
主題歌である井上陽水「少年時代」の方が恐らく有名な映画。原作者でもある、漫画家藤子不二雄Aが自身で製作とプロデュースを手がけた作品です。ちなみに原作の原作は、柏原兵三の「長い道」という青春小説です。監督は篠田正浩、脚本は山田太一が担当しています。
昭和19年の夏。戦中の話です。主人公シンジと母親は、一緒に富山のおじさん(父の兄)の家に疎開するんですね。そこの転入先で出会った生徒たちとの交友録です。
小さい頃いませんでしたか。一対一だと素直ですごく優しいのに、一対複数だったりクラス内だったりすると急に当たりが強くなって態度が大きく変わる友人。いじめっ子気質の子どもって変に社会性があるから、集団の中で自分がどう振舞ったらいいのかよく分かってるんですよね。
そういうクラス内の同調圧力とか、子どもなりの権力闘争とかを描いた意外と陰湿な映画なんですけど、井上陽水の楽曲とラストシーンにはそれを浄化してくれるパワーがあって、鑑賞後には爽やかな余韻が残ります。
オススメ度:☆☆
好み:☆☆
○第15回受賞作『息子』(1991年)
山田洋次監督作品。91年というと、社会的にはソ連の(共産圏)崩壊と湾岸戦争というビッグニュースのあった年です。日本で、民間の日本衛星放送(現WOWOW)が本放送を始めたのもこの年のことでした。
映画のあらすじ。一章「母の一周忌」、二章「息子の恋」、三章「父の上京」と大きく三つのチャプターに分かれます。実家を出て、東京で居酒屋のアルバイトとして働く哲夫(永瀬正敏)。母親の一周忌に田舎に帰った彼は、家族や親戚、そして父親に、定職にもつかずにフラフラしていることをたしなめられる。そんな彼がやがて行き着いたのは下町の工場。そこで哲夫は取引先の聾唖の女性と恋に落ちて・・・というお話。
都市への一極集中と若者の流入、田舎の両親(父親)。上京する父親と、息子たち。言うなればこれは山田洋次監督なりの、『東京物語』の変奏なわけですね。家族という共同体の幻想が崩れ始めた時代の、温かくくもどこかじんわりと寂しい映画です。同じ仕事場で働く田中邦衛の哀愁もいい。
そういえば、山田組の助監督の一人に鈴木敏夫さんという方がいるんですが、ジブリの鈴木敏夫さんとは全くの別人なので注意してください。
オススメ度:☆☆☆
好み:☆☆☆☆
○第16回受賞作『シコふんじゃった。』(1992年)
周防正行監督作品。92年というと、バブル末期、不景気の予兆を感じる時代です。また映画の中でも話が出る通り、公開当時は大相撲の若花田と貴花田兄弟の「若貴ブーム」が社会現象に。そんな折に、新人監督によって撮られたのが本作です。
卒業単位と引き替えに、一回きりの約束で、大学相撲部の試合に出ることになった山本(本木雅弘)。その試合に負けた悔しさから、彼は段々と相撲にのめり込むように。元学生横綱の穴山教授(柄本明)の指導の下、教立大学相撲部の存続をかけた過酷な訓練の日々が始まる・・・。
第一回の『幸福の黄色いハンカチ』や、第6回の『蒲田行進曲』にもコメディ要素はあるんですが、今作はがっつりのスポ根青春コメディです。設定だとカトリック系の学校ということになっているんですが、恐らく「立教大学」がモチーフなんでしょう。その「教立大学」の30年後を描いた同タイトルのリメイク作品(ドラマ『シコふんじゃった!』)が、去年の秋からディズニー+で配信されているので、興味のある方は一度観てみてください。
オススメ度:☆☆☆☆
好み:☆☆☆☆☆
○第17回受賞作『学校』(1993年)
2年ぶりに、またしても山田洋次監督の受賞作品です。東京・下町にある夜間学校が舞台の映画で、監督が撮りたい撮りたいと、15年近く温めていた素材でもあります。
在日韓国人の老女、ヤンキー少女、義務教育を十分に受けられなかった中年男性など、様々な事情や背景を抱えた生徒たちが集まる夜間中学。卒業を間近に控えた生徒たちは、文集に載せる作文を書きながら、先生(西田敏行)と学校についての思い出を振り返る・・・という話。山田洋次監督らしい、ハートフルなヒューマンドラマです。
後半はほとんど、西田敏行演じる“先生“(クロちゃん)と、田中邦衛演じる「イノさん」との回想シーンなんですが、両者まさに迫真の演技といったところで、これには胸を打つものがあります。ハイライトは、勉強する意味ってなんだろうとか、幸福ってなんだろうとか、最後に生徒みんなが自分の頭で考えるシーンでしょうか。良くも悪くも平成初期の映画だなという感じで、少しクサいところもありますが、素晴らしい作品です。
オススメ度:☆☆☆☆
好み:☆☆☆
○第18回受賞作『忠臣蔵外伝 四谷怪談』(1994年)
深作欣二監督作品。日本人に馴染みの深い仇討ち物語『忠臣蔵』と、鶴屋南北の『東海道四谷怪談』という2大アイコンを掛け合わせた、ユニークな発想の映画です。実際のところ、「四谷怪談」の民谷伊右衛門は赤穂浪士という設定で、歌舞伎の舞台でも、昼の部に「忠臣蔵」、夜の部で「四谷怪談」という演目の時間組みがよくあったみたいです。
主人公の伊右衛門(佐藤浩市)は、赤穂藩の取り潰しを受けた浪人で、湯女であるお岩(高岡早紀)と恋に落ちる。一方でまた、伊右衛門に思いを寄せるお梅。彼女の父親は憎き吉良家の家臣である。色々な葛藤のある中、伊右衛門はお岩と別れ、吉良家の家臣になることを条件に、お梅と一緒になることを決意するが・・・。
