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マーケットメイクの導入がもたらすIEOの可能性

はじめまして、Fintertechの徳です。
2023年10月からFintertechに入社いたしました。担当は、デジタルアセット事業の営業企画に加えまして、Web3関連の新規事業を調査しております。Fintertech入社前は、暗号資産交換業者においてトレーディング業務に従事しておりまして、まずはみなさまへのご挨拶エントリーと調査中のテーマ「Initial Exchange Offering(以下、IEO)」につきまして記事にさせていただきます。

記事の本編へ入る前に、担当しているサービスについてご案内いたします。よろしければ、サービスサイトをご覧ください。

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デジタルアセットステーク(消費貸借)のサービスサイトは、以下になります。


今回の記事では、最近のIEOの動向について整理し、IEOビジネスへ本格的に動き出す暗号資産交換業者(以下、交換業者)の動向についても記載します。その上で、IEOの課題を整理し、今後の可能性についても考えてみたいと思います。


1.交換業者のIEOビジネス参入と直近IEOの動向

IEOとは、様々な企業や団体が暗号資産トークンを発行し、交換業者がそのトークンを売り出し、取引所や販売所の取扱銘柄として上場する新しい形態の資金調達手法です。2021年7月に日本初のIEO案件「パレットトークン(PLT)」が実施されました。それ以降、2022年に1件、2023年に2件のIEOが行われ、これまでのIEOは合計4件です。(2023年10月現在)

最近では、IEOの実施決定に関するプレスリリースだけでなく、IEOの検討を開始する旨を含むプレスリリースが増えてきました。このように、交換業者がIEOビジネスに参入する動きが見られる背景には、暗号資産市場の時価総額減少や取引量減少により、利用者の取引に関連した交換業者の収益水準の低下があると考えられます。

では、交換業者が本格的にIEOビジネスに参入した際、今後のIEOはどのような方向に進んでいくのか、直近で実施されたIEO「ニッポンアイドルトークン(NIDT)」を踏まえて整理していきます。

① 「NIDT」初の複数交換業者かつマーケットメイク導入のIEO

直近のIEO「ニッポンアイドルトークン(NIDT)」は、これまでのIEOとは異なり、複数の交換業者「coinbook」と「DMM Bitcoin」にて売り出しが実施され、取引開始日も2023年4月26日の同日に設定されました。今回注目するのは、これら2社がそれぞれ取引所方式と販売所方式の異なる形式を中心に行っている交換業者であるという特徴です。具体的には、「coinbook」は取引所方式中心の交換業者として取引プラットフォームを提供し、一方で「DMM Bitcoin」は販売所方式専業の交換業者としてマーケットメイカーの役割を果たしたと考えられます。特に、これまでのIEO取扱い交換業者の中に販売所方式の交換業者がないため、マーケットメイクを導入した初めての事例となりました。

② IEOの流動性とマーケットメイクについて

このマーケットメイクを導入した事例の前に、まず流動性について考えます。流動性とは、市場において売買取引がスムーズに行えるかの程度を指します。流動性が高いと言った場合、多くの売買注文が入ることにより、利用者が”希望する金額及び数量”の取引が、”希望するタイミング”で、安定的に行える環境を表します。また、この流動性を高める行為を、「流動性を供給する」と表現します。

さらに、マーケットメイクについても解説します。マーケットメイクとは、市場の流動性を高める仕組みの一つです。このマーケットメイクは、一般的に市場へ買いと売りの注文を発注しつづける行為をすることで、結果的に市場へ流動性を供給します。このマーケットメイクを行っている市場参加者のことを、マーケットメイカーと呼びます。IEOは、取引が開始されたばかりの市場です。したがってIEOの流動性は、BTCやETHのような大型暗号資産の流動性に比べ、流動性が低いことが想定されます。

以上の内容を踏まえ、マーケットメイカーの導入という視点で「NIDT」の事例を整理していきます。

③ マーケットメイカーに期待される役割と価値向上

「NIDT」の事例は、IEOの中で予定販売総量に達しなかった唯一の事例であり、取引開始前の利用者獲得ができていない状況でした。したがって流動性の観点では、IEO事例の中でも、流動性が相対的に低い状況の取引開始となることが想定されました。その中において、取引所機能を有する「coinbook」と、販売所機能を有する「DMM Bitcoin」がそれぞれの強みを活かした組成をおこないました。この事例を受けて、マーケットメイカーとしての期待される役割が明確になってきました。取引所と販売所のそれぞれの役割と一緒に整理したいと思います。

