見出し画像

【スタンダード】青黒ゾンビ②―瞬く快楽疑似Suicide―【深紅の契り】


不浄なる契りを結べ―

イニストラード:真紅の契り/Innistrad: Crimson Vowは、スタンダード用のエキスパンション。2021年11月19日発売。
キャッチコピーは「己がなるものを恐れよ/Fear What You Become」「不浄なる契りを結べ/Join in Unholy Matrimony」。
シンボル:コウモリと牙
略号:VOW
コードネーム:Club
発売日 MO、Arena:2021年11月11日
紙:2021年11月19日
セット枚数:全277種類

MTG Wiki

紅蓮の園と朽ちる廃

前回に引き続きイニストラードが舞台の「イニストラード:深紅の契り(以下VOW)」でも当然ながら大量のゾンビが収録された。
しかし、ゾンビの色自体は青黒から変化していないものの、アーキタイプが「腐乱」から「濫用」へと変化している。(そのせいでかなりの弊害が出てしまっているのだが…)
現在のスタンダードセットではブロック制は廃止されているため、あくまでもたまたま同じ次元が舞台というだけなのである。
ただし一応開発の際には「真夜中の狩り」も意識して作られているらしい。

濫用と云ふは死ぬことと見つけたり

濫用(らんよう)/Exploit はタルキール龍紀伝で初登場したキーワード能力。クリーチャーが持つ、それが戦場に出たときに誘発する誘発型能力であり、濫用したときに誘発する他の誘発型能力と共に持たされている。

MTG Wiki

キーワード能力としては、「濫用(このクリーチャーが戦場に出たとき、あなたはクリーチャーを1体生け贄に捧げてもよい。)」を意味する。
基本的には、その後に「○○○(カード名)がクリーチャー1体を濫用したとき~」と文章が続き、対応した効果が記されている。
ポイントとしては、
戦場に出たときに誘発(濫用するかしないか=クリーチャーを1体生け贄に捧げるかどうか)
②濫用した(生け贄に捧げることを選んだ)場合、それに対応した効果が誘発
というように、2段階に分けて効果が誘発するという点である。
そして今回、濫用を持つクリーチャーはすべてゾンビである。
つまり…

終身名誉ゾンビ

「イクサラン:失われし洞窟」で登場した《うろつく玉座》でゾンビを指定することにより、それぞれ2回誘発するようになり、最大で4倍の効果を得られるのだ!(スッゴォ~~イ)

文章だけだと直感的に理解しにくいかもしれないので、具体的な例を用いて説明するとしよう。ここでは、濫用するたびにゾンビトークンを生成する効果を持った《髑髏スカーブ》を使用する。

可能性の塊

戦場に《うろつく玉座》がいて、(トークンでない)クリーチャーを2体コントロールしているとする。その状態で《髑髏スカーブ》を戦場に出すと
①《髑髏スカーブ》の「濫用a」が誘発する
→《うろつく玉座》の効果によって追加で「濫用b」が誘発する
②スタックの順番に従い「濫用b」を処理する
→生け贄に捧げることを選択した場合、《髑髏スカーブ》の「濫用するたびゾンビトークン1体を生成する」が誘発する
《うろつく玉座》の効果によって追加でもう1体ゾンビトークンが生成される(合計2体のゾンビトークンが生成される)
③同様に「濫用a」を処理する
→ここでも生け贄に捧げることを選択した場合、②と同様に2体のゾンビトークンが生成される。
④すべての処理が終了する。
(まとめると、濫用が2回誘発し、濫用1回につき2体のゾンビトークンが生成されるため、最大で4体のゾンビトークンを生成することが出来る

このコンボを利用することでとんでもない爆発力を得ることが出来る!!!!


…のだが、このコンボには致命的な欠陥があり(これは後述する)、結局のところ《厄介者、ギサ》と《肉大工、ゲラルフ》の効果に頼ったほうがまだ安定するし爆発力もあるということで不採用の運びとなった。

最強ゾンビ列伝

その①《過充電縫合体》

最強ゾンビといっても過言ではない

ありとあらゆる呪文どころか誘発効果さえも濫用によって打ち消してしまえる上、3/3飛行のクロックを残せるとんでもない汎用性を持つゾンビ。
効果の性質上、瞬速を持っているので相手の攻撃宣言時に唱えブロッカーとして小粒のクリーチャーを打ち取ったり、終了ステップに唱えて単純に飛行クロックとして使うなど、濫用をしなくてもほぼ腐ることがないという点が最大の強み。
単純な打ち消し呪文と違い、テンポを犠牲にすることなく使っていけるので3~4枚投入しても土地さえ引ければ腐ることはないだろう。
欠点としては4マナという打ち消し呪文として見ると重いコストと、青ダブルシンボルという色拘束か。とはいえ、そこは工夫次第でどうにかなる部分だろう。むしろ、濫用コストが確保できるかが重要となる。(最悪自身を濫用しても良いが、いくらなんでも効率が悪すぎる)
濫用のなかで唯一《うろつく玉座》との相性が良くない1枚。(打ち消し効果が2回誘発しても使用できる場面が非常に限られてくる)