つまらないわけではないんですが、二つを混ぜ合わせただけに、「忠臣蔵」の物語も「四谷怪談」の物語も中途半端で、特に後半はかなり意味不明な仕上がりになっています。しかも上映時間が109分と短い。松竹の100周年記念で製作された映画なので、受賞には忖度もあるんでしょう。時代劇×クラシック(カルミナ・ブラーナ「おお、運命の女神よ」)の壮大なオープニングには期待が高まっただけに、少し残念でした。ちなみに、家老大石内蔵助は、津川正彦が演じています。
オススメ度:☆
好み:☆
○第19回受賞作『午後の遺言状』(1995年)
新藤兼人監督作品。“新藤兼人“という名前は一度この記事の中でも登場していますが、覚えているでしょうか。第2回受賞作『事件』の脚本を担当していたのが彼です。インディペンデント(独立系)の巨匠ですから、名前だけでも記憶しておくといいでしょう。監督は100歳まで生きる大往生でした。
1995年は、戦後50年の節目の年で、戦争の時代を描いた映画が数多く撮られました。またリュミエール兄弟がシネマトグラフを発明してから100年という記念の年でもありましたが、阪神・淡路大震災と地下鉄サリン事件の衝撃があって、とてもそんな空気ではなかったようです。
話は戻って映画のあらすじ。夏に山間の避暑地を訪れるベテラン舞台女優の森本蓉子(杉村春子)と、その別荘の管理を任される友人のとよ子。娘の結婚を控えるとよ子は、森本にある秘密を打ち明ける・・・。
蓉子と管理人のとよ子、蓉子の友人夫妻(朝霧鏡子,観世栄夫)。避暑地に介したその4人の老人が中心に物語が進みます。前半はシュールなドタバタ劇、後半は会話劇という感じ。作品テーマは「生」と「死」と「老い」ですが、杉村春子と乙羽信子という大女優二人の丁々発止の掛け合いが楽しく、作品内容とは裏腹に、(ラスト以外は)カラッと明るい映画です。その達観したような明るさのが恐いと思ってしまう部分もありますが。
一度目はあまり刺さらなかったんですが、わけあって二度・三度観るうちに、段々と好きな映画になりました。95年の段階で、老老介護の困難に踏み込んでるのも鋭いです。それにしても晩年の朝霧鏡子と今の田中裕子って似てませんか?
オススメ度:☆☆
好み:☆☆☆☆
○第20回受賞作『Shall we ダンス?』(1996年)
https://youtu.be/psQCVq2W4TA?si=Q6HDU6yQnYDbT7HE
『シコふんじゃった。』に続いての周防正行監督作品。相撲から、今度は社交ダンスです。周防正行は新鮮な題材を見つけてくるのが上手ですね。社交ダンスムーブの火付けにもなりました。アメリカでも200万人の動員、興行収入950万ドルという大ヒットです。これはアニメ映画を除いて、当時の日本映画の興行収入記録のベストでした。ハリウッドでもリメイク(『Shall we Dance? シャル・ウィ・ダンス?』(2004年))されるほど有名な作品なので、観たことある人も多いと思います。
真面目な中年サラリーマン(役所広司)が、通勤中に見かけた美しいダンス教師(草刈民代)に惹かれ始めた社交ダンスの魅力にハマっていく・・・というあらすじ。趣味を見つける楽しさと、中年のアイデンティティ・クライシスみたいなものを同時に描いた作品です。個人的には『シコふんじゃった。』の方が面白いかなと思いましたが、それは単に自分の年齢がそっちに近いからかもしれません。
主人公の同僚かつ社交ダンス教室の生徒として当時する竹中直人が、『シコふんじゃった。』と同じ役名の“青木富夫“として出演しているのが面白い遊び心です。
オススメ度:☆☆☆☆
好み:☆☆☆
○第21回受賞作『もののけ姫』(1997年)
スタジオジブリ、宮崎駿監督作品。『風の谷のナウシカ』(1984年)、『となりのトトロ』(1988年)、『紅の豚』(1992年)とこれまでもヒットはありましたが、本作は日本の歴代興行記録を塗り替えた(配収111億円)超ヒットで、ジブリの名声と評価を磐石のものにした映画です。
この記事が例によって長くなって来たのと、『もののけ姫』に関しては本当に誇張なしに全員が観たことがあると思うので、あらすじなどは割愛します。金曜ロードショーでも何十回もやってますけど、つまりはそれだけ普遍的に面白い映画ということですよね。自然と人間の対立、そして共存というテーマがおよそ完璧な形で結実した作品で、どの世代でも、未だに ジブリといったら『もののけ姫』だよねという方は多いんじゃないでしょうか。
オススメ度:☆☆☆☆☆
好み:☆☆☆☆
○第22回受賞作『愛を乞うひと』(1998年)
ヒット・シリーズ「学校の階段」で知られる平山秀幸監督作品。2017年には、篠原涼子主演でドラマ版のリメイクがありました。
この年は、北野武監督の『HANA-BI』が、ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞(最優秀賞)を受賞したことが大きな話題になりました。これは、黒澤明監督の『羅生門』(1950年)、稲垣浩監督(1958年)『無法松の一生』以来の快挙です。
