古典を読む 目標①

「烏に反哺の孝あり」

 何晏は、「家」のなかでも最大のものである国家の地ひびきをたてて崩壊していくすさまじいありさまを、身近に感じながら育った、典型的な乱世の子だったといわなければならない。(中略)いわば、かれは、不孝者になるように運命付けられていたのだ。

花田清輝(1977).『随筆三国志』.第三文明社(p199)

 花田清輝が何晏を介して提示した、知識人の姿とは何かを考える。儒教的な規範である孝から距離をとり、たとえ家の安泰を図る年齢に至ったとしても、いわゆる儒者への転向をしなかったことが、何晏を自由人たらしめていると説く。その論旨を理解するために、思いきって西洋の思想史と結びつけて検討する。
 西洋思想の根底となる古代ギリシアの哲学を学ぶ。つぎに、丸山眞男が西洋と日本の政治を比較した際に提示した、中性国家の概念をつなげる。  
 明治期の知識人は、西洋の思想における”民主主義”や”自由”を、東洋の古典に見出すことで近代日本にリベラリズムを定着させることを目指した。鹿野政直は、自由民権運動を理論的に支えた中江兆民の著作を読むとき、「東洋」ということばが、文明開化期における旧弊のイメージを払拭し、民主主義と独立という市民の意志を内に秘めた文化的な概念として扱われていることに注目する。

 西洋思想の移植にあたっての東洋の知的土壌の重視という思考がはたらいていました。「リベルテー・モラル」を、『孟子』にある「浩然ノ一気」に比定するところに、そのような思考がみられます。(中略)彼は、「西洋」を超える普遍的な「理」としての自由民権を構想しつづけたことになります。

鹿野政直(2000).『近代日本思想案内』.岩波書店(p74)

 文明開化期の文献、自由民権運動期の文献を調べ、戦後社会における花田清輝の評論を読みなおす。古典を読むとき、過去の事跡を鮮やかに再現する姿勢を身につけることを目標とする。

 以下に、参考となりそうな本棚の書籍をメモする。渡辺義浩氏による『論語集解』の翻訳が早稲田大学出版より刊行されている。こちらは新たに購入する。

・藤田省三(1975).『転向の思想指摘研究——その一側面——』.岩波書店
・家永三郎(1969).『革命思想の先駆者—植木枝盛の人と思想—』.岩波書店
・色川大吉(1991).『民衆史 その一〇〇年』.講談社
・色川大吉(1994).『明治精神史 上下巻』.講談社
・北村透谷(1997).『北村透谷選集』勝本清一郎校訂.岩波書店
・小室信介(1991).『東洋民権百家伝』林基校訂.岩波書店
・河野健二(1984).『中江兆民』(日本の名著 36).中央公論社
・丸山眞男(2002).『増補版 現代政治の思想と行動』.未来社
・松永昌三(2001).『福沢諭吉と中江兆民』.中央公論社
・森有礼他(2010).『明六雑誌 上中下巻』山室信一・中野目徹校注.岩波書店
・坂野潤治(2005).『明治デモクラシー』.岩波書店
・斉藤忍随・他(1985).『哲学の原型と発展 哲学の歴史1』(新・岩波講座 哲学14).岩波書店
・植木枝盛(1974).『植木枝盛選集』家永三郎編.岩波書店

参考文献
・花田清輝(1977).『随筆三国志』.第三文明社
・鹿野政直(2000).『近代日本思想案内』.岩波書店

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