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『生きる力』を育てる金融教育

「Fintech研究所 瀧の対談シリーズ」第14回目をお届けします。

現代社会を生き抜くために不可欠な「お金の知識」。価値観が多様化し、さまざまな金融サービスなども登場するなか、学校や家庭ではいかにして子どもたちの「お金の知識」を育んでいくべきなのか。そうした課題感のもと、マネーフォワードではこれまでも、様々な金融教育に関する活動を行ってきました。
今回は、2022年8月に開催した「親子で金融教育を考えよう!夏休みマネーアカデミー」にて、保護者・教育関係者向けセッションにご登壇頂いたリクルートのスタディサプリ教育AI研究所の小宮山さんをゲストに、これからを生きるために必要な「金融教育」の背景にある課題や可能性について更に深掘りしてお聞きしました。
ファシリテーターをたてた対談形式で、小宮山さんと瀧のディスカッションをお送りします。

小宮山利恵子(こみやま・りえこ)
株式会社リクルート スタディサプリ教育AI研究所 所長
1977年、東京都生まれ。早稲田大学大学院修了。衆議院、ベネッセ等を経て、2015年に現リクルート入社。『スタディサプリ教育AI研究所』所長の他、東京学芸大学大学院育学研究科准教授、東京工業大学アドバイザー、超党派国会議員連盟「教育におけるICT利活用促進をめざす議員連盟」有識者アドバイザー、経団連EdTech戦略検討委員会座長などを兼務する。高校生のひとり息子の子育て中。


お金の稼ぎ方は生きる上での必修科目

―公立高校での金融教育の必修化(2022年度)をはじめ、今世の中で金融教育が必要とされてきています。
お二人はその理由についてどのように考えてらっしゃいますか?

瀧俊雄(以下、瀧):金融教育の基礎となるのは「自分らしいお金の稼ぎ方」です。現代の日本社会は、一人ひとりが自分に合った「お金の稼ぎ方」を探し出し、生涯設計していく必要があります。金融教育はそんな状況の一助になるという背景で注目されてきているのではないでしょうか。 

いわゆる団塊ジュニアの世代までとは状況が変わってきているのですよね。
それまでは、お金を稼いで安定した人生をおくるための「レール」のようなものがありました。義務教育の時期は塾に通い、高い偏差値の大学に合格し、名の知れた大企業に入り、退職金と年金を得て老後を過ごす。といったような生涯設計です。
しかし現代は、この「レール」を実現するシステムが維持できなくなってきています。

 大企業も終身雇用を維持するのが難しく、年金の受給額も不透明。ではどうすれば個々人で資産形成できるのか。
その思考を身につけるために、「お金の稼ぎ方」を軸に資産形成を学ぶのが「金融教育」だと考えています。

小宮山利恵子(以下、小宮山):これまでは「お金の稼ぎ方」が、会社に勤めるか自営業をするか、という2パターンしかありませんでした。けれど、現代はその先でかなり枝分かれしていきますよね。
SNSを駆使して個人として社会的認知を高めて収入を得る人もいれば、仮想通貨やNFTで資産を増やす人もいる。稼ぎ方、使い方、資産形成の方法も含めて総合的に学ぶ機会が必要になってきていると感じます。テクノロジーはどんどん進展しているので、学ぶのも一度きりではなく、学び続ける習慣をつけることが大切ですよね。

我が家では、息子が小学生の頃から株を教えています。例えば清涼飲料水だったり、家電だったり、自分の身の回りにあるモノをつくっている会社の株を購入して社会の動きと株の動きの関係性を肌で感じる習慣をつけてもらうんです。 

こういう話をすると「小さい頃からお金の話なんて」と驚かれてしまうのですが。(笑)
この社会を生きていく上でお金について詳しく知ることは重要だと考えています。そういった意味でも2022年度に高校で始まった金融教育の必修化は大きな一歩だと思います。 

日本では未だにお金のことを話すのが恥ずかしい、どちらかといえば悪いことという風潮が強いのですが、例えばフィンランドでは、20年以上前から金融教育の取り組みが進んでいます。
ある学校では、家庭で出たレシートを子どもたちが持ち寄り、そこに書かれている消費税の使い道や生活費との関係性について学ぶ授業があるそうです。 

以前、家庭での金融教育の一環として、息子に日当を払ってレシートの整理と家計簿への記帳をお願いしたことがあります。そうすることで、どんなお金の流れで日々の生活が営まれているか、学びになると考えたんです。レシートの整理はかなり大変だったようで、これを終えた息子からは「これじゃ薄給だ」と言われてしまいました。(笑)