また外国映画にはなりますが、『タイタニック』が日本で公開されたのもこの年で、当分は破られないだろうと思われた前年の『もののけ姫』の興行収入をさくっと塗り替えてしまいました(配収160億円)。
『愛を乞うひと』について。夫を早くに亡くし、今は娘と二人で暮らす昭恵(原田美枝子)は、ある時、父親違いの弟が捕まったという報せを受ける。久しぶりに再開した弟との面会で蘇るのは、母からの痛々しい虐待の記憶で・・・というお話。
原田美枝子が母親と成長した娘の一人二役を演じているのが印象的で、3代にわたる親子(母娘)の愛を描いた映画です。なかなか見るに堪えないような、かなりドキツい虐待の描写があるので、そういうものが苦手な人、トラウマがある人は注意して下さい。
虐待のシーンがもう少しでも長かったり、露悪的だったりると、ただ胸糞悪いだけの映画になって仕舞いそうですが、そのあたり非常に優れたバランス感覚で成り立っている作品だと思います。「愛を乞うひと」というのは母のことであり、そして自分のことでもあるため、それを同一人物が演じるというのも、実験的なだけでなく、必然性が感じられます。まったく事なる性格の人物を演じ分ける、原田美枝子の演技は凄まじいですが、この映画を支えているのは、野波麻帆演じる娘(深草)の健康的な大らかさであるかもしれません。
オススメ度:☆☆
好み:☆☆☆☆
○第23回受賞作『鉄道員(ぽっぽや)』(1999年)
降旗康男監督作品。直木賞を受賞した浅田次郎の短編集から50ページほどの短い一篇を、高倉健主演で映画化したもの。そういえば第一回の『幸福の黄色いハンカチ』、第五回の『駅 STATION』に続いてまた北海道ですね。こんなに寒いところが似合う男もいないでしょう。東映では19年ぶりの主演です。
鉄道員(ぽっぽや)一筋で、今は北海道の幌舞線(ほろまい)の終着駅の駅長を務める佐藤乙松(高倉健)。 誠実だが不器用で、感情を表に出すのが苦手な彼は、ただ仕事に一生懸命に、幼い娘を亡くした日も、愛する妻を亡くした日も、ぽっぽやとして駅に立ち続けてきた。そんな定年間近の孤独な鉄道員に、小さな奇跡が訪れる・・・。
時系列操作のある映画で、回想シーンはモノクロというかセピア色、妻の静枝(大竹しのぶ)が着るベストだけが赤く映ります。良くも悪くも退屈で、静かな作品です。キャストも豪華で、酔っ払い役として、志村けんさんの最初で最後の映画出演も観られます。
オススメ度:☆☆
好み:☆☆
⬛︎2000年代〜
○第24回受賞作『雨あがる』(2000年)
山本周五郎の短編を下敷きにして黒澤明が書いた脚本の遺稿を、長らく助監督を務めてきた小泉堯史督が映画化したもの。「この映画を黒澤明監督に捧げる」と冒頭にもあります。上映時間は91分で、46作品の中だといちばん尺の短い作品になります。
話のあらすじ。武芸の達人でありながら、優しすぎるが故に仕官として出世できない三沢伊兵衛(寺尾聰)は、その妻のたよ(宮崎美子)とあてもなく旅をしている。ある日、若い武士同士の果たし合いの仲裁をした伊兵衛は、殿様に見初められ、藩の剣術指南番に任命されるが・・・。
前年のヴェネツィア国際映画祭でもそれなりに好評(緑の獅子賞)だったみたいで、まぁ海外でこういう作品がウケるのはわかるんですが、清く正しく美しい、無欲の優しき武士、これが日本人の心だ、みたいなのがステレオタイプすぎてつまらかったですね。正直、取り立てて面白いところが一つもないです。
この年はヒット作と呼べるようなものがなく、興行収入ベスト5も、「ポケモン」「ドラえもん」「コナン」などの安定したアニメ作品に集中しました。大島渚監督の『御法度』をはじめ、時代劇映画の公開ラッシュなどはありましたが、総合して、映画業界全体が奮わなかった迷走の年ですね。
オススメ度:☆
好み:☆
○第25回受賞作『千と千尋の神隠し』(2001年)
第21回の『もののけ姫』に続いて、スタジオジブリ、宮崎駿監督作品。日本映画史上の全ての記録を塗り替える、興行収入304億円という驚異的な大ヒット作です。これは、この年の東宝の興収の半分以上、東映と松竹に関していえば、年間興収全てを足し合わせても追いつかないという、とんでもない数字でした。
『もののけ姫』同様、あらすじ等は割愛しますが、何度観ても、いつ見ても、誰が観ても、新しい発見と感動がある映画ですね。世界でも高く評価され、第75回のアカデミー賞長編アニメ映画賞、ベルリン国際映画祭金熊賞、アニー賞など、名だたる章を受賞しました。
コロナ禍では、「一生に一度は、映画館でジブリを。」という企画があって、劇場で再上映がかかっていたんですが、あれ毎年やってほしいですね。
オススメ度:☆☆☆☆☆
好み:☆☆☆☆☆
○第26回受賞作『たそがれ清兵衛』(2002年)
第1回の『幸福の黄色いハンカチ』、第15回『息子』、第17回『学校』に続いて四度目の山田洋次監督作品。藤沢周平の短編小説3編を原作とした、監督初の本格的な時代劇です。また、この年の日本アカデミー賞では全部門にノミネートされ、助演女優賞以外の各賞を総なめにしました。米国アカデミー賞の外国語映画部門にもノミネートされ、海外での評価、人気も高い作品です。