まず、「coinbook」は、取引所として市場を形成するプラットフォームを提供します。また、取引所を運営する交換業者として、市場の公平性を維持するために、利用者による不正取引の監視を担当します。
一方、「DMM Bitcoin」は販売所として、取引所の流動性では受け止めきれない利用者の成り行き注文の需要を吸収する役割をしました。さらに、カバー先として取引所を利用することにより、実質的なマーケットメイクの役割を担いました。その結果、利用者が相対的に少ない中においても、市場機能の維持に貢献しました。

上記のような、取引所と販売所の役割に加えて、「株式会社オーバース」は発行体として交換業者2社と連携し、市場の取引状況に基づいたトークン価値の向上策を企画できます。そして、その企画を3社のメディアを通じて効果的に情報公開し、マーケットイベントに昇華しました。取引開始から様々な課題を抱えながらも、結果的に現時点では売り出し価格を超えた価格で推移しています。

ここまでは、「NIDT」の事例を通して、複数の交換業者が参加するIEOについて、それぞれの役割について見てきました。しかし、その中で浮き彫りになった課題も存在します。以降で、その課題ついても見ていきます。

2.IEOに関する今後の可能性

ここでは、複数の交換業者が参加するIEOの事例により、改めて認識された課題について見ていきます。また、その課題と解決策を検討した上で、IEOに関する今後の可能性について探ってみたいと思います。

① 複数参加型IEOでも課題は残る

もっとも浮き彫りになった課題は、マーケットメイカーが流動性供給に尽力したとしても、取引所の流動性に依存してしまうことは避けられないということです。今回の「NIDT」においても、この課題が表面化しました。具体的には、販売所において利用者の買い取引に制限が設けられました(売り取引は正常に行われました)。これは、利用者による買い取引の需要が、取引所の流動性を大幅に超過したため、マーケットメイカーを担う販売所の流動性供給や成り行き注文機能の許容範囲を超えた結果だと考えられます。

加えて、マーケットメイカーの観点でも課題が改めて認識されました。上記のような、取引所の利用者が少ない状況では、マーケットメイカーの役割を悪用される可能性があり、市場の透明性についても検討が必要です。この点については、一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会が2023年9月26日に公表した「IEO制度改革の方向性の初期案」の中にも記載があり、IEO取扱い交換業者がマーケットメイカーを行うことに課題があると整理されています。「IEO制度改革の方向性の初期案」では課題の一例として、”引受業者がマーケットメイクをする場合、インサイダー取引への該当性の観点から、実現性について議論が必要”と指摘をしています。

では、この取引所の流動性と透明性の問題を解決するには、どのような方策が考えられるでしょうか。

② 取引所の流動性と透明性の問題を解決するには?

取引所の流動性問題を解決するためには、IEOを同時に取扱う取引所の数を増やすことが考えられます。複数の取引所がIEOを実施することで、流動性が高まると期待できます。さらに、複数の取引所が参加する場合には、お互いの取引所に生じた乖離を調整する機能が必要です。この役割を果たすのがマーケットメイカーです。したがって、複数の取引所が参加する場合には、より一層マーケットメイカーの役割が重要となります。

また、マーケットメイカーの観点で取引所の透明性問題を解決するためには、適切なマーケットメイカーの参加基準を設けることが考えられます。例えば、交換業限定のライセンス制度とすることや、マーケットメイカーを採用する取引所毎の審査により選定することが想定できます。これにより、マーケットメイカーが取引所へ参加する際の、利用者に対する透明性を高める効果が期待できます。

その上で将来的には、複数の取引所とマーケットメイカーが連携し、3社以上の交換業者が同時にIEOを実施する、大型コンソーシアム組成案件が登場する可能性があります。これにより、2社以上の取引所方式の交換業者と、1社以上のマーケットメイカー機能を持つ販売所方式の交換業者の流動性を統合し、より大型のIEOの取り扱いが可能となるでしょう。

最後に

今回の記事は以上になります。ここまで、ご覧いただきありがとうございました。Finertechでは、Web3への取り組みを強化しています。今回のテーマとして取り上げました「IEO」についても調査を進めております。このテーマに限らず、業界関係者のみなさまと連携を進めていければと思っておりますので、ご興味がありましたら是非ご連絡をいただけますと幸いでございます。また、今後も情報発信を進めていければと考えておりますので、Fintertechのフォローと記事へのスキをいただけますと大変励みになります。