瀧:小宮山さんのご家庭での教育の話はいつも面白いですね。(笑) しかしながら、体験学習的に「お金の稼ぎ方」の話まで早い段階からご家庭でできているのはすごいなと思いました。
金融教育の軸は「お金の稼ぎ方」だとお話しましたが、その次に「稼いだお金をどう運用するのか」という資産形成の話が出てきます。
そういう意味では自分の稼ぐ力や生きる力に対する投資、つまり自己投資を金融教育の文脈でしっかりと考える必要があると考えています。

小宮山:そうですね。体験を通した学びも教育も、株式の投資と同じように長期的な目線で向き合うことが大切です。
私は母子家庭で、親族に誰も大学卒業者がいない環境で育ちました。
しかし母親は「学ぶことで機会が広がる」と私に伝え続けてくれて、それを信じて大学院まで進むことができ、いまがあります。教育に投資をすると、後に花開くことを身をもって体験しました。
教育現場でも家庭でも、学びが投資であるという教育をしていくことは大切ですね。

自分の歩む道を自分で見つけるために必要なアクションとは?

小宮山:自己投資においても「これさえやっておけば間違いない」という絶対的な正解が存在しない時代において、自分と向き合い、いったい自分が何に興味を持っているのかを感じ取ることの重要性が増してきていると感じています。
自分が見聞きした情報の中で、自身の心に触れたものに反応してアクションを起こし、実体験を通してインプットをする。その経験を元に思考して更なるアクションに繋げる。そうした繰り返しをすることで自分の歩む道は、自ずと見つかっていくのだと思います。これも重要な自己投資の形ですよね。

瀧:本当にその通りだなと感じます。
ポイントは頭で考えるだけではなく、実際に手を動かしたりリアルな体験に移すことですよね。
コロナ禍以降、リモートワークが一般化して利便性を感じている一方で、リアルで接触する身体性を伴ったコミュニケーションの“深さ”は、リモートではなかなか再現できないなと感じています。 

実際に当社では、チーム内で信頼関係を築いたり、アイデアを発想したりするためには直接会って話すことが重要だと捉え、勤務制度をアップデートしました。

小宮山:自分の思考を形作る情報がインターネットの情報だけでは、どうしてもすぐにコモディティ化してしまいますし、なかなか思考が広がりませんからね。
五感を使って得た体験に基づく情報こそ、「自分らしいお金の稼ぎ方」を築く源泉になる。このことは今後も揺るがない事実ではないでしょうか。

瀧:情報ですらないものを価値として捉えることも大事ですよね。
情報はAIでも処理できるものなので、人間がそれを取り扱う価値はどんどん下がっていきます。昨今話題の生成系AIでも、身体性を伴ったカオスなデータを処理する力はまだありません。人と話している時、実は噛み合ってないのにフィーリングやその場の雰囲気で笑い合えたりできるのは、人間が「不条理」を処理できるからだと思います。
エラーや失敗も許容して、自分の財産にしながら前進できることにこそ、人間が力を発揮できるのではないかと最近は考えています。

失敗を学びと捉える文化が、一人ひとりの可能性を育む

―失敗を許容しながら、手を動かす習慣はどのように作るのが良いと考えていますか?

小宮山:多くの人は失敗をすごく大きいものだと捉えてしまっているのだと思います。だからこそ、チャレンジに対して足がすくんでしまう。失敗を自分で許容できる機会を作ることが大事ですよね。

瀧:私には4歳になる娘がいるのですが、おもちゃのブロックを上手く組み立てられないと大泣きするんです。それでも1カ月後には成長して上手くできるようになるわけです。私がそのことを褒めると、娘は1カ月前に自分が苦労していたことさえ忘れていて、とても誇らしそうにドヤ顔をするのですよね。(笑)
人間が失敗に対して強い拒否反応を感じながらも、いつか乗り越えて糧にできる生き物であることを、子育てを通して感じています。 

小宮山:誰もが最初は失敗に対して拒否感を持つものだと思います。だからこそ、小さいチャレンジから始めてみるのが良いのかもしれません。
私は以前、自宅や会社の最寄駅から1つ手前の駅で降りて歩いてみたりして、通勤ルートを毎日少しずつ変えるということをしていました。そうすると、見たことのない景色や知らないお店など、新しい発見があってすごく面白いんですよね。道がわからなくて迷ってしまうこともあったのですが。(笑)
これは些細なチャレンジの一例ですが、「何か違う出来事が起きても大丈夫」という心の余裕が育まれたと感じました。 