舞台は幕末の庄内地方。早くに妻を亡くし、二人の娘と耄碌した母をもつ井口清兵衛(真田広之)は、務めが終わると飲みの誘いも断ってそそくさと家に帰る。黄昏時に帰宅するその様子を見て、同僚からは「たそがれ清兵衛(せえべえ)」と呼ばれる彼だが、幼なじみを救ったことから剣の腕が噂になり、上意討ち(罪人を討つ役)の討手に選ばれることに・・・というストーリー。
奥ゆかしい心を持ち、控えめで謙虚だけど、腕は確かな武士。お金はないけど、家族で手を取り合って幸せだ。もうこれは好みだと思いますけど、『雨あがる』然り、そういうのってある種のファンタジーに見えちゃって、あんまり入り込めないんですよね。だってそんな人間いないじゃないですか。「武士」という共通の分かりやすいイメージに、日本人の幻想を投影してるだけというか、押し付けがましいというか。
でも、 真田広之のカッコよさ、宮沢りえ(朋江)の凛とした佇まいの美しさは堪能できる一本だと思います。
オススメ度:☆☆☆☆
好み:☆☆
○第27回受賞作『壬生義士伝』(2003年)
浅田次郎の同名小説を滝田洋二郎監督が映画化したもの。主人公の吉村貫一郎を中井貴一が、語り部である斎藤一を佐藤浩市が演じます。音楽はジブリ映画や北野映画で名を知られる久石譲です。沖田総司役で、ブレイク前の堺雅人も出演しています。
時代は幕末の混乱期。盛岡・南部藩を出た吉村貫一郎は新撰組に入隊する。剣の腕は抜群の彼だが、自身の命と金に、武士とは思えぬ執着を見せる。しかし、それには深いわけがあって……というお話。
ほとんど回想で進むんですが、モノローグが冗長で、後半は特にひどい有様です。「まことの侍であった」とかわざわざ台詞にして言わせてるのってどうなんでしょうか。終盤もお涙頂戴が行き過ぎて寒いだけ。白けます。ナレーションが説明的で過剰なのは『たそがれ清兵衛』もそうなんですが、それが可愛く思えるレベルです。俳優さんたちはいい演技をしていますが、ハッキリ言って駄作です。世間の評価に騙されないでください。
オススメ度:☆☆☆
好み:☆
○第28回受賞作『半落ち』(2004年)
佐々部清監督作品。『雨あがる』に続き、主演は寺尾聰。アルツハイマー病の妻を嘱託殺人で手にかけ、自首してきた現役警部の梶だが、犯行から自主までの2日間の動向については頑なに口を割ろうとしない。それは一体何故なのか・・・という話。
妻を演じる原田美枝子をはじめ、國村隼、樹木希林、西田敏行、高島礼子、吉岡秀隆、柴田恭兵と、脇を固めるキャストが豪華。また、白血病で骨髄移植を受けた青年役として、まだ若い頃の高橋一生が出演しています。
話の核になっている「真相」が映画的には弱いっていうのと、作品がこちらに求めてくる熱にいまいち乗り切れないのがあって、結構重いテーマを扱っているのに、つまんない2時間ドラマみたいな仕上がりの微妙な作品です。原作はたぶんいいんだと思います。似たような題材だったら、ミヒャエル・ハネケ監督の『愛、アムール』(2012)をオススメします。
オススメ度:☆☆
好み:☆
○第29回受賞作『ALWAYS 三丁目の夕日』(2005年)
昭和30年代を舞台にした西岸良平の人気漫画を、山崎貴監督がCG技術(VFX)を使って映画化したもの。第23回の『鉄道員(ぽっぽや)』、前年の『半落ち』など、作品賞受賞作に、ちょくちょく出演していた吉岡秀隆が主演を務めます。
東京オリンピックを目前に控える昭和33年。大手自納車会社への就職を夢に見て上京してきた六子(堀北真希)だったが、認識違いから、小さな自動車修理工場「鈴木オート」で働くことに。一方、その工場の向かいに住む売れない小説家の茶川竜之介(吉岡秀隆が)は、ひょんなことから身寄りのない少年を預かることになり・・・というあらすじ。
テレビで何回もやってるし、有名な作品なので、既に観たことある人が多い映画だと思います。夕日町三丁目という下町で暮らす人間たちの人情溢れる群像劇です。自分は世代もあってか、「昭和」という時代に対する思い入れや郷愁がないのと、主人公にあまり好感が持てないのとで、そんなにハマれませんでした。今も色々なところで流れますが、音楽は印象的ですごくよかったです。
オススメ度:☆☆☆☆
好み:☆☆
○第30回受賞作『フラガール』(2006年)
李相日(リ・サンイル)監督作品。いわき市に出来た「スパリゾートハワイアンズ(常磐ハワイアンセンター)」誕生の実話を基にして作られた映画で、たびたび舞台化もされています。この年は、21年ぶりに、年間興行収入のシェアで日本映画が外国映画を上回りました。日本アカデミー賞の司会を南海キャンディーズの山ちゃんが務めて話題になったのもこの年のことです。映画の方にはしずちゃんが出演しています。
昭和40年、舞台は福島県いわき市の炭鉱町。石油の時代を迎え、石炭工業は衰退の一途を辿る。そこで、町の復興を図るため、「ハワイアンセンター」を新設の案が浮かぶ。その目玉は「フラダンスショー」。東京か招かれたプロの講師(松雪泰子)と共に、炭鉱町の娘たちは一流のダンサーに育っていく・・・。
映画に出てくる平山まどか先生というのは実在の人物で、公開当時も70歳ながら現役で、実際の指導に関わっているようです。今みると流石にちょっと古いですが、素材は新しく、老若男女広く楽しめる作品です。李相日監督というと、『悪人』(2010年)とか『怒り』(2016年)とか、最近だと『流浪の月』(2022年)とか撮った監督で、シリアスなイメージなんですけど、これは結構コメディ寄りですね。
