第38話 凡人ですけどね

 君と出会わない方が、私の人生は上手くいっていた。君を責めたいわけじゃない。こんなのはただの事実だ。
 君を太陽に例えるのは陳腐だと以前言ったんだけれど、それからほどなくして私は、とある英雄の話を思い出した。イカロスとか言っただろうか。海外の神話か何かだったと思うんだけれど、太陽に近づきすぎて羽が融け、海に墜落して死んでしまった英雄の話。
 恐らくは悲しい話、身の程を知らない人間への教訓として成立している訓話なのだと思うのだけれど……私は、少し思うところがある。君のせいで人生がおかしくなった私だから言えることが。
 英雄は、必ずしも後悔していない。
 だって私がそうなのだ。君のせいでどれだけ苦しく焼けただれても、結果として君さえ失っても、私は君がいない人生を肯定できない。君のいた人生を、否定できない。
 君がいなきゃよかったなんて。
 私は英雄じゃない。
 だが、太陽に近づきすぎた者として――太陽を否定することは、ない。

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