瀧:マップアプリは便利なので、私もなかなか手放せません。これがなぜかというと脳の可動域が減って「気持ちよく」なるからなんですよね。
目的地を入れるだけで、一瞬で最短ルートを導き出してくれるわけですからね。
一方で、小宮山さんのように通勤ルートを変えて自力で考えながら歩くとなると、変化に対応しなくてはならないため脳は疲れます。
ただ、脳を使って動くとマップアプリとは違った達成感という「糧になる気持ちよさ」を得られますよね。
このタイプの気持ちよさを知るとチャレンジもどんどん面白くなるのかもしれません。

小宮山:去年始めたダイビングもそういったチャレンジの一つかもしれません。本当に素人なので最初は怒られてばかりなのですが、まったく苦にならなかったんですよね。(笑) 純粋に自分の成長を楽しむという気持ちもあるのですが、トレーニング段階できちんと身を持って失敗しておくことで、命に関わる大きな失敗をしなくなるんです。
まずは小さいことから新しいチャレンジをして、失敗することを繰り返す。そのどこかで小さい成功を一つ一つ積み上げる。そうすると視界が徐々に開けて、可能性が広がっていくのだと思います。

瀧:本当にそのとおりですね。
これはどちらかというと、大きいチャレンジの話にはなるのですが、私自身は「起業する」という経験が自分の可能性を大きく広げることに繋がったと思います。
会社員として働いていて、ずっと同じマインドセットで生きていこうと思っていたのに、実際に起業すると決めてそれを行動に移してからは、完全に思考が切り替わったんです。
事業を起点に、どうすれば社会に貢献できるか、収益を得て生き延びることができるか。それを当事者として考え抜き、実現に向けて尽力する。そうした経験を通して主体的に本質を見抜く力が自然とついたように思います。 

小宮山:本質を見抜く感覚を養うには起業するのが最も手っ取り早いですよね。
いま高校生の息子は、中学生当時「高校生になったら起業したい」と話していました。早い印象を持たれると思うのですが、学校教育を受けているうちから起業することについて学んだり、実際に経験する機会があるのも良いのではとも思います。自身で経験するしないの差は非常に大きいですからね。また、何歳からでもチャレンジできるという可能性を伝えるのも大切だと思っています。

さいごに

―最後に、各社で今後取り組んでいきたい金融教育について教えてください。

瀧:大なり小なり、チャレンジの前提には生活や心が安定していることが重要だと思っています。
そのためにも、家計簿アプリ『マネーフォワード ME』のサービス提供を通して、社会全体の金融リテラシーの向上に貢献し、個人のファイナンシャルウェルビーイングを高め続けたいと考えています。

収入と支出を可視化するだけでも、じわじわと意識や行動に変化を促します。日々の体重を記録するレコーディングダイエットに近い効果です。
やはり数値が望ましく無い方向に進み続けると、自然と軌道修正をしようとする気持ちが芽生えるのですよね。その数値を知るためにも、まずは「見える」ようにする必要があるのです。 

創業当初は、家計簿アプリにどれほどの需要があるのか、自分たちですら半信半疑だったのですが、ありがたいことに今では1,400万人を超えるユーザーの皆さんと、サービスを共創し続けることができています。
お金にまつわる不安を解消できるサービスの提供を通して、
たくさんの人がチャレンジできる土台を築いていければと考えています。

小宮山:不確実な社会で生き抜くために、リクルートでは新しい価値を作れる人を育む取り組みを行っています。その1つとして高校生版のアントレプレナーシッププログラム「高校生Ring」の提供をはじめました。高校生にはお題を与えることはなく、自由な発想でアイデアを考えてもらいます。受賞者の希望次第ですがグランプリを獲得したサービスアイデアは、事業化まで伴走することを目指しています。
実際に手を動かして、社会実装する経験をしてもらうことで、本質的な物の見方やオリジナリティのある思考を養い、起業家人口を増やしていきます。

今のこどもたちと接すると、社会人の我々では及ばないほどマインドセットが進化していると感じています。そうした未来の可能性に私たちもしっかり投資して、不確実な時代をもっとワクワクする方向へ進めていきたいですね。

―本日もとても貴重なお話をありがとうございました!

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