オススメ度:☆☆☆☆
好み:☆☆☆
○第31回受賞作『東京タワー、オカンとボクと、時々、オトン』(2007年)
ベストセラーになったリリー・フランキーの同名小説を、脚本:松尾スズキ、監督:松岡錠司(「深夜食堂」シリーズの監督)の布陣で映画化したもの。私小説的な作風の映画で、主人公ボクをオダギリジョーが、オカンを樹木希林が演じます。
酒癖の悪いオトンに手を焼いたオカンは、幼いボクを実家に連れ帰り、女手ひとつで育て上げることを決める。美大に通うために東京に上京したボクだったが、自堕落な生活でオカンには迷惑をかけてしまう。仕事で食っていけるようになった頃には、オカンは末期ガンに患っていて・・・というお話。
自伝小説が元になっているので、映画の方も結構淡々とした感じです。1960年代で、九州の小倉(筑豊)の炭鉱町で育ったというのは、奇しくも、時代や背景が前年の『フラガール』と重なります。142分という上映時間は若干長く、つまらなくはないんですが、特別面白くもないです。作品賞受賞も疑問ですが、日本アカデミー賞は日テレ主催で、日テレ出資の映画なので、まあ、という感じ。あと東京タワーそこまで関係なくない?っていうのもありますね。オカンの若年期は、実の娘である内田也哉子が演じています。
オススメ度:☆☆
好み:☆☆
○第32回受賞作『おくりびと』(2008年)
滝田洋二郎監督作品。本作は国内外で高い評価を受け、第81回アカデミー賞外国語映画(現国際長編映画賞)、第32回モントリオール世界映画祭最優秀賞作品賞を受賞しました。
第24回の『羅生門』(黒澤明)、第27回の『地獄門』(衣笠貞之助)、第28回の『宮本武蔵』(稲垣浩)と、米国アカデミー賞の名誉賞の受賞は今までもありましたが、1956年の第29回に「外国語映画賞」と名前が改められてからは、日本作品で初となる快挙です。
所属していた楽団が解散し、チェロ奏者の道を諦めることになった小林大悟(木本雅弘)は、妻の美香(広末涼子)とともに故郷の山形へと帰る。新しい職を求める彼が見つけたのは、“納棺師“という馴染みのない仕事だった・・・。
いつしか穢れ(ケガレ)として共同体から排された人の死。日常にありながら非日常な、その"死"というものに真っ向から向き合い、故人の旅立ちを支えるのが「おくりびと」の仕事です。また、他人の「死」と直面する中で、自ずと主人公である大悟も、自分の人生を見つめ直していきます。
周りの人の偏見がちょっと極端かなとは思うんですが、個人的にもっくんの演技が好きなので、若干贔屓目で観てしまいますね。監督が同じなのに、『壬生義士伝』をイマイチに感じたのは、脚本の問題なんでしょうか……。音楽は、久石譲が担当しています。
オススメ度:☆☆☆☆
好み:☆☆☆☆
○第33回受賞作『沈まぬ太陽』(2009年)
山崎豊子の大河小説を、202分という長尺で映画にした大作。2016年には上川隆也主演で2シーズンに分けてドラマ化もされています。映画は、メディアの仕掛け人として知られる徳間康快が熱望した企画を、彼の死後に、角川歴彦が製作総指揮となって完成させたものです。
大手航空会社で労働組合の上役を務める恩地(渡辺謙)だったが、あまりに活動に力を入れすぎた結果、上層部の反感を買い、ついには懲罰人事でアフリカに左遷されることに。やがて会長が変わり、帰国した彼だったが、そこで待っていたのは、日本史上最悪の航空機墜落事故だった・・・。
日本航空は「国民航空」と名前を変えられていますが、わかる通り、御巣鷹山の日本航空機123便の墜落事故が基になった映画です。その対応に追われる現在のシーンと、過去回想がシームレスに切り替わるので、時系列に注意が必要です。
上からの権力や企業内闘争によって人生を翻弄される男たちのプライドの話で、長さもあるので、面白く観られる人とそうでない人にキッパリ分かれると思います。あと原作があれだけ壮大なだけに、長い割には若干駆け足な感じが否めません。
オススメ度:☆☆
好み:☆☆
⬛︎2010年代〜
○第34回受賞作『告白』(2010年)
『下妻物語』(2004年)で鮮烈な印象を残した中島哲也監督作品。湊かなえ原作、松たか子主演のサスペンスです。公開当時、母親がDVDを借りてきて、食い入るようにテレビを観ていたのをよく覚えています。そういう衝撃的な内容の、結構ショッキングな映画です。
とある中学校の終業式。担任を務める女性教師森口悠子(松たか子)は、自分の娘である愛美(芦田愛菜)が、クラスの生徒によって殺されたことを告白する。そして彼女はその去り際に、犯人生徒の牛乳に、HIV患者の血を混入させたことを告げる・・・。
愛娘を失った教師(森口悠子)が、騒ぐ生徒たちに滔々と語りかけるシーンから始まって、最後まで息もつかせぬ展開が続きます。『化物語』ほか「物語シリーズ」を観たことがある人は分かると思うんですが、カメラアングルやカットや演出が、アニメ制作会社のシャフトっぽいんですよね。『化物語』の放送が2009年なので、絶対何かしら影響を受けてると思います。気になる人は両方観てみてください。