その②《不吉な棘刺し》

黒らしい効果だね

こちらは単純に手札アドバンテージを稼いでくれるゾンビ。
本体のスペックとしても3点クロックと接死があるので攻めるデッキに向いている。
ただやはり現代ではタフネス2だと非常に簡単に除去されてしまうので、壁役として使うのは不向き(ちょうど《切り崩し》の圏内でもある)。3マナのクリーチャーにしては脆い点がアンコモンといったところだろうか。
《うろつく玉座》コンボの応用でフィニッシュ手段としても十分に使える。
最大4回の誘発で8枚ドロー+8点ライフロスできるので不意打ちとしては成功しやすい。(当たり前だが仕留めきれなかった場合はとんでもないことになるので注意しよう)
ライフが許容できるなら自分に使っても良い。4枚ドロー+4点ライフロスくらいなら実用的な範囲に収まる。
《二重屍》もあれば16枚ドロー+16点ライフロスというロマン砲となる。
キメてみたいぜ!

実は見たことない

その③《先見的な縫い師、ゲラルフ》

自分はゾンビじゃないんだけどね

ついにゾンビデッキが抱える長年の弱点「飛行持ちが極端に少ないため飛行が止められない」を克服できるやつがやってきた!!!!
(ただし統率者では一足先に同様の効果且つゾンビのカードが出ている)

「真夜中の狩り」統率者デッキより。こっちはマナコストが重め。

数を並べやすいゾンビデッキが相手のブロッカーを飛び越えてライフを詰めることが出来るようになるのだ!
本体もタフネス4あってかなり頑丈。ただし《切り崩し》には要注意。
もう一つの効果はクリーチャーを生け贄にゾンビを作り出す能力。
青1マナと非常に軽いのでサクリファイスエスケープとして使いやすい。
自身は人間なので《うろつく玉座》の恩恵は受けられない(そもそも誘発効果がない)が、《首無し騎手》を横に置いておくことで一気にゾンビトークン量産することが可能となる。

この死亡誘発はゾンビデッキじゃないと使えないよ

弱点は多くの伝説クリーチャーが抱える複数枚採用しづらい部分と、パワーが1しかないためクロックとしてカウントできない点。まあこれはほとんど戦闘しないため問題とならないだろう。
自分は飛行を持たないのでうっかりフルパンしてカウンターを食らわないように気を付けよう。(自戒)
ちなみに、何らかの効果でゾンビになれば自身も飛行を持つようになる。

その④《二重屍》

全ゾンビユーザー待望のエンチャント

《終わりなき死者の列》【令和最新版】のようなエンチャント(ちょっと違うけど)。
ゾンビが戦場に出るたびにコピートークンが生まれる。(唱えたときではないのがポイント)
唱えてもリアニメイトしても踏み倒しても誘発するのでとても使い勝手が良い。
物量で押す戦法が得意なゾンビデッキとしてはこれ以上ないくらい優秀なエンチャントと言える。

…ただ一つの欠点を除けば。

その欠点とは、ズバリこれが戦場に出ただけでは何も起こらないという点。
4マナというコストは許容範囲内とはいえ、最速4ターンで設置してもそのターンは何もしていないのと一緒というのは、高速化した現代MTGにおいてあまりにも悠長過ぎる。後攻だとさらに悲惨である。
他のフォーマットでは有効に使える手段があるかもしれないがスタンダードにおいてはかなり厳しい現実と言えるだろう…
ついでにいうとそもそもコピーして嬉しいゾンビがそんなにいないという点もある(これは二重屍が悪いわけではないが)。
余談だが、全フォーマットで検索するとマナコストが低いゾンビほど優秀で高コストほど微妙になる傾向が見受けられた。ちょうど3マナを閾値にして実践向きではない効果のゾンビが増えてくる。(3マナ域にロードが集中しているせいだろうか?)

その他注目のカード達

《スレイベンの大グール》

地味にクレリックサポートも受けられるよ

ゾンビが死亡するたびに諜報っぽいことが行えるゾンビ。しかもゾンビカードなら手札に加えることが出来る。
死亡するゾンビはトークンでもよいので攻撃すると死亡する腐乱とも相性がよく、並べやすさとも相まって効果が誘発する機会は多いだろう。
弱点はやはりタフネスが2と低い点。
まあアンコモンに色々求めるのは酷だが、パワー3なのに安心して殴りにいけないのが少し勿体ないスペックだ。
ゾンビ諜報(?)も運任せなので沢山めくっても手札が増える保証がないという部分が安定性に欠ける。
ライブラリ60枚のうち30枚近くをゾンビクリーチャーにしたとしても単純計算で50%程度でしかない。
ちなみにこれも《うろつく玉座》の恩恵を受けることが出来る。

