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まえがき

つい先日、僕は三十歳の誕生日を迎えた。



思い返せば、
二十代半ばの頃は三十代が大きな壁に阻まれた

「向こう側」

という印象があり、

ある時は、

誰かの落書きの的になり、

ある時は、犬の便所代わりになっているその壁を、

どうにかよじ登らなくてはいけないのだと思っていた。


見えない向こう側を恐れていたのかも知れない。

ただ、現実はあまりに淡々としていた。

日付が変わる瞬間、

僕は上野の居酒屋で用を足していた。

壁に貼られたポスター(井川遥の顔全体に落書きが施されていた)と

見つめ合いながら、

その時を迎えたのだ。


壁の目の前に立ち、

「よし」

と、大きく助走をつけて走り出した僕を

あざ笑うかのように壁は

己の意志で崩壊したのだ。


崩れた瓦礫で足をくじかないように、

最新の注意を払い、その「向こう側」に足を踏み入れた。


振り向けば、

先程助走をつけた際に付いたであろう足跡が

鮮明に記録されている。

僕は、用を足しながら、自分に

「おめでとう」

と言った。

今の僕にとっては二十代が

「向こう側」になるわけだが、

向こう側とこちら側の景色にさほど差なんてものはない気がする。

いや、まったく同じともいえるかもしれない。

とすれば、

先にある四十代の壁の向こう側もおそらく同じなのではないのか、

と思う。

その先も、さらにもっと先も・・・



景色を変えることなど果たしていまの僕にできるのだろうか。

その答えをいま見つけることはできない。

これからの自分に委ねるしかない。


noteを勧めてくれた友人に感謝すると共に
僕の創作活動を始めたいと思う。
萬造寺竜希

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