ほとんど全編モノローグ形式で、まず教師の視点、生徒の視点、犯人生徒、その母親の視点と、“告白“する者が次々と移り変わるのが特徴的で、なんで注射器扱えんの?とか、捕まらないの?とか、ツッコミどころはいくらでもあるんですが、言ってしまえば娯楽小説、娯楽映画なので、そこら辺はあんまり気にせず楽しみましょう。
オススメ度:☆☆☆☆
好み:☆☆☆
○第35回受賞作『八日目の蝉』(2011年)
角田光代のベストセラーを、成島出監督が映画化したもの。サスペンス調のヒューマンドラマで、実話に基づいた話でもあります。娘役を演じた井上真央は最優秀主演女優賞を、血の繋がらない母親(野々宮希和子)を演じた永作博美は、最優秀賞助演女優賞を獲得しました。
母親になることが叶わない絶望から、野々宮希和子は不倫相手である会社の上司夫妻の娘(恵理那≒薫)を誘拐し、わが子として育てることを決意する。希和子の逮捕後、実の両親の元に戻った恵理那だったが、育ての母が誘拐犯であったことを知り、心を閉ざしたまま成長する。やがて21歳になった恵理菜は妊娠するが、その相手もまた家庭を持つ男だった・・・。
映画は、現在の大きくなった秋山恵理那視点と、誘拐犯で育ての親である野々宮希和子の4年間の逃避行とを、交互に展開します。前半は鬱々とした展開が続くものの、後半は一転、あっけらかんとした明るい描写も多いです。恵理那と千草(小池栄子)の、普通の友情ともシスターフッドともつかないような、不思議な糸で結ばれた2人の関係が、とても尊いものに思えます。中島美嘉の歌う主題歌「Dear」もいいです。
オススメ度:☆☆☆
好み:☆☆☆
○第36回受賞作『桐島、部活辞めるってよ』(2012年)
朝井リョウのデビュー作であり、小説すばる新人賞の受賞作でもある同名小説を、吉田大八監督が映像化した作品。青春群像劇の傑作です。今をときめく売れっ子俳優たちが、生徒役として数多く出演しています。
ある金曜日の放課後、バレー部のスター選手である“桐島“が、部活を辞めるというニュースが駆け巡る。桐島の彼女も、親友も、誰もその理由がわからない・・・。
いわゆる「不在の中心」ものと呼ばれるジャンルで、ヒッチコックの『レベッカ』(1940年)や、エリック・ロメールの『飛行士の妻』(1980年)、邦画だと佐藤祐市監督の『キサラギ』などと似たような系譜の作品になります。小説は生徒5人の名前を冠した短篇のオムニバス形式なんですが、映画ではそこを曜日の章立にし、1つのエピソードを複数視点で描くという形に再構成しています。小説も映画もどちらも完成度が高く、初めて観た時からずっとお気に入りの作品です。高橋優の主題歌「陽はまた昇る」も元気を貰えます。
ちなみに、ポスタービジュアルの神木隆之介は映画部の部長の役(前田涼也)は、全く桐島ではありません。 感想は一言二言とか言いながら、結局2万字を超えてしまったので、ここからはさくさくと行きます。
オススメ度:☆☆☆☆
好み:☆☆☆☆☆
○第37回受賞作『舟を編む』(2013年)
三浦しをん原作、本屋大賞受賞の同名小説を、石井裕也監督が映画化したもの。2016年にはアニメ化もされ、また2024年の2月からは、NHKで連続ドラマの放送が決まっています。
玄武書房に勤める馬締光也(松田龍平)は、営業部で変わり者扱いされている。一方、辞書編集部の荒木(小林薫)は定年を迎える自分の代わりとなる社員を探している。荒木に言語感覚を買われ、編集部に引き抜かれた馬締は、これまでにない新しい辞書「大渡海」の編纂に没頭していく・・・というお話。
まず、馬締光也(まじめみつや)という名前が面白いですね。その行き過ぎた真面目さを、説得力を持って演じられる松田龍平の演技も素晴らしいです。脇を固める宮崎あおいやオダギリジョーも魅力的で、淡々としながらドラマチックで、それでいてクスッと笑える秀作だと思います。
オススメ度:☆☆☆☆
好み:☆☆☆☆
○第38回受賞作『永遠の0』(2013年)
百田尚樹のベストセラーを、山崎貴監督が映画化した作品。自分も中学生の時にある先生に猛烈に薦められて原作を読んだ記憶があります。その時に、自分は世間の感覚とあんまり合わないんだなというのを強く実感しました。小説は、同じく映画化され、アカデミー賞を受賞した浅田次郎の『壬生義士伝』の昭和版オマージュを意識して書かれたそうです。
あらすじ。祖父と同じ弁護士を目指すも、司法試験に中々通らず進路に迷う佐伯健太郎(三浦春馬)。ある日、彼と姉(吹石一恵)は、自分たちに血縁上の実の祖父がいることを知る。その祖父は、太平洋戦争末期、“悪魔“と呼ばれたゼロ戦のパイロットにして、仲間から「臆病者」と罵られる男だった・・・。
実の祖父:宮部久蔵を岡田准一、その人となりを探る健太郎を三浦春馬が演じています。当時を知る元兵士の語り部を通して戦争を回顧するという形で、とても観やすい構成です。演出はよく言えば分かりやすく、悪く言えば大味です。