《首無し騎手》

スリーピーホロウにそっくり

先ほども紹介したが、ゾンビが死ぬたびゾンビが出てくる《グールの行進》をクリーチャー化したような効果を持ったゾンビ。
当然トークンでは反応しないので腐乱とはシナジーがない
さらにゾンビでないと誘発しないのでデッキのクリーチャーをゾンビで固めないといけない。まあそれは当然の事なので気にしなくてもよい。
今回のゾンビに与えられたアーキタイプである濫用とシナジーがあり、生け贄で失ってしまうボードアドバンテージをある程度回収してくれるありがたい存在。複数体並べることが出来ればそれぞれ誘発するのでゾンビが死んだのにゾンビが増えたという不思議なことが起こる。
当然《うろつく玉座》との相性は最高で、恐ろしい勢いでゾンビを増やすことが出来るのでぜひともキメてみたいコンボだろう。
やはり弱点はタフネスの低さ
2ですら低いと言われる現代でたったの1しかない。
《スレイベンの大グール》でもそうだったが、本人が攻撃に参加する意味がないのにやたらと前のめりのスペックなのはいったいどういう事なのだろうか。一応自身が死亡してもゾンビトークンが出るとはいえこれは余りにも頂けない。パワータフネスを逆にしてちょうどよい感はある。
対コントロールデッキで、これを置いておくことでこちらのゾンビに疑似的な全体除去耐性を持たせることができた…のだが《告別》や《太陽降下》などよく使われる全体除去が「追放」なので効果が誘発せず、とてもツライ。

《髑髏スカーブ》

アルケミーではトークンでもアリになった。最初からそうしろ!

濫用を持つが濫用したときの効果を持たないとても珍しいクリーチャー。
代わりに、他のクリーチャーが非トークンクリーチャーを濫用するとゾンビトークンを生成する効果を持つ。もちろん自分自身の濫用でも誘発する。
先ほどの《首無し騎手》と同様、濫用で生じる損失をカバーしてくれるナイスガイ。濫用される方はゾンビでなくても反応するためゾンビでないクリーチャーも採用できるが、濫用でないと反応しないのでそこは一長一短がある。どちらにしてもゾンビを大量に採用しないといけない点は共通。
もちろん両方採用することで一気に大量のゾンビを生成することも可能。
その場合、生け贄となるゾンビが必要だが…
《うろつく玉座》コンボの核となる存在。
狙っていくなら4枚投入は必須だろう。

濫用が抱える問題点

濫用した時点でディスアドバンテージ

そもそも濫用=クリーチャーを一体生け贄に捧げるなので当然その時点で損失が生じる。ならば当然それに見合ったスペックが求められるわけだが…
クリーチャー自体も平均的なものばかりだし、濫用した場合の効果もアドバンテージに直接つながるようなものが少ない。
加えてクリーチャーのETB効果である以上サクリファイスエスケープのようにも使うことが出来ない

腐乱との相性が致命的に良くない

腐乱はデメリットを持つ代わりに生成しやすいという特徴をもつ。
ということは濫用コストにぴったり…と思いきやそうもいかないのである。
VOWのゾンビのテーマは「墓地利用」であり、トークンクリーチャーではボーナスが生じないものが多く、(一応)墓地のカードを利用する効果を持つものも多いので腐乱ゾンビではシナジーが生じないのである。
まあそれでも単体で使う分には腐乱をコストにしても問題はないが…

そもそも濫用自体が強くない

元も子もないが、そもそも濫用したときの効果が大して強力ではない
除去やドローがしたければ最初からそういう呪文を使えばいいだけである。
一応クリーチャーが残せるという利点はあるが、ETB効果で強力なものが増えている昨今、コストを払ってまでするようなことではない。

めちゃめちゃ下準備が必要

結論としてはこれに尽きるのだが、《二重屍》にしろ《うろつく玉座》にしろそれらを設置して維持した上で濫用のためのコストを準備し、かつ濫用クリーチャーを唱えてようやくコンボが決まる。
そこまでやっても即勝利できるわけでもないのでアグロデッキには速度で負け、コントロールには妨害でパーツが落とされ、ミッドレンジにはクリーチャーの質で負ける。色々試したが、結局のところこちらも妨害を大量に搭載し、相手の有効札を枯らしたうえで動き始めるのがよいという結論になった。ならば「悪事」に振ったほうが安定もするというもの。
使っていて楽しいのだが、現実は非情なのだ。

まとめ

カードパワーが控えめな現スタンダード内の前半において、特にカードパワーが低い印象のあるVOW。
期待の濫用もうまく使いこなせないままローテーションを迎えようとしている。濫用に関する効果を持つカードがあるのはこのセット内だけなので《髑髏スカーブ》を使おうとすると構築が限定的になりやすく、構築の幅がかなり制限されてしまうのが難ありだった。それでも何とかして使いたかったのだが、ついにその日は来なかった…
それでも俺は!《墓所の冒涜者》を救いたい!

こいつが一番やばい

最後までお読み頂きありがとうございました。
次回は「神河:輝ける世界」の予定です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?