娯楽映画としてはよく出来ていて、面白いと思いますが、ロボットというスタジオが作る「感動的」な作品は、『ALWAYS 三丁目の夕日』しかり、『STAND BY ME ドラえもん』(2014年)しかり、だいたい全部大袈裟で、どこか嘘くさいんですよね。この映画の中でも、暴雨の中に突っ立って、大事な資料をびちょびちょに濡らしてしまうという結構笑えるシーンがあります。あとは好みの問題なので、こういうヒット狙いの作品の全部を否定する気はないですが。
オススメ度:☆☆☆
好み:☆
〇第39回受賞作『海街diary』(2015年)
是枝裕和監督作品。 マンガ大賞を受賞した吉田秋生のコミックが原作です。アカデミー賞の最優秀賞作品賞は、第33回の『沈まぬ太陽』からここまで、原作ありの映像化作品の受賞が連続しています。
あらすじ。鎌倉の家で暮らす3姉妹のもとに、父親の訃報がとどく。15年前、家族を捨て、家を出ていった父親。その葬儀で、姉妹は腹違いの妹(広瀬すず)と対面する。母親を亡くし、寄る辺のない彼女に対し、長女の幸(綾瀬はるか)は、鎌倉で一緒に暮らさないかと提案をもちかける・・・という話。
関係的には、腹違いの妹(浅野すず)は、父親を奪った女性の娘で、因縁があるわけですね。そうい歪な関係の中で、段々と絆が育まれて行く様子を、端正なカメラで捉えた映画です。話の起こりにしてもそうですが、この作品は何気に「葬儀」というのが重要なファクターになっています。
さすがに、綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すずのメインキャスト陣は豪華ですが、是枝監督作品の中では可もなく不可もなくといったころでしょうか。海の近くのこういう家に、仲のいい何人かで住めたらいいなあという理想が募ります。
オススメ度:☆☆☆
好み:☆☆☆
〇第40回受賞作『シン・ゴジラ』(2016年)
「エヴァンゲリオン」シリーズで知られる庵野秀明が総監督を務めた作品。『ゴジラ FINAL WARずS』(2004年)以来、12年ぶりの東方によるゴジラ映画です。本作は主人公という主人公がおらず、言うなれば「行政」が主人公となり、ゴジラに立ち向かっていくのが特徴的。ポスト震災時代の新しいゴジラ映画で、原発問題を暗示するようなシーンもあります。
東京湾の羽田沖で、アクアトンネルの崩落事故が発生。首相官邸では緊急会議が開かれる。事故の原因を探る中で、巨大生物による破壊の可能性が浮上するが、まさにその頃、謎の巨大生物が上陸し、街を破壊し始める・・・。
優秀な官僚と、専門家の知識を集結してゴジラを迎え撃つというのが、戦いというより災害シュミレーションといった感じで面白いです。変態してモデルチェンジするのもいいですね。
2016年は他に、『君の名は』や『この世界の片隅に』の大ヒットがあった年で、その爆発的なブームはSNSの口コミによって広がった(特にインディーズ作品である『この世界の片隅に』は)というのを抑えておきたいです。
オススメ度:☆☆☆☆☆
好み:☆☆☆☆
〇第41回受賞作『三度目の殺人』(2017年)
『海街diary』に続いて、二度目の是枝監督作品。福山雅治、吉田鋼太郎が弁護士を、広瀬すずが被害者社長の娘を、そして掴みどころのない犯人の役を役所広司が演じます。
殺人の前科のある三隅(役所広司)は、解雇された工場の社長を殺害し、強盗殺人の容疑をかけられる。犯行を自供しており、死刑はほぼ確実。弁護士としてなんとか無期懲役に持ち込みたい重盛(福山雅治)は、三隅について調べるうちに、今回よ事件について段々と違和感を覚えるように・・・というお話。
人が人を裁くことの難しさや、供述をコロコロと変える容疑者、映画的には「信頼できない語り手」に対する司法システムの脆さと危うさを描いた作品です。法廷映画として観ると、弁護士や検察官のリアリティが面白いんですが、釈然としない終わり方をするので、ミステリーやサスペンスだと思って観ると期待外れかもしれません。個人的には是枝監督の中でも結構好きな作品です。
オススメ度:☆☆☆
好み:☆☆☆☆☆
〇第42回受賞作『万引き家族』(2018年)
またしても是枝監督作品。2年連続で同一監督の作品がアカデミー賞の最優秀賞作品賞を受賞するのは初のことです。また本作は、第71回カンヌ国際映画祭のパルム・ドールほか、アジア映画大賞、セザール賞など、多くの賞を受賞し、高い評価もって迎えられました。
東京の下町に住むわけありの5人家族。彼らは万引きなどの軽犯罪を繰り返しながらなんとか生活している。ある日、スーパーで万引きをした帰りの治(リリース・フランキー)と息子の祥太は、ゴミ箱を漁る幼い少女の姿を見つける・・・。
万引きの常習犯である彼らが、虐待を受けた子どもを万引きし、擬似家族を築き上げていくという物語です。血縁を超えた家族の絆、抑制の効いた演出、俳優や子役たちの自然な演技、細野晴臣の静かながら強い存在感のあるトラック。そのどれもが素晴らしく、息苦しくも、監督の優しさを感じる作品です。ある「正しさ」によって人を断罪することの難しさを描いているという点では、どこかで『三度目の殺人』と似ているところがあるのかもしれません。
オススメ度:☆☆☆☆
好み:☆☆☆☆
〇第43回受賞作『新聞記者』(2019年)
東京新聞記者の望月衣塑子によるベストセラーを原案とした作品で、実際の事件を題材にしたセンセーショナルな映画です。同じ監督(藤井道人)の下、Netflixでドラマ化(世界同時配信)もされています。そちらは米倉涼子主演ですが、正直、ドラマの方がまだ面白いです。
あらすじ。外務省から異動して、葛藤を抱えながらも、内閣情報調査室のエリート官僚として働く杉原(松坂桃李)。一方、新聞社で働きながら真実を追う吉岡。やがて、ある「闇」に気づいた二人の人生は、奇妙な形で交差する・・・。
社会派の映画は結構好きなんですけど、これはあんまり面白くなかったですね。現政府を支持しているわけじゃないけど、マスコミ(メディア)だって同じくらい忖度ばっかりだし、別にそんなにいいもんじゃないだろという疑問が湧いてきます。プロパガンダの批判は、結局また別のプロパガンダでしかないわけですから。主人公の吉岡をシム・ウンギョンが演じる必然性もいまいちピンと来ませんでした。
オススメ度:☆☆
好み:☆☆
⬛︎2020年代〜
〇第44回受賞作『ミッドナイトスワン』(2020年)
草彅剛主演、内田英治監督作品。女性として生きるトランスジェンダーの主人公と、バレエの才能に目覚める少女の、親子のような愛を描いた物語です。
故郷の広島を出て、新宿のニューハーフショークラブに立つ凪沙(草彅剛)。ある日、彼女は育児放棄にあっていた親戚の子ども(一果)を預かることに。初めは養育費目当ての凪沙だったが、生活を共にし、孤独を共有する中で、擬似親子は次第に心を交わしてゆく・・・というお話。
主演の草彅剛の演技が素晴らしいです。外見だけではなく、佇まいや眼差しで、本当に母親の見える瞬間があります。チャコイコフスキーの「白鳥の湖」に準えた、「朝が来れば白鳥に戻ってしまう なんとも悲しい」という老人の台詞が象徴的で、どこかうら寂しさが残る作品です。
オススメ度:☆☆☆☆
好み:☆☆☆
〇第45回受賞作『ドライブ・マイ・カー』(2021年)
村上春樹原作、濱口竜介監督作品。第94回アカデミー賞で国際長編映画賞(旧外国語映画賞)を、ゴールデングローブ賞・英国アカデミー賞では外国語映画賞を、そしてカンヌ国際映画祭では脚本賞を受賞しました。また、『偶然と想像』でもベルリン国際映画祭の銀熊賞を受賞し、濱口竜介監督がその力量を示すと同時に、映画界を席巻した年でした。
舞台俳優で演出家の家福(西島秀俊)は、妻である音と幸せに暮らしていた。しかし、その妻は、秘密を残したまま突然亡くなってしまった。それから2年が経って、家福はある演劇祭の演出を手がけることに。その送り迎えを担当する寡黙なドライバー(三浦透子)との交流の中で、彼は自分と妻の関係を見つめ直して・・・というストーリー。
真紅の車が、画面内の"ここしかない"というポイントにバッチリと収まる。これだけでもう映画的な感動が満たされる。『トニー滝谷』(市川準監督, 2004年)、『ノルウェイの森』(トラン・アン・ユン監督, 2010年)『バーニング 劇場版』(イ・チャンドン監督、2018年)と、村上春樹原作の映像化はこれまでもいくつかありましたが、今のところこれが一番上手くいっているんじゃないでしょうか。そしてそれはおそらく、濱口監督の"ニュアンスを抜く"という演出の方法論が、村上春樹作品特有の登場人物の無感情さや乾いた感じにうまいこと合致しているからだと思います。ドライバー役の三浦透子と妻を演じる霧島れいかの女性二人が特によかったです。
オススメ度:☆☆☆☆
好み:☆☆☆☆☆
〇第46回受賞作『ある男』 (2022年)
平野啓一郎の同盟ベストセラーを、石川慶監督が映画化したもの。弁護士である城戸を妻夫木聡、依頼者である里枝を安藤サクラ、里枝の夫「大祐」を窪田正孝が演じます。
弁護士の城戸は、昔の依頼人谷口里枝から、亡くなった夫の身元調査を頼まれる。彼女は、「大祐」の兄から、夫が素性を偽っていたことを聞いたのだという。「大祐」じゃないなら、里枝の夫は一体誰だったのか。その“ある男“の正体に迫る中で、城戸もまた複雑な思いを胸に募らせてゆく・・・
ミステリー調ではありますが、話の核はその真相ではありません。「本当の自分」ってなんだろうとか、自分として生きるってどういうことだろうとか、そういう人間のアイデンティティや出自に関わる問題が主題です。平野啓一郎らしいテーマと言えばそうかもしれません。静かに緊張感漂う映画で、いい意味で邦画っぽくないというか、欧州の映画みたいな印象を受けます。妻夫木聡と柄本明の面会シーンをはじめ、キャストたちのとても演技も魅力的です。
オススメ度:☆☆☆
好み:☆☆☆☆
✱ ✱ ✱
おわりに
ここまで、最後は少し駆け足で、46本分の作品賞受賞作を観てきましたが、気になる作品はあったでしょうか。 46本もあれば、きっと一本くらいは心に残る映画があるはずです。
日本アカデミー賞は、米国アカデミー賞の95本に比べると観やすいですし、例えば、またこの人脇役で出てるなとか、今だったらこれは誰が演じる役なんだろうとか、そんなあれこれを考えながら観るのも楽しいと思いますので、機会があったら是非、全部観るというのにチャレンジしてみてください。その時に、この記事の内容が少しでも参考になれば幸いです。
それではみなさん、良き映画ライフを。そして良いお年を。
【おまけ】個人的ベスト5 /ワースト5
■ベスト5
最後までありがとうございます。